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屋上での会話たち  作者: 吉川緑
水野と竹宮編
4/24

不具合始末……?

 ビル群に囲まれた非常階段の踊り場。

 いつものように座り込んだ水野(みずの)はプロデューサーである。


「これ……何で間違っちゃったのかわかる?」


 竹宮(たけみや)はスマホの画面を何度もタップしつつ答えた。


「デザイナーの私が知るわけない定期」

「そうかもしんないけどさ」


 水野の売れないゲームは二週間ぶりの更新をした。新しいイベントやら、ログボの更新やら、細々としたよくあるアップデートだ。


 しかし、そんな何でもない日にも、不具合は起こる。


「これ……。メディアに怒られんのかな」

「怒られてください」

「返金とかあったらどうしよ……」

「お金返してください」


 竹宮は我関せずと素気無い。


「キャラ追加前倒しして、ストック全部突っ込んでやろうかな」

「私じゃなくてプランナーがキレる定期」

「冷たいな。お前……」


 水野のウザ絡みに、ようやく竹宮は顔をあげた。ピンクのアッシュ髪にジャージ姿。メガネ奥のダウナーな目を僅かに細めて、竹宮はスマホの画面を水野に向ける。


「そうですか? ちゃんとデバッグしてますよ。ほら、50万コイン貯まりました」

「お前のアカウント、BANしてやるからな……」

「ひゃー。職権らんようー」


 気の抜けた竹宮の言葉に水野は立ち上がった。


「電話してくる」

「どこへ?」


 水野は俯いて言った。


「緊急メンテ入れろって」

「え、さっき終わったのに?」


 メンテナンスが終わってから、まだ三十分も経っていない。

 ようやく事の重大さに気づいたのか、竹宮はめずらしく目をぱちぱちさせている。


「DUPEだし、相手に迷惑かかるから」


 今回のバグは本編と何の関係もないものだ。よくある「⚪︎×をするとコインゲット」のような機能、広告マネタイズの部分で『課金石の無限増殖』が起こっていた。


「そー……っすね。でも、イベント始まってます」

「とりあえず蓋すりゃいいし、不公平だから」


 ーー不公……平。呟いた竹宮は妙にそわそわし始める。


「あー、吉川(よしかわ)さん? うん。チャット見た。とりあえず緊急メンテ入れて、告知出して。うん。時間未定でいいよ。とりあえず蓋して詳細……あー、そうだね。調査後にお詫びとかの詳細で。うん、ありがとう。…………うん。悪質なやつはーー、まぁ、BANっしょ。プレイヤー名出してー、うん」


 水野はチラ、と竹宮の方を見る。竹宮は視線を剥き出しのコンリートに貼り付け、小刻みに震えていた。


 ーーこいつ、ほんと面白いな。


 水野はとっくに切れていたスマートフォンを耳から離して言った。


「竹宮さん」

「は、はい。なんすかせんせー……」

「お前のアカウントで実験したことにして、石回収するから。ぜったい使うなよ」

「は、はひっ!」


 慌てて席に戻っていく竹宮を見送って、水野は再び電話をする。


「もしもし、お世話になっております。あー、そうです。リワードの件で。いや、すいませんー。ですよねー……」


 話しながら水野は煙草に火をつけた。

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