表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済】真実の愛に気付いたと言われてしまったのですが   作者: 入多麗夜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/38

21. 緑と風の通り道

 朝の陽が傾斜屋根を斜めに照らす頃、アルンヘルムの西側にある一本の通りに、槌音が響きはじめた。


 ここは、街の整備計画における試験導入区画。

 “新しい街の形”を実際に導入してみる、最初の場所だった。


 数週間前の夜灯の集会で、市民から多く寄せられた声、「通りが暗い」「石畳が崩れて足を取られる」「子どもが遊ぶ場所が危ない」などなど。


 そうした切実な訴えに応える形で、レティシアは具体的な対応に踏み切った。


 整備内容は、老朽化した石畳の張り直し、間隔を計算した並木の植樹、そして夜間用の火皿を据える鉄柱の設置である。


「……始まりましたね」


 通りの端に立つレティシアの隣で、エディンが感慨深げに呟いた。


「ええ。こうして目に見える形で住民の手による“変化”が生まれるのは、何よりも大事だわ。」


 レティシアは、通りの奥で作業に当たる職人たちを見つめながら言った。


 エディンは手元の設計書を閉じ、ゆっくりと視線を通りへ戻した。


 通りの両脇には、すでに数本の若木が植えられつつあった。

 葉はまだまばらだが、何年か経った後には、やわらかな日陰をつくってくれるはずだ。


 火皿付きの鉄柱も、要所ごとに等間隔で立ち並ぶ。夜間は灯りがともり、足元を照らしてくれる。

 景観を壊さない程度の造りは、見通しと防犯を両立するための工夫だった。


 ふと、通りの向こうに小さな人だかりができているのが見えた。

 商人らしき男が腕を組んで作業を眺めており、その隣では買い物袋を抱えた母子が立ち止まっている。


「……あれだけの声があったのです。皆、気にしているんでしょうね」


 エディンの言葉に、レティシアは小さく頷いた。


「生活がほんの少しでも良くなったと、そう思ってもらえるなら何よりだわ」


 言葉にすれば簡単なことだ。けれど、それを本当に“感じてもらう”ためには、数え切れない労力と配慮が必要だった。


 市井に暮らす人々の目線は、想像より率直である。

「変わった」と思える風景を見て、初めて気づくのだ。


 “ああ、これは自分たちのために動いたことなのだ”と。


 そんな想いを胸に、レティシアは並木の根元に視線を落とした。


 ふと、通りの奥からささやくような声が耳に届いた。


「……ほんとに、始まったんだな。口だけじゃなかったんだ」


 遠巻きに工事の様子を見つめていた男のひとりが、そう呟いたのだろう。

  その一言に、誰かが小さく頷き、また別の者が微かに笑った。


 ――言葉ではなく、行動で示す。


 それが、今の自分に課された役目なのだと。


 その時だった。


「レティシア様~! 見に来ちゃいましたっ!」


 空気を揺らすような明るい声が通りの端から響いた。

 人々の視線がそちらへ向かうより早く、レティシアはその声の主を察していた。


 ミリアだった。


 やや泥の跳ねた裾を気にする様子もなく、軽やかな足取りで駆け寄ってくる。

 続いて姿を見せたのは、やや遅れて歩いてくるカイルだった。


 その肩には少しばかり疲労の色が見える。けれど、苦情を言うでもなく、彼なりの落ち着いた歩調でレティシアたちに近づいてきた。


「全く……“少し見に行くだけ”って言ってたのに、全力疾走かよ」


「だって気になるじゃないですか! 新しい区画なんですよ? これはもう、見に来なきゃ損です!」


 張り切った声に、レティシアは思わず肩の力を抜いて笑った。


「今日は予定が詰まっていないのね」


 軽く問うと、ミリアは誇らしげに胸を張った。


「はいっ! 楽しみにしていたので、さっさと終わらせてきました!」


 その目は、遠足を控えた子どものようにきらきらと輝いていた。

 とはいえ、ただの興味本位ではない。整備前の設計図を、数日前にエディンからちらりと見せてもらったという。

 それ以来、実際にどう形になるのかが気になって仕方がなかったらしい。


 ミリアが目を丸くして辺りを見渡す隣で、カイルは無言のまま通りを見つめていた。


 関わる者の数が増えれば増えるほど、それは“街のもの”として根付いていく。


 そう――これは、レティシア一人の街ではないのだから。


  街並みに目を向けながら、レティシアはそっと息を吐いた。

次話以降は、オルソーラー商会騒動のような

まとまった話になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ