【構造分析】なぜ西側は「安価なドローン」に経済的に敗北するのか? ──「攻勢防衛」という唯一の解と、それが選べない4つの理由
ロシアと西側の覚悟に疑問があったので
結論の後に追記補足。
はじめに:前回の振り返り
指向性エネルギー兵器の戦術的限界と非対称戦における戦略的転換に関する考察 ―対ドローン防衛における「迎撃」の経済的敗北と「発生源断絶」への回帰―
及び
「在庫処分」の終焉と産業構造的敗北:ウクライナ支援の経済的・物流的総括
この2つの記事では、西側諸国が直面している「経済的な詰み」について分析しました。要点は以下の2点です。
* 生産の敗北:
西側の「高性能・高コスト(フェラーリ型)」な兵器生産は、東側の「低性能・大量生産(家電型)」のアプローチに対し、コストパフォーマンスで圧倒的に劣勢であること。
* 唯一の解(攻勢防衛):
安価なドローンの飽和攻撃を防ぐ物理的・経済的な唯一の正解は、迎撃することではなく、「発射される前に工場や基地を物理的に破壊する(発生源を断つ)」ことであること。
論理的な結論は出ています。「蛇口を閉めればいい」のです。しかし、現実には西側はその蛇口に手をかけることができていません。
なぜ、分かっていながら「元栓」を閉められないのか? 今回はその構造的な理由を深掘りします。
なぜ西側は「元栓」を閉められないのか?
「敵基地や工場を叩けば終わる」という軍事的な最適解を実行に移せない背景には、民主主義国家特有の4つの「構造的拘束具」が存在します。これらは兵器の性能ではなく、国家運営のシステムに起因する問題です。
1. リスク許容度の非対称性(「即死」対「緩慢な死」)
最大の問題は、戦争に対する「覚悟」の基準値がズレていることです。
* ロシア側(生存闘争):
彼らはこれを「国家存亡をかけた総力戦」と定義しています。そのため、核の使用をチラつかせたり、自国経済を犠牲にしたりするハイリスクな選択肢を躊躇なく取れます。
* 西側側(限定紛争):
あくまで「局地的な紛争」であり、自国の生存がかかっているわけではありません。
この温度差において、西側の指導者は「エスカレーション管理」という呪縛に囚われます。敵領土内の工場を直接叩けば、戦争がNATO全体に波及し、第三次世界大戦(=国家の即死)を招く恐れがある。
そのため、論理的には負け戦(コスト敗北)だと分かっていても、「とりあえず破産するまで金を払い続ける(緩慢な死)」ほうが、政治的には「安全な選択」になってしまうのです。
2. 「正義」という名のナラティブの罠
西側諸国は、支援を正当化するために「侵略された可哀想な国を守る」という「専守防衛の物語」を強固に構築しすぎました。
防衛戦争において「敵領土への先制攻撃」や「インフラ破壊」は、軍事的には正解でも、政治的には「侵略者と同等の野蛮な行為」と映るリスクを孕みます。
民主主義国家において、世論の支持低下は政権の死を意味します。「正義の味方」というポジションを維持するためには、「泥臭い勝ち方」よりも「綺麗な負け方(ジリ貧)」を選ばざるを得ないという、ポリティカル・コレクトネスのパラドックスに陥っているのです。
3. グローバル・サプライチェーンの「グレーゾーン」
「敵の生産ラインを叩く」と言いますが、現代においてそのラインはあまりに複雑で、不可視化されています。
ロシアの兵器に使われている半導体や部品の多くは、中国やグローバルサウス、あるいは西側自身から第三国を経由して流れている「民生品(洗濯機や汎用ドローン部品)」です。
軍事基地は爆撃できても、「中立国にある家電工場」や「友好国の商社」を物理的に攻撃することは不可能です。
世界経済と複雑に絡み合ったサプライチェーンは、攻撃対象を曖昧にします。経済的な相互依存関係が、皮肉にも敵の兵器生産を守る最強の盾として機能してしまっているのです。
4. 意思決定速度の致命的な遅れ(民主主義のコスト)
独裁国家はトップダウンで即座に「民生品の強制徴収」や「戦時経済への移行」を決定できますが、民主主義国家は「合意形成」に膨大なプロセスと時間を要します。
例えば、「長距離ミサイルで敵地攻撃を許可するか否か」という議論だけで数ヶ月を費やします。そのタイムラグの間に、敵は工場を地下に移し、物流ルートを変更し、対策を完了させます。
OODAループ(観察・判断・決定・行動のサイクル)において、合議制の西側は常に「敵が適応した後」に対応策を決定するため、永遠に主導権を握ることができない構造になっています。
結論:システムレベルでの不適合
西側が直面しているのは、単なる「弾薬不足」ではありません。
「民主主義と自由経済という平時のOSが、総力戦という戦時のアプリに対応していない」という、システムレベルの不適合です。
「高価な盾」で「安価な槍」を防ぎ続けるジリ貧のゲーム。そこから脱却するための「攻勢」というカードは、自らが守ろうとしている「民主的なプロセス」や「経済の自由」によって封じられている。
この自己矛盾を解消しない限り、どれだけ高性能なレーザー兵器を開発しても、構造的な敗北を覆すことは難しいでしょう。
追記補足
「開戦時と現在で、両者の戦争に対する『本気度(定義)』が完全に逆転している」という事実は、この構造的な詰みを理解する上で極めて重要な視点です。
まさに、「定義のクロス(交差)」が起きています。
1. ロシアの変遷: 「遠足」から「聖戦」へ
* 開戦当初(2022年):
* 定義: 「特別軍事作戦(Special Military Operation)」
* 認識: ウクライナを国家と認めず、数日で終わる「警察行動」や「政権交代劇」程度の認識でした。「戦争」という言葉を使うことすら禁じていたのは、国民総動員を避けるため(=本気ではなかった)です。
* 現在:
* 定義: 「祖国防衛戦争(対NATO総力戦)」
* 認識: プーチン政権は「負ければロシアという国家(と自分の命)が終わる」という認識にシフトしました。経済を戦時体制に完全に移行し、国民生活を犠牲にしてでも勝ち切る覚悟(=生存闘争)を決めています。
2. 西側の変遷: 「民主主義の危機」から「他国の紛争」へ
* 開戦当初(2022年):
* 定義: 「民主主義対専制主義の最終決戦」
* 認識: 欧米は強い連帯を示し、「ウクライナが負ければ次は我々だ」という危機感を共有していました。コスト度外視の支援や、未曾有の経済制裁は、この高い熱量から生まれました。
* 現在:
* 定義: 「管理すべき地域紛争(Local Conflict)」
* 認識: 時間が経つにつれ、戦争が日常化しました。「ウクライナの敗北は困るが、自国の経済や選挙のほうが大事」という本音が露呈しています。支援は「義務」から「負担」へと変わり、リスクを取る動機が失われました。
結論:熱量の非対称性が生む「敗北」
ご指摘の通り、この「入れ替わり」が致命的です。
* ロシアは、「初期の舐めた態度」を捨て、なりふり構わぬ「ガチ勢(生存をかけた戦い)」へと進化しました。
* 西側は、「初期の熱狂」を失い、腰の引けた「及び腰(地域紛争の処理係)」へと退化しました。
「命がけで殴りかかってくる相手」に対して、「怪我をしたくないから手加減して付き合っている相手(西側)」が勝てるはずがありません。
記事の「3. なぜ西側は踏み切れないのか?」の説得力を補強する材料として、この「覚悟の逆転現象」は非常に強力なロジックになります。




