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屋上での会話たち  作者: 吉川緑
水野と竹宮編
30/30

クリエイター・・・?

「なあ、竹宮(たけみや)。お前は本当に会社から必要とされているか?」


 都会の片隅。再開発の進む街。もう屋外は寒い。そんな、ビルの踊り場。


 問いかけられた女、竹宮は首を傾げる。

 その拍子に、ピンクのインナーカラーがちりちり鳴く蛍光灯に照らされた。


「なんすかせんせー。残業続きで光の戦士にでも目覚めましたか? それとも、ついに会社の犬にでも?」


 相手にするのもバカらしい、そんな表情の向かいにいるのは、水野(みずの)だった。


「いやな、ちょっとしたニュースを見て思ったんだ。お前はクリエイターだからいいよ。でもな、俺たちは……」


「はあ? どっちなのかはっきりしろ定期」


 ひんやりした空気は竹宮の視線で、まるで刺すような吹雪みたいだった。

 水野だって、要不要の話をしたい訳じゃないのだ。


「クリエイターファースト。その言葉って、言うほど実現されてないよな、って」


「んん? んー。そりゃ、予算に工数。勤務時間まで契約に入ってますから。社内クリエイターなんてそんなもんでしょう」


 言うほど、フリーランスも楽じゃなかったですから、竹宮は付け加える。


「お前はなんでここ来たんだっけ?」


「成り行きっすよ。固定案件欲しいときにたまたま打診あって――って。どうしたんすか? 煙草も吸わずにボーッとして」


「健康診断前だ。ほっとけ。それよりな、居心地はどうだ? もし仮にお前が、この職場を卒業したとして、戻ってきたいと思うか?」


 そう言って、水野は煙草を咥える。


「零細ゲーム会社なんて、来年どうなるかもわかんない定期。まあ、今のPは? 幸い? マシな方っすけどね」


「……悪い気はしないな」

「一気に卒業したくなる反応っすね」


 へへへへー、とは続かなかった。竹宮がマシと言うなら、水野はそれなりにまともなプロジェクト運営が出来ているらしい。


「いやなー。思うんだよ。クリエイターは大事だ。そう言うのは大抵が俺たちビジネスサイドだ。そのくせ、やってることは逆だよなーって」

「どういうことすか?」


「組織論だよ。本当にクリエイターが大事なら、そっちを社員にして囲んで、ビジネスサイドを業務委託にした方が正しい」


 ビジネスサイド――。

 プロデュースや組織運営。広報マーケティングに品証や顧客対応。

 これらは、組織化され属人化しにくい業務領域だ。


 言い換えれば、パージしやすい。


 水野は苦いものを吸ったような心地だった。


「にも関わらず、いまの会社組織は逆だ。これはおかしい。誰も言わないがな」


 もちろん、自分で自分の職を失う提案をする人間はまずいない。

 つまりこれは理想的で非現実的なファンタジーだ。しかし……


「あぁ。クリエイターだけの楽園を妄想していたからそんな暗いカオなんすね」

「暗くもなるだろ」


 なりたくて成れる人間はごく一握り。パワーバランスが違いすぎるのだ。


「心配しなくても、そんな楽園があったらせんせーも入れてあげますよ。私は寛大ですから」


 竹宮はふん、と胸を反らす。

 視線の先には澄んだ夜空が、ぼんやりと月を浮かべていた。


「喫煙所くらいは用意してあげましょう。……ここは寒いっすから」

「そりゃあ、ありがたいな」

「まだいますか?」


 応えの代わりに、水野(みずの)は咥えたままの煙草に火を付ける。

 手のひらに微かな熱と、小さな灯りを感じていた。


「これだけ吸ったら戻るよ」

「はいはい」


 竹宮は古い扉を押し開けつつ振り返った。


「せんせーは悪くないPっすよ。転職6回の私が保証しておきます」


 それだけ言って、竹宮は扉の中に消えた。


「6回ってお前……。道理で」


 入社直後の、よそよそしく猫被りだった竹宮を思い出した。

 あの頃から考えれば――。


「もう少し、このタイトルが終わらないように考えていかねえとな……」


 数字だけが、ビジネスサイドでの正義なのだから。

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