表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
血汐の群れる朝が来る前に  作者: Masa plus


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/17

(第一話)魔獣狩りの少年

『人間よ。我らが恵みを求むるならば心の臓を捧げよ――』


それは今から遠い昔、誰もが存在を知らなかった大陸での物語である。

 ある小さな村に、テパティリストリという少年が住んでいた。彼は今日も、父チャアクと共に隣町の市場へ行っていた。

「おばさん、トウモロコシ10本ください」

「あいよ。いつもありがとうね、テパくん」

「今日はお父様に特別なタマリ【※1】を作るの!この後肉とか野菜も買うんだ!」

「あらいい子ねぇ。買いすぎて落とさないようにね」

テパは腕いっぱいにトウモロコシを抱え、次の店に向かう。後に続くチャアクは、おばさんに軽く会釈した。


 

 時刻は昼を過ぎ、市場には暑さが増す。それさえも何のそのと言わんばかりに、テパは次々に店を訪れた。店主たちは彼のあどけなさと屈託のない笑顔に元気づけられ、買った物に加えて布や糸をくれたりもした。

「お父様!これで全部揃いました!」

「お疲れ。じゃあ帰るか」


 

 帰宅した頃には太陽が西の空へ傾きかけていた。

テパは帰宅してすぐにトウモロコシを鍋に入れ、砕いた貝殻を溶いた水を加えて火にかける。暫くして火から下ろし、清水で濯いで外皮を丁寧に取る。トウモロコシが乾いたらすり潰し、これに脂を混ぜて生地を作った。

「次は肉と野菜、っと」

テパは市場で買った七面鳥を絞め、野菜を切って焼く。火が通ったそれらを生地に混ぜ、トウモロコシの殻に包んでできあがり。

「お父様、できあがりました!」

テパは複数作ったタマリの一つを、得意げにチャアクに渡す。二人は殻を開け、熱々の中身を食べた。

「美味しい。今まで食べたタマリの中で、一番美味しいよ」

「今日は肉も野菜も、いっちばん高くて美味しそうなのを集めましたから」

「テパ。食べ終わったら機織りの続きをしてくれ」

「はい!」

何気ない日常が、少しの工夫で特別なものになった。満足してタマリを食べ終えたテパは、片づけを手早く済ませて機織りを始める。



 日が暮れる。機を織るカタカタという音が、夜の静寂に響く。

「テパ、お休み。ティルマ【※2】ができるの、楽しみにしてるよ」

チャアクは眠りに就いた。その隣で、テパは黙々と機を織っていた。

「あともう少しで完成だ。お父様の新しいティルマ――」


(ガシャガシャガシャ……)


「!?」

テパはびっくりして作業を中断した。遠くで、何かが崩れ落ちる音が響いた。しかも、すぐに終わるかと思いきや、ずっと続いている。そして……音が段々近くに聞こえてきている!


「テパ!」


チャアクも凄まじい轟音に気づき、目を覚ました。そしてテパの手を引こうとした瞬間――。


(バリバリバリ!!!)

 

屋根が割れ、柱が砕けた。遠くで聞こえた恐ろしいものと同じ音がした。



 テパの眼前には、太陽と見紛う黄色い目を爛々と光らせる、巨大な蜥蜴の姿をした怪物がいた。それがテパを襲おうとした瞬間――。


「テパ!!!」


 


 「!?」

 

 村の外れの森で、ある少年が聞き耳を立てる。


 「また現れたか、魔獣め……」


 少年は木々を飛び越え、闇夜を駆け抜ける。一面の暗い森の中で、彼の目だけが青緑色の光を放っていた。

【※1】タマリ…古代メソアメリカの料理の一種。肉や魚、野菜などをトウモロコシの生地と合わせ、殻ないし大きな葉に包んで蒸したもの。日本の粽に近い。タマル、タマレスなどともいう。


【※2】ティルマ…古代メソアメリカのマント。長方形の布を肩の辺りで結んで留める。主に男性が着用していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ