Meaning
時化た集落に来て十八日目。
国境沿いにある小さな町で随分足元を見た取引をしようとしてきた商人に腹が立ち、塩と砂をすり替えていた時……漸く事が動き始めた。
「兄ちゃん、あんまり見ない顔だな。どこから来たんだ?」
三日に一度、この町に来てもう五回目。上背はある方だ。見ない顔……ということはないだろう。つまりこいつは私を闖入者と疑っている。
間違いなく一般人ではない。
「最近この辺りに越してきたんだ。前はソリオスにいたよ」
「そうか……あの紛争の中よく生き延びたな」
「……蚕食。紛争って、あんた軍人? どう見ても一方的な殺戮だろう。私も家族を亡くしているんだが……あんた、どこから来たの?」
「いや、申し訳ない。それは心痛察する。私は人探しでここにいるのだが……十二歳程の少女を見掛けなかったか?」
……仕掛けるなら、ここしかないだろう。
「最近の話なら知らないが……ソリオスからここへ来る時、私位の上背の男と辿々しく歩く子供が山中にいたな。あれは確かそれくらいの年齢だった」
「何処で見た!?」
「レイポスへ向かう道外れの山中だ。しかしもう居ないだろうな」
「何故分かるんだ?」
「私は狩人を生業としているが……先日巨大な熊を仕留めたんだ。腹を掻っ捌くとまだ新しい小さな人間の骨が出てきたが、恐らく件の一人だろう。こんな物が腹の中に残っていた」
マクシルが着ていた服に付いていた、装飾された服の留め具。刻まれた紋章は恐らく王家の証。
それを見た男は血相を変え、髪の毛一本残っていないかと尋ねてきた。
荷物を探るふりをして、その辺の老婆の髪の毛を毟りこの男へ手渡すと……銀貨を数枚こちらへ寄越し、嬉々と足踏みしながら男は走り去っていた。
◇
「お帰りなさい…………どうかしましたか?」
少し視線を長く置いただけで気付くマクシル。
見えぬ何かがコイツには見えているのだろうか。
「鼻に煤が付着しているぞ」
「えっ!? ど、どこでしょうか……布は──」
髪の毛一本すら求めていた理由……
気の進む場所では無いが、次の日町にある書房へ向かった。まぁしかし、居るだけで腹が痛くなる空間だ。
御伽話も……辿れば何か一つの元がある。
子供でも読める程噛み砕かれた御伽話を読み進めていると……どこか鼻で笑われた音がした。
「お兄さん、それ小さい子向けの本だぜ?」
マクシルと同じ歳程の糞餓鬼。今直ぐ首を落としてもよかったが……この行動全てが馬鹿らしくなり止めた。
書房を出ようとしたが、このままでは癪なので一番大きく硬そうな本を掴み、角を思い切り糞餓鬼の頭へ叩き付けた。
◇
「お帰りなさ……きゃっ!?」
全くなんの意味があったのか……己の鈍った頭に嫌気が差し、角が潰れた本をマクシルへ投げ付けた。
「な、何をするんですか!?」
考えるだけ無駄だ。思考を遮断し夕食を作っていたが……頁を捲る音と、時折聞こえる小さな笑い声。
根負けしマクシルの方を見ると、指で本をたどっている。
「何してんの?」
「本を読んでいますが……」
よく見ると頁の表面が凹凸に……これは浮き出し文字か。随分難解だと聞いたことはあるが、これ程速く読めるとは……
「私の為に……買ってきてくださったんですよね?」
「いや、一番硬そうなヤツを選んだだけ。何の本なの?」
「まださわり程度なので確定出来ませんが、拳一つで旅をする少女の冒険譚だと思います」
「ふーん……まぁ、アンタにお似合いだな」
「ど、どういう意味ですか!?」
「料理作ってるから話しかけないで」
「アルフさんから話しかけてきたんですよ!?」
まぁ、多少の意味はあったのだろう。




