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再会と脱出《クラリス side》

◇◆◇◆


 ────時は遡り、再度実家へ引き戻された数週間後。

私は恋人のウィルと再会した。


 『もう二度と会えないかもしれない』と思っていたから、凄く嬉しいわ。でも、


「一体どうやってここに?」


 窓のない室内を見回し、私は『今までのように侵入するのは不可能だった筈』と考える。

困惑を露わにする私の前で、ウィルはクルクルと人差し指を回した。


「窓の開いている部屋から中に入って、虱潰しにクラリスの居場所を探したんだよ。もちろん、使用人には見つからないよう細心の注意を払ってね」


 『ちなみに鍵は全部ピッキングで開けていた』と語り、ウィルはおもむろに腕を組む。

思ったより強引な侵入方法に、私は少しばかり目を剥いた。


 ウィルって、そんなことも出来るのね。

運動神経がいいのは知っていたけど、正直ここまで有能だとは思わなかったわ。


 『凄い』と素直に感心しつつ、私はまじまじとウィルのことを見つめる。

────と、ここで彼が手を差し出してきた。


「それより、早くここを出よう。いつ誰に見つかるか、分からないからさ」


 『また僕が脱出を手伝ってあげるよ』と申し出るウィルに、私は咄嗟に反応出来なかった。

レイチェルに苦言を呈されて以降、自分の判断に自信が持てなくて。

また間違った選択をして周りに迷惑を掛けるのではないか、と不安だった。


 ウィルとは、一緒に居たいけど……逃げたら、また家族に心配を掛けるだろうし。

私を探すために、色々苦労だって……。


 やけに顔色の悪かった両親や使用人を思い出し、私は強く手を握り締める。

どうするのが最善なのか思い悩み、目の前にある手から視線を逸らした。


「……ごめんなさい。今日のところは帰ってもらえる?一人でじっくり、考えたいの」


 今すぐ結論を出すのは無理だと判断し、保留を提案する。

『少しだけ、時間をちょうだい』と願う私に対し、ウィルは少しばかり表情を曇らせた。

かと思えば、大きく息を吐く。


「クラリスがそう言うなら、別に構わないよ。でも、レイチェル嬢のことはもういいの?」


 不思議そうに首を傾げ、ウィルはふと天井を見上げた。


「きっと、今もあの悪魔みたいな公爵の元で苦労していると思うよ?下手したら、もう命を奪われている可能性だって……」


「だ、ダメ!そんなの絶対……!」


 考えるよりも先にそう答えていた私は、自身の胸元を強く握り締める。


「助けなきゃ!」


 使命感にも似た衝動に駆られ、私は真っ直ぐ前を見据えた。

すると、ウィルがニッコリ笑って手を更に前へ突き出す。


「なら、まずはここを出ないと。囚われのお姫様のままじゃ、何も出来ないからね」


 『多少の無茶はしなきゃ』と主張するウィルに、私は


「ええ、そうね!行きましょう!」


 と、即答した。

『私が間違っていたわ!』と謝りながら彼の手を取り、早くここから出るよう頼む。

と同時に、ウィルは私のことをお姫様抱っこした。

かと思えば、開けっ放しの扉から廊下に出て隣室へ移る。

そして、素早く窓を開けると、前回のように飛び降りた。


「一応、これ被っていてね」


 ウィルは懐から頭巾を取り出し、こちらに手渡す。

『顔だけでも隠して』と述べる彼を前に、私はソレを装着した。

さすがの私も素顔を晒したまま行動するのは不味い、と理解出来るので。


 前回はローブ姿だったから問題なかったけど、今回は普通のドレス姿だから。結構目立つ。


 などと考えていると、ウィルが柵を飛び越えて屋敷の敷地から出た。

前回と同じ逃走経路を辿る彼は、人気のないところに停められた馬車へ乗り込む。


 あら、準備がいいわね。

また(・・)運搬業を担う友人から、貸してもらったのかしら?


 駆け落ちのときにウィルの言っていた説明を思い返し、私はシートに座った。

────と、ここで彼が何かを差し出す。


「これ、良かったら食べて。あと、走行中は小窓のカーテンを開けないようにね」


 『誰かに君の顔を見られるかもしれないから』と言い、ウィルはそっと眉尻を下げる。

窮屈な思いをさせて申し訳ない、と感じているのだろう。

そんなこと、気にしなくていいのに。

『脱出を望んだのは、私なんだから』と思いつつ、差し出されたものを受け取る。


 これは……飴かしら?


 小さな包みに入った球体を見下ろし、私はパチパチと瞬きを繰り返す。

今までウィルからお菓子をもらったことなんてなかったので、驚いてしまって。

『弱気になっている私を気遣ってくれたのかな?』と考える中、彼は馬車を降りた。

恐らく、御者台の方へ行くつもりなんだろう。

ここには、ウィル以外馬車を操れる者が居ないから。


 『何から何まで任せてしまって、悪いわね』と思いながら、私は飴を舐める。

せっかくの厚意を無下にするのは、気が引けて。


「ん……?なんか、不思議な味」


 砂糖や果実とは少し違う甘さに、私は小首を傾げる。

『平民向けのお菓子って、結構独特なのね』と思案し、コロコロと飴玉を転がした。

────すると、徐々に瞼が重くなってくる。


 あ、れ……急に眠気が……さっきまで、何ともなかったのに。


 意識が沈んでいく感覚を前に、私は『どうして……』と疑問を抱いた。

が、答えを見つけるよりも先に眠ってしまう。

そして、次に目を覚ますと────全く知らない場所に居た。

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― 新着の感想 ―
まあ姉は諦めるしかないな
お姉ちゃん、少しだけ考えるようになった。 いきなり変わるのは難しいだろうけど、生き残れたら少しでも良い方向に変わって欲しい。
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