表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/50

好みの変化《クラリス side》

 ────これはフィオーレ伯爵家の次期当主を志してから、しばらく経った頃の出来事。

私はラニット公爵の右腕だというロルフ・ルディ・バーナードに、呼び出された。

なんでも、相談したいことがあるとかなんとか。


 本当はお父様やお母様も一緒に来てほしかったらしいけど、あいにく私しか予定が空いてなかったのよね。


 『二人とも、この時期は忙しいから』と考えつつ、私は指定されたレストランでロルフ様と顔を合わせる。

と同時に、彼が頭を下げた。


「クラリス嬢。本日はお忙しいなか時間を作っていただき、ありがとうございます。改めまして、公爵様の秘書官であるロルフ・ルディ・バーナードです」 


「ご丁寧にどうも。フィオーレ伯爵家の長女である、クラリス・アスチルベ・フィオーレです」


 一応礼儀としてこちらも名乗り、私は居住まいを正す。

少しばかり表情を引き締めながら。


「それで、ご相談というのは?」


 前振りとかムードとか気にせず本題を切り出す私に対し、ロルフ様は少し目を見開いた。

かと思えば、『話が早くて、助かります』と頬を緩める。


「端的に言うと────奥様の好みを教えてほしいんです」


「好み?」


 反射的に聞き返すと、ロルフ様はコクリと頷く。


「ええ。実は今、奥様の誕生日プレゼントを選んでいる真っ最中でして……でも、特にめぼしいものが見つからず。公爵様の指示で、クラリス嬢からアドバイスを貰うことにしたんです」


「はあ……」


 適当に相槌を打ちつつ、私は『そういえばもうすぐだったわね、レイチェルの誕生日』と思案した。

────と、ここでロルフ様が小さく肩を落とす。


「本来であれば公爵様自ら出向くべきなんですが、いかんせん忙しくて。僕が代理に」


 『こんな形で協力を仰ぐことになってしまい、すみません』と謝るロルフ様に、私は首を横に振った。

当主教育を通して、貴族の大変さは理解しているため。


「とりあえず、事情は分かりました。レイチェルのためなら、喜んで協力します」


「ありがとうございます」


 ロルフ様はホッとしたように表情を和らげ、胸を撫で下ろした。

『これで公爵様に怒られずに済む』と安堵する彼の前で、私は顎に手を当てる。


「ところで、プレゼントの条件や基準などはありますか?『これはNG』とかでもいいので」


「そうですね……強いて言うなら────安眠グッズ系は極力控えたいですね」


 えっ?安眠グッズ?


 聞き慣れない単語が耳を掠め、私はパチパチと瞬きを繰り返した。

『言われなくても、そんなの提案しないけど……』と戸惑う私を前に、ロルフ様はこう言葉を続ける。


「もう定期的に買い与えているので、目新しさが足りないというか……特別感が薄いんですよ。まあ、確実に喜ばれる品物ではあるんですが」


 はっ!?喜ばれるの!?しかも、確実に!?


 衝撃のあまり目を白黒させ、私は口元を押さえた。

『レイチェル……公爵家に嫁いでから、好み変わった?』と本気で困惑し、視線をさまよわせる。


「……ごめんなさい、ロルフ様。私では、ちょっとお力になれないかもしれません」


「えっ?どうしてですか?」


「私の知っている情報が、今も有効か分からないからです」


 『なので、他を当たった方が……』と意見する私に、ロルフ様は少し考え込むような素振りを見せた。

かと思えば、おもむろに顔を上げる。


「では、去年まで何をプレゼントしていたのか聞いてもいいですか?」


「ええ、構いませんが」


 『参考になるかどうかは分かりませんよ?』と念を押してから、私は過去の記憶を手繰り寄せた。


「確か、去年は花型のネックレスで……その前は花の刺繍が施されたハンカチ。更に前は────」


 レイチェルへの歴代プレゼントを全て挙げ、私は『こんなところですかね』と話を切り上げる。

と同時に、ロルフ様が少しばかり目を剥いた。


「花関連のプレゼントが、多いんですね」


「ええ、レイチェルも私もお父様とお母様の影響を受けて花好きなので……今はどうか分かりませんけど」


 なんだか自信がなくて余計な一言を付け足すと、ロルフ様はすかさずこう言う。


「いや、今もきっと好きだと思いますよ。よく庭を散歩しますし、ちょっとした小物のデザインも花系統のものを選びますから」


「そう、ですか」


 『昔と変わらないものもある』という事実に、私はちょっとだけホッとした。

自分の知らない妹が居ることに、僅かな寂しさを覚えていたから。


 私って、結構レイチェルに依存していたのね。


 今更ながらそのことに気づき、私は内心苦笑を漏らす。

『いい加減、妹離れしないとね』と思いながら。

どことなくしんみりした空気を放つ私を前に、ロルフ様は立ち上がった。


「それでは、貴重なお話ありがとうございました。参考にさせていただきます」


 ────と、お礼を言われた数ヶ月後。

結局、ラニット公爵は宝石で出来た一輪のバラをプレゼントしたらしい。

レイチェルから来た手紙に、そう書かれていた。


 私は無難に花のブローチをプレゼントしたのだけど、喜んでくれたみたい。


 『良かった』と頬を緩めつつ、私は手紙の文面から視線を上げる。

そして、レイチェルの誕生日を改めて祝福するのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ