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血汐の群れる朝が来る前に  作者: Masa plus


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(第三十九話)骸骨軍団の襲撃

「……」


シンとテパは水の底で静かにまどろんでいた。

目の、鼻の、そして耳の感覚をも閉ざして、手足の感触だけで互いを確かめ合っている。


「シンの手、柔らかいね」


「そうか」


「足は……ちょっと冷たい」


「お前の足も冷たいぞ」


二人はくすりと笑い合う。だが次の瞬間、テパの声が曇った。


「あれ? シンの手、硬くなってる……」


「お前の手も硬い」


「……あれ? あれ??」


テパの胸に冷たい不安が広がった。

先程まで確かにあった温もりが、消えている。

皮膚越しに感じた“生きている証”が、急速に失われていく。


「シン……足も硬くなってるよ……?」


「おいどうなってるんだ一体――」


あまりにも強い違和感に、シンとテパは目を同時に見開いた。そこにあったのは――。


「な、何これ!?」


「骨……いや、骸骨だ!!」


骸骨の群れが、水中を埋め尽くしている。

無数の白い腕が、二人の体へと伸びていた。



「失せろ!!!」


シンは懐から小刀を出し、纏わりついていた骸骨を斬り払う。骨は砕け散った。

だが、次の群れがその隙間を埋めるかのように現れた。


「これじゃ多勢に無勢だ……!」


「シン、どうしよう!?」


武器がないテパは右往左往する。そこへシンが来て、即座に彼の腕を掴んだ。


「逃げるぞ!」


「……う、うん!」


テパはゾノトに入る時、マクアウィトルを入り口に置いてきてしまった。

自分の不用意さが、今は重くのしかかる。テパは気まずくて仕方なかった。



 シンとテパは必死で泳いでいる。


「早く入り口に戻らないと……」


「うわっ!」


テパはうっかり振り向いてしまった。そこにいたのは――至近距離まで迫ってきた骸骨の大群。


「追いつかれちゃうよ!」


「兎に角泳げ! 全速力でだ!!」


二人は持てる力の全てを出して、急いで入口へ向かう。骸骨たちはそんな二人を、水圧をものともせずに追いすがった。



 その頃、ショロトルはゾノトの入り口に到着していた。


「あ! あれは……」


壁に立てかけられていた物が、ショロトルの目に留まる。それは一振りのマクアウィトルだった。


「ミクテカシワトルが見せた子が持ってたやつだ。 ってことはあの子たち、ここにいるのかな?」


澄み切った水面の奥を見つめ、彼は呟く。


「行くか」


ショロトルは山椒魚の姿に変身し、中へ潜る。その時――。


(何だ? この邪悪な気配は……)


 

 ショロトルが潜って間もなく、チャルチウィトリクエが入ってきた。


「!?」


入った瞬間、濃密な邪気を感じた。


「何とかしなきゃ。 でも……」


チャルチウィトリクエは周囲を見る。――何も、ない。


「うぁーん! これじゃ何もできないよぉー!」


神々は、魂の抜けたばかりの“新しい躯”がなければ現世に干渉できない。だが、ここにはそれがない。


「ショロトルにやってもらうしかないかぁ……」 


淡水の女神としての使命を全うできない歯痒さに、チャルチウィトリクエは溜息をついた。



「ショロトル、ショロトル!」


「チャルチウィトリクエ?」


「ここ、とっても変な気配がするの! 何が起きてるか見て来て!」


「そんな……君がやればいいのに」


「いい”躯”がないのー! だからお願い!」


(……ああ、そうだった)ショロトルは小さく息を吐く。


(僕や兄上は、姿を変えれば人間の目に見える。触れることもできる。でも他のみんなは違うからね)


「わかったよ、しょうがないなぁ」


ぼそりと呟き、再び泳ぐショロトル。すると――。


(ゴゴゴゴゴ……)


轟音が響いてきた。そして目の前を、二つの影が駆け抜けた。続いて、骸骨の大群も。ショロトルははっとした。


「あの子たち……!」



 シンとテパは入り口の近くまで泳いできた。


「こっちだ!」


シンはとっさの判断で右に曲がる。そこは陸があった。直感は当たっていた。


「はぁ、はぁ……」


息切れしながらも上がったシンは、テパの手を引く。彼も長いこと全速力で泳いでいた為か、歩くのがやっとな程にぐったりしていた。


「ここまで来れば、あいつらも――」


(カタカタカタ……)


シンもテパも油断していた。骸骨軍団は、入り口に来ても尚、二人を執念深く追いかけてきた。


「わっ……」


テパは思わず仰け反った。骸骨の手が、危うく自分の足を掴みかけたのだ。


「こいつら……」


シンが小刀を構えた、その時だった。


「はーい骸骨さんたちー! 狙うならこっちだよー!」



「!?」

 

骸骨たちが一斉に声の方を向いた。シンとテパも目を丸くした。


「ほら、こっちこっち!」


謎の声に挑発され、骸骨たちはぞくぞくと陸に上がった。シンとテパには目もくれず、岩壁の足場に立つ犬を狙って移動した。


「もう、こっちだってば!」


犬は空間内を軽やかに駆け巡る。骸骨に捕まりかけても器用にいなした。


(カタカタカタ……)


骸骨たちは二手に分かれた。挟撃を試みているようだ。


(よし!)

 

犬はこれを好機と見て、光が差す吹き抜け目がけて飛び上がる。すると、骸骨たちも犬を捕まえようと飛び上がった。その時――。


「じゃあね」


涼しげな声と共に、犬の姿が消えた。 双方から飛び掛かった骸骨はぶつかり合って力を失い、粉々に砕けて水に落ちた。



「あ……」


一部始終を見ていたシンとテパは、突然現れた犬、そして水を埋め尽くす骨を見て唖然とする。


「犬は……?」テパがふと呟いた時。


(ぽちゃん)


二人の目の前で水の輪が広がる。その中から顔を出したのは――噂で聞いた桃色山椒魚だった。


「これは……!」


シンが驚いて目を見張るうちに、山椒魚は陸に上がり、ゆっくりと歩み寄ってきた。そしてテパの足をよじ登り、手の上に乗って、円らな瞳で二人を見つめる。


「この子……」


初対面とは思えない懐きように、テパは何か運命じみたものを感じる。


「ねぇ、この子も連れて行こうよ」


「ん……」


シンは渋るが、山椒魚は頬を摺り寄せたり尻尾を振ったりしている。自分も共に旅をしたいと言っているかのようだ。


「よし、連れて行こう」

 

「やったぁ! でも、名前はどうしようかな……そうだ、ピルトにしよう!」


「ピルト?」


「ピルトントリ【※1】のピルト。ちっちゃくて可愛いから」


「なるほど。 いいんじゃないか」


ピルトは嬉しそうに目を細める。思いがけない仲間との出会いに、二人の胸にもようやく温もりが戻った。



 水面の星屑のような光が、静かに揺れている。シンとテパは、ずっとピルトを見つめていた。


「ふふっ」

 

テパの顔から笑みが零れる。小さな体と円らな瞳、無邪気に尻尾を振る姿は、どこからどう見ても愛らしい。


「シンの手にも乗せてあげる」


テパがそう言って、ピルトをそっとシンの手に移した時。


「……?」 


ほんの一瞬、その瞳の奥に、底知れぬ光が宿った気がした。


「……??」


シンは目を細める。だが次の瞬間、ピルトは首を傾げ、きゅるりと鳴いた。


「ほらね、可愛いでしょ?」


テパは嬉しそうに笑う。


「……ああ。 まあ、そうだな」


胸の奥に残る違和感を押し込み、シンは頷く。そのまま暫く、二人はピルトとの触れ合いを楽しんでいた。


――その裏で、静かに歯車が軋んでいることも知らずに。



 その頃。


「チッ」


湿った煙が漂う光一つない空間で、鋭い舌打ちが響いた。


「チャルチウィトリクエ、それにあの犬……よくも邪魔をしてくれたな」


低く押し殺した怒りを滲ませ、煙の中から漆黒の鏡が姿を現す。


「あいつらの監視を強化しろ。チャアク」


「……はい」

 

鏡と向き合うオセロトルは、暗い表情で項垂れた。主の命令が、冷たい刃のように体に刺さった。

【※1】ピルトントリ……ナワトル語で「幼い子ども」を意味する言葉で、愛情を込めて子どもを呼ぶ際に使われる。

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