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Ep.23 潜入騎士団員の秘密のお仕事・後

 フィオナ先輩を家に送り届けた後、先輩の家の明かりが消えるまで玄関の見える物陰で待機していると、就寝時間にはまだ早いのに灯りが消えた。程なく玄関の扉の鍵を閉める先輩が見える。

 自分の身に危険が迫っているから送迎を約束したのに、こんな時間にどこへ……?

 先輩が繁華街を通り過ぎ、向いた方向に嫌な予感がする。

 娼館の並ぶ通りを過ぎ、隠れ娼館のある通りで足を止め逡巡しているのを見て確信した。

 通りの見張りに声をかけたのを見てとると、店の位置を確認して一番近い騎士団の詰め所に走る。

 無許可の娼館に乗り込むとかどんな度胸をしてるんだ、あの人は!

 騎士に応援を頼むとすぐ娼館に引き返した。

 一度深呼吸してスイッチを切り替える。


(娼館で危ない遊びをしてみたい若い男……)


 よし。

 見張りの男に声をかける。


「このお店って僕と同じくらい若い子いるかな?」


「あぁ、兄ちゃん金持ってんのか?」


「臨時収入が入ってね。いい子いるなら前金で全額払うよ」


 男は無言で入り口を指す。

 急がなければ……。

 フィオナ先輩が店に入ってからそうまだ時間はたってないはずだ。

 顔見せにいてくれよ……。

 店に入ると中央の階段の下に婀娜っぽい女性が4人椅子にしなだれかかっていた。


(先輩は……いない……)


 もう部屋に連れ込まれた? どうする?


「あら、可愛い坊やね。私とどう?」


 私の顔を見た女性が口笛を鳴らす。

 すると、階段から老婆が降りてきた。


「おや、いらっしゃい」


「僕と同じくらい若い子がいたらお願いしたいな。部屋分と指名料と全額前金で払うよ」


 老婆はにやりと笑う。


「それなら……今日からの新顔がおります。年も近いと思いますよ、えぇ」


 胸ポケットに入れていた財布を丸ごと放る。


「ありがとうございます。娘は今支度をしておりますので、すぐ向かわせますよ。階段を上がって二つ目のお部屋にどうぞ」


「いや、もうそこにいるんだろう? 迎えに行くよ、楽しみにしてたんだ」


 急いでいるのを、さも「我慢の効かない若造」の体で押し通る。

 階段を上がる途中でにやついた男の声が聞こえてくる。


「そなた、名はなんという?」


「フィオ……です。」


 フィオナ先輩! 見つけた!


「フィオか、名前も可愛らしいな。こちらにきてもう一度よぅく顔を見せてごらん」


 にやついた男が紅色のドレスの腰に手を回し引き寄せている。

 結い上げられ簪が刺されているが栗色の髪は先輩のものだ。


(————————!)


「一応、秘密のお薬だからね、これだよ」


 そう言って先輩の目の前に差し出されるピンクの小瓶。

『妖精のいたずら』だ!


「こ……このお薬はどうやったら手に入るの?」


 階段を急いで駆け上がる。


「それは……秘密だよ。欲しいのかい?」


「えぇ」


「それなら、ベッドの上でたっぷりと教えてあげるよ。おじさんと一緒に楽しんでくれるね?」


(させるか!)


 先輩を男から引き離し、抱きしめた。


「彼女は今日、私が指名したので、遠慮していただけますか?」


「ふん。その娘は薬でキメたいと言ってたんだぞ。若造ごとき満足させられるとでも?」


「あぁ、あなたと違って若いので、薬なんかに頼らなくても十分なのですが……」


 先輩を後ろに庇うと薬を奪い取る。

 瓶の蓋を開けて飲んだフリをして男に金貨を放る。

 そうして、先輩を部屋へ引っ張り込んだ。


「先輩……良かった。……間に合った」


 あのままだと間に合わないところだった……。

 騎士に応援を頼まず、一人でも乗り込むべきだった……。

 この人はどうしてこんなに人の予想を上回ってくるのか……。


「ノエル君? あぁああああなたどっから湧いてきたの?」


「先輩が危ないと思って飛び出してきたのに、ひどくないですか?」


「ノエル君、ありがとう。とってもとっても助かったんだけど、ちょっと離れてもらえないかな?」


 いやだ。


「いやです。先輩のことが好きって言いましたよ、僕」


 先輩が暴れているが気にするものか。


「先輩の……甘い香り……すご……」


 こんな美味しい香りをさせている先輩が悪いんですよ。

 先輩を壁に押し付けながらぎゅっと抱きしめる。


「の……ノエル君……アレ、全部のんじゃったの……?」


 あぁ、そうですね。薬のせいということにして白状してもらいましょうか。

 騎士が踏み込むまでまだ時間もありますしね。

 目が据わっている自覚はある。

 化粧映えするとは思っていましたけど、こんなに綺麗だなんて……。


「うふふ。先輩、化粧した先輩すっごく綺麗ですよ。かーわいぃなぁー」


 ぱたぱたと暴れているが、男でしかも騎士に勝てるとでも思っているのだろうか?

 あぁ、騎士だとは知らないんだったな。

 先輩の美味しそうな匂いに舌なめずりする。

 このまま食べてしまおうかな?


「だだだだだだから! そんな非日常は送ってないです! 薬も! こんなやばいの、飲んだことないですっ!」


「やばくないヤツなら飲んだことあるんですね。詳しく聞きたいなぁっと」


 抱え上げるとベッドに放る。

 暴れてほつれた髪からは刺してあっただろう生花がぽとりと落ちている。

 胸ははちきれんばかりに揺れ、ドレスのスリットからは生足がのぞく。


「う〜ん。こうしてみると、先輩、なんて格好してるんです? えっちすぎませんか? 僕、我慢できなくなっちゃうかも……」


 成人男子がそれなりに好意を抱いている女性のこんな格好を見せられて正気でいられるだろうか?

 起きあがろうと伸ばされた手を絡め取ってベッドに縫い付ける。

 足の間に膝をついて、上から下まで眺める。

 あぁ、目に涙が溜まってとてもイイ顔になってきましたよ。


「おしおき、してもいいですよね……」


 呆然とするフィオナ先輩の耳の後ろにしゃぶりつく。

 思いっきり自分の跡を残してそこを舐め上げた。


「んぁっ!」


 あぁ、声もイイ。


「ちょ……やめ……!」


 やめるわけないでしょう?

 うなじを辿って揺れる胸元にキスをする。何度も。


「の……ノエル君!」


 そして、両手を一纏めにするとはだけた足を撫で上げた。


「あぁ、その顔いいですね。自分の手でぐちゃぐちゃに泣かせてやりたいって思ってたんです」


 驚きと恐怖に震えるフィオナ先輩をさらに追い込む。

 耳元でふふと笑いながらもう一度キスをして、はだけた足を持ち上げ足先にキスをする。


「やだ! 汚いから! やめて!」


「先輩に汚いところなんかありません」


 ずっとこのまま黙って下さっていてもいいんですよ。

 足裏に舌を這わせ、指の間をたっぷりと舐め上げる。


「危なくない薬のお話、聞きましょうか?」


 そろそろ私も我慢できる限界ですよ。

 もうすぐ後戻りできなくなる……


「栄養剤……故郷の伝統薬よ! 私が作ってたのは婦人科用の薬!」


 それで?


「同じシロップは使ってたけど、ルピナスなんて知らない! ほんとよ!」


「本当に?」


「『妖精の小瓶』って春花亭って娼館にしか下ろしてないし、『いたずら』は無関係!」


「それを証言できる人は?」


「ジュリーよ! 酒場の! そこで一括取引だったわ」


 やっと自白してくれた……。

 瞑目してスイッチを無理やり切り替えるイメージをする。

 切り替えろ……。

 目の毒なドレスの裾をなおす。


「先輩、バイトはいけませんね。国家薬剤師は無許可の副業は禁止ですよ」


 肩で息をしながら幽霊を見たような顔をしているが、ここまでやって止まれる自分を褒めて欲しいくらいだ。

 薬は押収すると言うと


「あ、試験紙持ってる」


 と、フィオナ先輩は揺れる胸の谷間からごそごそと試験紙を取り出す。


「フィオナ先輩……なんてところに入れてるんです……」


 試験紙を使ってさっきの男の薬を調べる。やはりルピナスだ。

 まぁ、無許可の娼館というだけで騎士隊に応援を頼んだが、予想外の収穫もあった。

 先輩のおかげであの自称男爵とかいう男も確保できた。そちらからも売買を辿れるだろう。

 しっかり先輩に所有の印も残せたしな。

 出来ることならあれが消えてしまう前に上書きしたいものだ。




 騎士団に護送された後、先輩は予想通りベケットによって逮捕された。

 先輩は麻薬密造の容疑者として取り調べを受けている。

 複数の騎士によって取り調べを受けている間、先輩の身は安全だ。

 カミル殿下の捜査もベケットを上手く切り離すことによって黒幕にまでしっかりと証拠固めが出来たと連絡を受けた。

 全てが整ったその夜、ベケットが動いた。

 騎士に夜半に取り調べをするからフィオナ先輩を手錠をしたまま移動させるよう指示したのだ。

 ベケットより先に先輩のいる取調室に入る。

 殿下の騎士隊の制服だ。

 きっと騙していたと詰られるだろう。

 実際、囮に使って危険に晒した。


(許してはもらえないのだろうな……)


 大人しくしていてもらうために、乱暴な尋問をする。

 ベケットは間もなく現れ逮捕した。

 フィオナ先輩の手錠を外し談話室に連れて行く間、先輩は私に何も言わなかった。

 先輩の釈放の知らせを送ってすぐに駆けつけただろう王弟殿下は、談話室の前で待機する私の腹をすれ違いざまに殴りつけた。


「フィオナさんは優しいから、どうせ君には何も言ってないんだろう」


 まともに正面から喰らって胃液が上がる。

 彼女を傷つけた分なら安いもんだ。

 扉越しに先輩の啜り泣く声が聞こえる。

 あんなに泣かせてやりたいと思っていたのに、啜り泣く彼女の声は聞きたくなかった。

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次話は翌日 AM9:00 予約投稿です。

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― 新着の感想 ―
同じ出来事を別視点からも見られるの良いですね✨ それにしても、ノエル君……ちゃんと踏みとどまれたの紳士笑
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