不具合始末……?
ビル群に囲まれた非常階段の踊り場。
いつものように座り込んだ水野はプロデューサーである。
「これ……何で間違っちゃったのかわかる?」
竹宮はスマホの画面を何度もタップしつつ答えた。
「デザイナーの私が知るわけない定期」
「そうかもしんないけどさ」
水野の売れないゲームは二週間ぶりの更新をした。新しいイベントやら、ログボの更新やら、細々としたよくあるアップデートだ。
しかし、そんな何でもない日にも、不具合は起こる。
「これ……。メディアに怒られんのかな」
「怒られてください」
「返金とかあったらどうしよ……」
「お金返してください」
竹宮は我関せずと素気無い。
「キャラ追加前倒しして、ストック全部突っ込んでやろうかな」
「私じゃなくてプランナーがキレる定期」
「冷たいな。お前……」
水野のウザ絡みに、ようやく竹宮は顔をあげた。ピンクのアッシュ髪にジャージ姿。メガネ奥のダウナーな目を僅かに細めて、竹宮はスマホの画面を水野に向ける。
「そうですか? ちゃんとデバッグしてますよ。ほら、50万コイン貯まりました」
「お前のアカウント、BANしてやるからな……」
「ひゃー。職権らんようー」
気の抜けた竹宮の言葉に水野は立ち上がった。
「電話してくる」
「どこへ?」
水野は俯いて言った。
「緊急メンテ入れろって」
「え、さっき終わったのに?」
メンテナンスが終わってから、まだ三十分も経っていない。
ようやく事の重大さに気づいたのか、竹宮はめずらしく目をぱちぱちさせている。
「DUPEだし、相手に迷惑かかるから」
今回のバグは本編と何の関係もないものだ。よくある「⚪︎×をするとコインゲット」のような機能、広告マネタイズの部分で『課金石の無限増殖』が起こっていた。
「そー……っすね。でも、イベント始まってます」
「とりあえず蓋すりゃいいし、不公平だから」
ーー不公……平。呟いた竹宮は妙にそわそわし始める。
「あー、吉川さん? うん。チャット見た。とりあえず緊急メンテ入れて、告知出して。うん。時間未定でいいよ。とりあえず蓋して詳細……あー、そうだね。調査後にお詫びとかの詳細で。うん、ありがとう。…………うん。悪質なやつはーー、まぁ、BANっしょ。プレイヤー名出してー、うん」
水野はチラ、と竹宮の方を見る。竹宮は視線を剥き出しのコンリートに貼り付け、小刻みに震えていた。
ーーこいつ、ほんと面白いな。
水野はとっくに切れていたスマートフォンを耳から離して言った。
「竹宮さん」
「は、はい。なんすかせんせー……」
「お前のアカウントで実験したことにして、石回収するから。ぜったい使うなよ」
「は、はひっ!」
慌てて席に戻っていく竹宮を見送って、水野は再び電話をする。
「もしもし、お世話になっております。あー、そうです。リワードの件で。いや、すいませんー。ですよねー……」
話しながら水野は煙草に火をつけた。