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屋上での会話たち  作者: 吉川緑
水野と竹宮編
19/27

新しい刺激……?

「やっぱすげえな、くじろくじ……」


 紫煙をふかす眼鏡の男がいるのはビルの階段踊り場だった。

 彼の名は水野(みずの)。そこは都会のビル街の片隅で、じきに建て替えが進むであろう古いエリアだ。


「そうですねえ。わたしもボイスドラマは聞きますけど……」


 平坦なようですこし甘く掠れた声の主は竹宮(たけみや)だ。

 アンダーリムの眼鏡が印象的で、画面をくいいるように覗き込む顔からはピンクのインナーカラーがちらりと覗く。


「なかなか計算しにくいよな。言われてみればターゲットに合ってるんだけど」

「そうですねえ」


 二人が見つめるタブレットには、大立ち回りの特撮ヒーローが縦横無尽に駆け回っている。


 繰り広げられているのは『ヒーローショー』だ。

 観客の眼前、敵味方が躍動するそこは、まさにステージだった。


 見慣れない姿に聞き慣れた声。ちぐはぐにも思えるシチュエーションだったが、不思議とそれは理想的に見えた。


「確かに、変身しちまえば素顔はわからんからな」

「アフレコみたい定期」

「そうだな……」


 アフレコーー竹宮がそう言ったのには理由がある。

 ステージでバトルをしているのは、"ヒーローの姿"をしたVtuberたちだ。

 普段は2D、ときには3Dにもなる彼らだが、その存在は画面の中でこそ感じられるものだ。


 しかしーー。


『わあ』という黄色い声援とともに、ステージはヒーローが勝利の名乗りを挙げて終わった。

 ぱちぱち、と竹宮も目を輝かせて手を叩いている。


『みんなのチカラで勝てたよ! じゃあ、ここで新曲ーー』


 その瞬間、観客の前に立つ彼らは、まさに本物のヒーローだった。

 それは、画面を通じて見ている、水野と竹宮にとっても同じだった。


「そりゃあ、確かに女性は特撮好きだよ? でもなあ、こうやってるのを見ると、満足度やばいな」

「そっすね。ボイスドラマとして見ても味がしますし、それが実写、歌まであるんですからねえ」

「それどころか、全国各地でこれやれるだろ。営業先に困らんな」


 水野は都内から三重県、関西、九州と日本地図を思い浮かべながら言った。


「スパセンアイドルっつーのもいたし、キラーコンテンツになるだろ」紅白出てたしな、と水野は続ける。


「着ぐるみショーも好きでしたけどね、わたしは」

「あれもなー。惜しいとこまではきてたな」

「十分定期」


 勝手にハードル上げすぎてた、呟いて水野は立ち上がる。


「さて、仕事するか」

「は? え?」

「なんだよ?」


 露骨に驚いた竹宮を水野はじとっと見つめる。


「せんせーが仕事するとか、ありえない定期」

「……インプット不足が解決したんだよ」


 水野は隔壁みたいに重たい扉を押して消えていった。


「……何かやりたくなるのはわかりますけれど、ね」


 竹宮は肩をすくめる。

 階段の踊り場には、近づく春の、陽があふれていた。


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