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屋上での会話たち  作者: 吉川緑
水野と竹宮編
3/24

定例会議……?

「えーと、今週はこれで全員揃ってますかね」


 自宅の片隅。ノートPCと接続されたインカムから、めいめいの返事が届く。

 画面にはアニメアイコンやらどこかの惑星やら。参加者それぞれの趣味が光……もとい、映っていた。


 全員の参加を確かめた水野(みずの)は続ける。


「それでは、今週の定例会を始めます」


 ーーーー

 ーー

 ー


 水野はゲームのプロデューサーである。

 担当タイトルはCS(家庭用)ではなく、運営系(基本無料)だ。

 リリースは三か月ほど前。売れ行きはと言うと『絶不調』だった。


 スタートダッシュがほぼ全てのこういったゲームは、大体サービス三日目にはおおよその運命が決まってしまう。はっきり言えば、世間やトレンドで『もってあと半年』そんなことを言われているなら、まだマシなのだ。


 本当に売れないゲームは、誰からも気づかれない。

 誰にも気づかれないまま、ひっそりと死んでいく。


 生まれるまでの何人月もの労力も、時に会社を傾けるような多大な金も、神ゲーとして企画された希望も。すべてを失ってもなお、負債を生み続けて忘れられていく。


『わたしが好きなゲームってすぐ終わるんすよ。せんせーはやめてくださいね』


 水野の同僚である竹宮(たけみや)は、そんなことを言っていた。

 さておき。


 定例会議ーーそんな企業人としてはよくある日常の一コマは、売上の進捗やら直近のトピックスやら。開発状況に細々した確認事項といった、他業界とそれほど変わらない様相を見せ、進んでいく。それでも、やや違うのは……


「あー、そう言えば、金曜休む人は?」


 水野が問う金曜とは、連休前や祝日振り返りではない。


「はい! わたし休みます!」

「すいません。俺も……ティアキンで」

「ふふっふふ。そうだよねぇ。同じくです」


 みなが同時に笑っているだろうことを、発話中を示す黄色い枠の点滅が知らせている。

 有名タイトルの発売日は、チャットへのレスが遅くなることが多い。水野は経験的にそのことを知っていたし、咎める理由もない。ゆえに、確認だけをとって会議を閉める。


「じゃあ、金曜はハイラルにみんな行ってるってことで。何かある人は木曜中にチャット投げといてください」


 ーーリモートワーク中なんて遊びたい放題。

 それを地でいくのがこの業界だ。そもそも、出勤時でも平気で他社のゲームをしているのだから。


「ま、俺は出勤するけどね……」

「わたしも出ますから。有給惜しいので。じゃっ!」

「竹宮……いたの?」


 返事も待たずに竹宮は切断されていた。


「こいつも意外と仕事が……いや、違うか」


 竹宮はなんだかんだで、この売れないゲームーー水野と作り上げたこの世界が好きなのだ。

 ゆえに、少しでも延命しようとあがいている。


「水着投票キャンペーン……ね」


 それは、竹宮からの提案だった。人気あるキャラを水着にするのは、ある意味鉄板ではある。しかし……。


 どうしたものかと水野は背もたれを傾け、煙草に火をつけた。


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