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公爵様なりの謝罪

「今の状態なら、着飾ってもみすぼらしく見えないだろう。好きなものを注文するといい」


 そう言うが早いか、夫は手に持った何かをこちらへ差し出した。

と同時に、ロルフが苦笑を漏らす。


「公爵様、もっと言い方というものがあるでしょう」


 やれやれと(かぶり)を振り、ロルフは一先ずソレを受け取った。


「奥様、どうかお気を悪くなさらないでくださいね。公爵様は口下手なだけですから」


 申し訳なさそうに眉尻を下げつつ、ロルフはこちらに向き直る。

夫より、預かったものをテーブルに置きながら。


「これは公爵様なりの精一杯の謝罪なんです」


 『不器用でしょう?』と肩を竦めるロルフに、夫は眉を顰める。


「よく回る口だな。切り落とされたいのか」


 不機嫌そうにそう吐き捨て、夫は物々しい雰囲気を放った。

おもむろにペーパーナイフへ手を伸ばす彼の前で、ロルフは素早く私の背後に回る。


「こ、公爵様ここには血の苦手な奥様がいらっしゃるんですよ……?そんなことしたら、卒倒してしまうかも……なんて」


 ダラダラと汗を流しながらも思い留まるよう説得するロルフに対し、夫はピクッと反応を示した。

かと思えば、じっとこちらを見つめて一つ息を吐く。


「血を見ただけで、卒倒とは貧弱だな」


 呆れた様子でそう言い、夫は再度ペンを手に持った。

静かに仕事を再開した彼の前で、ロルフは肩の力を抜く。


「た、助かった……」


「言っておくが、貴様の口を切り落とす話はまだ有効だぞ」


 『今はしないだけだ』と告げ、夫は執務机の上に剣を置いた。

サァーッと青ざめるロルフを前に、彼は視線だけ上げる。


「自分の口を守りたいなら、きちんと仕事することだな」


 『いつまでサボっているんだ』と述べる夫に、ロルフは慌てて背筋を伸ばした。


「は、はい!誠心誠意、ご奉公させていただきます!」


 ビシッと敬礼して応じ、ロルフはこちらへ向き直る。

と同時に、テーブルの上へ置いたカタログ(・・・・)を開いた。


「さあ、奥様!注文するドレス(・・・)を選びましょう!何かこだわりはありますか?色でも、デザインでもいいので!」


 ペラペラとカタログのページを捲りながら、ロルフはこちらの反応を窺う。

何か気に入るものはないか、と探っているのだろう。


「う〜ん……ドレスを一から仕立てたことがないので、何とも……」


 これまでずっと姉のお下がりや既製品を着てきたため、私は思い悩む。

嫁いでからも一応ドレスは買っているものの、ほぼ全てベロニカに選んでもらったものなので。

『ファッションセンス以前の話なのよね』と内心苦笑しながら、私は頬に手を当てた。


「初心者だから、変な注文をしてしまいそうで……」


「大丈夫です!今回は帝国一のデザイナーに依頼する予定なので!きっと、どのような要望を出しても素敵に仕上げてくれますよ!」


 グッと手を握り締めて力説し、ロルフは『さあ、どんどん意見を出してください!』と促す。

必死の形相でこちらを見つめる彼に対し、私は少し考え込む素振りを見せた。


「それなら……花をモチーフにしていただくことは、可能でしょうか?」


「ええ、もちろん可能ですよ!他にも何かご要望があれば、仰ってください!」


 懐から手帳とペンを取り出して、ロルフは『全て書き留めて、デザイナーに伝えます!』と宣言した。

なので、遠慮なくこちらの意見を述べる。

『露出は控えめに』とか、『派手な色は避けて』とか。


「分かりました!そのようにお伝えしますね!」


 パタンと手帳を閉じて、満足そうに笑うロルフは扉へ足を向けた。

さっさとこちらに背を向けて歩き出す彼の前で、私は思わず目を見開く。


「えっ?今から、知らせに行くんですか?」


 ついつい疑問を投げ掛けると、ロルフはこちらを振り返った。

と同時に、扉へ手を掛ける。


「はい!出来れば、近々開催される────皇室主催のパーティーに間に合わせたいので!」


 『バッチリ着飾って、周りを驚かせましょう!』と意気込み、ロルフはこの場を後にする。

いつもより、ちょっと早い足音を響かせて。


「……パーティー?」


 完全に初耳だった私は、ロルフの去っていった方向を見つめてそう呟いた。

すると、夫が怪訝そうに眉を顰める。


「毎年のように開かれている春の祝賀会だ。知らないのか?」


「いえ、春の祝賀会そのものは存じています。ただ、私はいつも欠席だったので完全に存在を忘れていたと言いますか……」


 『仕事漬けで、それどころじゃなかったから』と思いつつ、私は目頭を押さえた。

今後のことを考えると、憂鬱で。


 しばらく、のんびり生活はお預けね。

パーティー当日までに、礼儀作法の復習やら流行の調査やらやらないと。


 デビュタント以降まともに社交界へ出たことがないため、私は危機感を抱く。

『公爵夫人として、恥ずかしくない振る舞いを身につけなければ』と。


「旦那様、用事を思い出したので今日はもう失礼します」


 『ごきげんよう』と挨拶し、私はさっさと自室へ戻った。

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