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屋上での会話たち  作者: 吉川緑
水野と竹宮編
28/30

ビルの踊り場で休憩していた話。

「おい、気づいたか。人類は滅亡する」


 古びたビルの踊り場。夏が過ぎて冬に突入する最中。

 水野(みずの)はいつものように、眼鏡の同僚女――竹宮(たけみや)に話しかけた。


「1999年はもう過ぎた定期」

「違う、違うって。確信だよ、そう。わかったんだ」


 水野は煙草を指揮棒のように振りながら竹宮へ訴えた。

 与太話。世迷い言。統合の失調か陰謀論。


 水野には、そのどれもが当てはまるようでいて、ふわふわと通り過ぎていた。


「まあ、せんせーですから。話しだけは聞きましょう」

「つまりな、世の中に生まれるコンテンツが人類の処理を上回ったんだ」

「はあ?」


 うさんくさげな竹宮を放って、水野は続ける。


「わからんか。衰退は、自己模倣から始まる。AIがそこに達した。だから人類は滅びるんだ」

「ちょ、ちょっといいですか?」


 竹宮は手を伸ばして水野の額に押し付ける。

 冬の温度が映った竹宮のひんやりした手のひらを水野は好ましいと思った。

 夏は汗をかいて、冬は冷える。人間の指先は、そういうものだった。


「熱……じゃなさそうっすかね。働かせすぎましたか?」

「仕事のせいじゃない。気づけないことが問題なんだ」


 水野は思う。

 処理のしきれなくなった情報は、何も生み出すことなく積まれ続ける。

 そうして、ジャンクの山を読み続けるAIは汚染され続けるのだ。


 ――自己の再生産。これは万物に共通する滅びの合図だ。

 ぐるぐる、ぐるぐると、犬が自分の尾を追うように。たこが己の足を喰うように。


 やがて、何もなくなっていくのだ。


「気づいたときには、もう取り返しがつかない経験、あるだろ」

「ガシャを天井まで回した後のカード明細、とかっすか?」


 もしかすると、もう誰もいないのかもしれない。

 画面の前にも、向こうにも。言葉でさえ、通じると信じるから伝わるのだ。


「それは、ただの自業自得だな」

「そっすか。あ、でもせんせー」

「なんだ?」


 竹宮はふふふ、と不敵に笑うと人差し指を水野に突きつける。


「取り返しはつきますよ。残業したら、稼げます」

「命削ってまで働きたくねえよ……」


 さっさと仕事奪ってくれないか――。水野はそう、AIに祈った。


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