定例会議……?
「えーと、今週はこれで全員揃ってますかね」
自宅の片隅。ノートPCと接続されたインカムから、めいめいの返事が届く。
画面にはアニメアイコンやらどこかの惑星やら。参加者それぞれの趣味が光……もとい、映っていた。
全員の参加を確かめた水野は続ける。
「それでは、今週の定例会を始めます」
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水野はゲームのプロデューサーである。
担当タイトルはCS(家庭用)ではなく、運営系(基本無料)だ。
リリースは三か月ほど前。売れ行きはと言うと『絶不調』だった。
スタートダッシュがほぼ全てのこういったゲームは、大体サービス三日目にはおおよその運命が決まってしまう。はっきり言えば、世間やトレンドで『もってあと半年』そんなことを言われているなら、まだマシなのだ。
本当に売れないゲームは、誰からも気づかれない。
誰にも気づかれないまま、ひっそりと死んでいく。
生まれるまでの何人月もの労力も、時に会社を傾けるような多大な金も、神ゲーとして企画された希望も。すべてを失ってもなお、負債を生み続けて忘れられていく。
『わたしが好きなゲームってすぐ終わるんすよ。せんせーはやめてくださいね』
水野の同僚である竹宮は、そんなことを言っていた。
さておき。
定例会議ーーそんな企業人としてはよくある日常の一コマは、売上の進捗やら直近のトピックスやら。開発状況に細々した確認事項といった、他業界とそれほど変わらない様相を見せ、進んでいく。それでも、やや違うのは……
「あー、そう言えば、金曜休む人は?」
水野が問う金曜とは、連休前や祝日振り返りではない。
「はい! わたし休みます!」
「すいません。俺も……ティアキンで」
「ふふっふふ。そうだよねぇ。同じくです」
みなが同時に笑っているだろうことを、発話中を示す黄色い枠の点滅が知らせている。
有名タイトルの発売日は、チャットへのレスが遅くなることが多い。水野は経験的にそのことを知っていたし、咎める理由もない。ゆえに、確認だけをとって会議を閉める。
「じゃあ、金曜はハイラルにみんな行ってるってことで。何かある人は木曜中にチャット投げといてください」
ーーリモートワーク中なんて遊びたい放題。
それを地でいくのがこの業界だ。そもそも、出勤時でも平気で他社のゲームをしているのだから。
「ま、俺は出勤するけどね……」
「わたしも出ますから。有給惜しいので。じゃっ!」
「竹宮……いたの?」
返事も待たずに竹宮は切断されていた。
「こいつも意外と仕事が……いや、違うか」
竹宮はなんだかんだで、この売れないゲームーー水野と作り上げたこの世界が好きなのだ。
ゆえに、少しでも延命しようとあがいている。
「水着投票キャンペーン……ね」
それは、竹宮からの提案だった。人気あるキャラを水着にするのは、ある意味鉄板ではある。しかし……。
どうしたものかと水野は背もたれを傾け、煙草に火をつけた。