クリエイター・・・?
「なあ、竹宮。お前は本当に会社から必要とされているか?」
都会の片隅。再開発の進む街。もう屋外は寒い。そんな、ビルの踊り場。
問いかけられた女、竹宮は首を傾げる。
その拍子に、ピンクのインナーカラーがちりちり鳴く蛍光灯に照らされた。
「なんすかせんせー。残業続きで光の戦士にでも目覚めましたか? それとも、ついに会社の犬にでも?」
相手にするのもバカらしい、そんな表情の向かいにいるのは、水野だった。
「いやな、ちょっとしたニュースを見て思ったんだ。お前はクリエイターだからいいよ。でもな、俺たちは……」
「はあ? どっちなのかはっきりしろ定期」
ひんやりした空気は竹宮の視線で、まるで刺すような吹雪みたいだった。
水野だって、要不要の話をしたい訳じゃないのだ。
「クリエイターファースト。その言葉って、言うほど実現されてないよな、って」
「んん? んー。そりゃ、予算に工数。勤務時間まで契約に入ってますから。社内クリエイターなんてそんなもんでしょう」
言うほど、フリーランスも楽じゃなかったですから、竹宮は付け加える。
「お前はなんでここ来たんだっけ?」
「成り行きっすよ。固定案件欲しいときにたまたま打診あって――って。どうしたんすか? 煙草も吸わずにボーッとして」
「健康診断前だ。ほっとけ。それよりな、居心地はどうだ? もし仮にお前が、この職場を卒業したとして、戻ってきたいと思うか?」
そう言って、水野は煙草を咥える。
「零細ゲーム会社なんて、来年どうなるかもわかんない定期。まあ、今のPは? 幸い? マシな方っすけどね」
「……悪い気はしないな」
「一気に卒業したくなる反応っすね」
へへへへー、とは続かなかった。竹宮がマシと言うなら、水野はそれなりにまともなプロジェクト運営が出来ているらしい。
「いやなー。思うんだよ。クリエイターは大事だ。そう言うのは大抵が俺たちビジネスサイドだ。そのくせ、やってることは逆だよなーって」
「どういうことすか?」
「組織論だよ。本当にクリエイターが大事なら、そっちを社員にして囲んで、ビジネスサイドを業務委託にした方が正しい」
ビジネスサイド――。
プロデュースや組織運営。広報マーケティングに品証や顧客対応。
これらは、組織化され属人化しにくい業務領域だ。
言い換えれば、パージしやすい。
水野は苦いものを吸ったような心地だった。
「にも関わらず、いまの会社組織は逆だ。これはおかしい。誰も言わないがな」
もちろん、自分で自分の職を失う提案をする人間はまずいない。
つまりこれは理想的で非現実的なファンタジーだ。しかし……
「あぁ。クリエイターだけの楽園を妄想していたからそんな暗いカオなんすね」
「暗くもなるだろ」
なりたくて成れる人間はごく一握り。パワーバランスが違いすぎるのだ。
「心配しなくても、そんな楽園があったらせんせーも入れてあげますよ。私は寛大ですから」
竹宮はふん、と胸を反らす。
視線の先には澄んだ夜空が、ぼんやりと月を浮かべていた。
「喫煙所くらいは用意してあげましょう。……ここは寒いっすから」
「そりゃあ、ありがたいな」
「まだいますか?」
応えの代わりに、水野は咥えたままの煙草に火を付ける。
手のひらに微かな熱と、小さな灯りを感じていた。
「これだけ吸ったら戻るよ」
「はいはい」
竹宮は古い扉を押し開けつつ振り返った。
「せんせーは悪くないPっすよ。転職6回の私が保証しておきます」
それだけ言って、竹宮は扉の中に消えた。
「6回ってお前……。道理で」
入社直後の、よそよそしく猫被りだった竹宮を思い出した。
あの頃から考えれば――。
「もう少し、このタイトルが終わらないように考えていかねえとな……」
数字だけが、ビジネスサイドでの正義なのだから。




