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屋上での会話たち  作者: 吉川緑
水野と竹宮編
9/24

夢のあと……?

「やっぱどこも良くないなあ……」

「せんせー。何してんすか?」


 聞き慣れたパーカーのメガネ娘――竹宮(たけみや)の声がする。


 そこは都会のビル群に囲まれた非常階段の踊り場。せんせーと呼ばれた水野(みずの)は、売れないゲームのプロデューサーである。

 水野は答えた。


「決算見てんの。ほら、時期だろ」

「えっ……」


 言葉と同時に、竹宮は大げさな動きで身体をのけぞらせておののいた。

 まさか意外だとでも言うのだろうか。これでもこちとら、数字に一喜一憂する立場なのだが……。


「決算って……なんのすか?? せんせーの先行きが明るいとは言いませんけど、まだ人生締めくくるには早いはやい!」

「は?」

「……え?」


 数瞬の沈黙。


「なんで人生の総決算をこんな日陰のビル片隅でやんだよ! 他社の業績! 売上利益! 業界動向を見てんの!」

「紛らわしい定期」


 はぁ、と水野は肩を落とした。


「それで何がわかったんすか? 私はニュースなんてアニメとゲームくらいしか見ないすけど」

「ゲームニュース見てるならワンクリックしろよ……。まあ、いいや。とりあえず、各社大きく業績落としてるな」

「ほう。それはつまり?」


 水野は手のひらスマホを竹宮に向ける。


「主にこういうことだ」

「んー。これは……げ。サ終したゲームのアイコン?」

「そう。ちなみに、こっちは23年度な。で、こっちが……」

「趣味悪い定期」


 まるで墓標のようなフォルダの数々だ。けれど、これくらいはしてもバチは当たらないと水野は考えている。


 いまのゲーム、その主要な戦場はスマートフォンや蒸気を冠するPFなど、オンライン上が中心になっている。


 そこでは、国内外を問わず各タイトル間での乱戦が繰り広げられ、大作と呼ばれた巨大艦隊すらも、容赦なく撃沈していく。


 継続五年を優に超える古強者が、新進気鋭の新兵たちの墜落をどんな表情で見送れというのか。


『だから言ったのに』


 その言葉を、ここ最近何度聞いたことだろう。


「ともかくだ。どこも調子悪いんだよ。自称量産失敗の会社も、大型爆死のあそこも、もう先行き真っ暗だ。墓標くらい残して覚えておいてやらないと、浮かばれないだろうよ」


 こういうタイミングでは、業界を離れる者も多い。彼らはB2B2Cの中にあって、表だった引退ポストをすることすらできないのだ。


 ーー守秘義務。


 はっきり言えば、サービス終了の方がまだマシかもしれない。


『Pがダメなやつで、ずっと燃えてたんですよ』

『方針が二転三転して、何やってるかわからなくなって』


 公にされたタイトルなら、そんな業界の愚痴を次に繋げることもできる。だが、開発中で終わってしまえば……


『アセット管理してました。何も見せられないですけど』

『レベルデザインと季節イベントのスクリプトを書いてました。ユーザープレイしてないですけど』


 そんな空白にも見えかねない項目が、職務経歴書の数年間を占めるのだ。


「そんなもんすかねえ」

「そんなもんだ」

「……知ってる定期」


 小さな竹宮の呟きは、水野には届かない。

 ただそれでも、短く瞬いた竹宮のスマートフォンには、かわいらしい猫耳娘が首を傾けていた。


(あのキャラ、なんだったっけな)


 墓標くらいバチはあたるまい。

 数ヶ月前CMで主役を張っていた彼女の名前さえ、もう思い出せないのだから。


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