六月とは……?
「竹宮、最強コンテンツ考えついたわ」
「なんすかクソ忙しいときに」
それは六月だった。日差しはずいぶん強くなって、四月から走り始めた新たな体制も馴染んだ頃だ。
ゲーム業界で六月というのは、仕込みの時期だ。夏休みに向けてソフト受注を行なったり、夏ガシャに向けて準備をしていたり、とかく慌ただしい。
……少し脱線するが、ゲームこサービス開始は六月がいいとする説がある。イベントモチーフに悩む六月を周年で過ごせ、スタートダッシュで集めたユーザーに、水着ガシャというフィニッシャーをぶつけられるから、というのが主な理由だ。
他にも、予算進捗の固い第一四半期なら、延期申請が通りやすいーーなんてのもあると聞く。
話はそれたが、そんな思惑と仕込みの梅雨空の下。二人の男女がビルの踊り場でしゃがみこんでいた。
紫煙をふかす眼鏡の男は水野。その隣でスマートフォンを見つめている女は竹宮だ。
平坦なようですこし甘く掠れた声で、竹宮が話し始める。
「全社赤字でボーナスなしとかどういうことっすか? うちら、赤字になったことない定期」
水野が横に視線をやると、アンダーリムの眼鏡とピンクのインナーカラーが目に入った。その先にある表情はーー。うん、能面だな。
「もういいよ、その件は。決起会の予算、通したからさ。お前が言ってた、炙りチーズなんちゃら。あれもあるから」
「……イチボ、ミスジ、シャトーブリアン……」
「ほら、だからさ。最強の組み合わせ、訊いてくれよ!!」
もっと良いとこの飯が食いたかったのだろう竹宮の言葉をさえぎる。気持ちはわかる。だが、肉の希少部位は呪詛じゃないのだ。
「実在のVtuberでガンプラバトルしたら良くない?? アニメも作れるし、ゲームにもなる。プラモも売れるし、Vtuberも案件になる。誰も損しなくない??」
「はっ?」
竹宮の声は、凍てつく氷河をシャベルで掘ったときみたいに鈍く響いた。
「せんせーさあ。監修って知ってる? 知らないわけないっすよね? わたしに、散々やらせてたんっすからね定期」
「いや、ほら、そこは事前に話し合うとかで……」
竹宮が言いたいのは、絵図が良くても権利者が多いと現場は大変、ということだ。『一将功なって万骨枯れる』とは、プロデューサーの無邪気な思いつきのことを言うのだろう。
「ぜっったい、むり! それぞれに絵師もいるの定期。それぞれがWINWINなんて夢物語! 責任擦り合い、仕事の押し付け合い! 赤字の埋め合わせ!」
良くないときに、地雷を踏んだと水野は理解する。いつもやってくれている分、溜め込んでいたのだろう。
仕方ない、と水野はため息を吐いた。
「わかった。今度また、なんかおごってやるから、勘弁してくれ……」
「トリュフ、フォアグラ、キャビア……」
名前を並べながら、竹宮はもうこっちを見ていなかった。煙草の火が指先を焦がして、水野ははじめて気づいた。
「……値段じゃなくて、食いたいの考えろよな」
六月の空は、まだどこにも雨の気配を寄せていなかった。




