映像化……?
「巨人がきた」
「は? 目でも腐りましたか。せんせーは」
そこは都会のビル群に囲まれた非常階段の踊り場。せんせーと呼ばれた水野は、売れないゲームのプロデューサーである。
「ちげーよ。知らんのか、最強キャラクターたちの集結を」
「説明しろ定期」
水野に向かって、うさんくさげな目を向けているのは竹宮だ。彼女はデザイナーで別に生徒ではない。
にも関わらず『せんせー』呼びをしてくるのは、きっと水野が竹宮のメンターだった頃のなごりだろう。
竹宮がはやくしろと首を傾げていく。すると、ピンクのインナーカラーが重力に従い垂れた。
「つまりな、大人気Vたちがコミカライズ、それに映像化されるんだよ」
「はあ。なんかそんなの前もありませんでしたっけ。ミニキャラでー、なぜか学校に集められるっていう」
竹宮が言うのは、異世界に転生やら召喚やらした面々が謎の学校に集う作品だ。アニメーション化もされている。
「あった。だが、俺の見るところではあれはコラボレーションであって、今回は出演なんだよ」
コラボレーションと出演。その意味するところは、水野にとって大きく異なる。
あくまでも原作あってのコラボレーションに対して、出演はその作品自体が原作になるのだ。
「うーんと……。モノクマさんとドラえもんが同じ作品内に出てきたらコラボ……。のぶ代さんとわさびさんが同じ作品に出ていたら出演……ですか?」
「そうだけど、そのたとえは紛らわしい」
竹宮はこれで案外飲み込みの良い生徒だ。理解したうえでこぼけを差し込んでくる。
「これまでの似た取り組みと決定的に違うのはその実在性だ。某皇女の言葉がわかりやすい」
「その言葉ってのは?」
「『リプライとかマシュマロは見て、届いているから。バーチャルライバーは双方向性コミュニケーションだから』」
皇女は、自身がかつて、某ゲームキャラクターのガチ恋勢だったとも語っている。
その経験があったゆえの言葉ではあろうが、これはある意味で本質をさしていた。
「モノクマさんと話すことはできないけど、のぶ代さんとは言葉を交わせる……ってこと?」
「そういうことだ」
「まるでドラマに出てくるアイドルかタレント定期」
実写の界隈ではよく行われていることだ。視聴率や劇場動員数……いわゆる数字のために人気あるキャストが選ばれるのは。
もちろん、アニメやゲームにもCV:○○のような形で行われてはいる。しかし、今回のメディアミックスはそれより一歩踏み込んでいるのだ。
「どうする? そういう大人気Vが異世界に行ったり、婚約破棄されてざまあしたりする作品が出てきたら」
「せんせーはまるで、プロデューサーみたいに語りますね」
「まるで、じゃないぞ。実績ある筋書きに超人気タレントの共演だ。どうだ、巨人の来訪だろう?」
「ふん」
水野のきらきらした目に向かって、竹宮は冷たい視線を向けた。
「残念ですけど、そんな思惑通りにいきませんよ。なぜって……」
口角を上げてにいっと不敵に笑った。まるで、その背後には燃えるような闘志が沸き上がっているかのように。
「わたしの描く子が、もっと愛されるに決まっていますからね」