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屋上での会話たち  作者: 吉川緑
水野と竹宮編
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売れない、冴えない、続かない?

 扉の先にある階段の踊り場では、晴れた空が細長く見える。

 周りには、このおんぼろな建物と違って、綺麗なビル、ビル、ビル……。


「……もって半年、か」


 大学生が着ていそうなパーカーをひっかけ、紫煙上げつつ銀バケツに灰を落とす男。彼――水野(みずの)はノートPCに映るいくつもの数字を見つめながら、途方に暮れていた。


 平凡な風体。もちろん、地位も名声も金もない。それでも、水野には大仰な肩書きがあった。人が手のひらを打つような『代表作』さえないにも関わらずーー


 彼はプロデューサーだった。売れず、流行らない、ごくごく小さなゲームをいくつか手がけたくらいの。


「……人が足りん」


 スタッフや人手の話ではない。ゲームをプレイしてくれるユーザー。ガシャやら時短品やらを購入してくれる課金者。何の気まぐれかゲームをレビューしてくれるインフルエンサーなどだ。


 引っ張って敵をブチ倒すあのゲームやテレビCMとランキング常連の擬人化娘たちのプロデューサーが抱える悩みとは比べるもおこがましい。


 彼はもっと初歩的で根本的な、ゲームのプレイヤー(アクティブユーザー)が足りないことで悩んでいた。人数がいなくても、石油王が札束で殴り合っているなら可能性はある。


 けれど、そんな夢みたいな話あるわけない。このままだと半年でサ終――誰から見ても明らかな惨状を確認した会議の後、水野はここで佇んでいた。


「せんせー。確認お願いしまーす」


 揶揄するような声の主はデザイナーの「竹宮(たけみや)」だった。ピンクのメッシュを髪に入れたほか、地味なジャージ姿。カラープリントを差し出しながら、メガネを押さえている。


「……お前って、実は売れてるVtuberだったりしない?」

「さっきの会議からの流れで言いたいことはわかりますけど……」


 竹宮は呆れたように腰に手をやった。


「んなわけありません」

「じゃあ、友達でもいいよ。それか、そうだな……。なんか、機密文書とか流出させてくれよ」

「炎上なら自分でしてください定期」

「うう」


 竹宮は鼻で笑う。付き合っていられないとばかりに、水野へカラープリントを付きつける。


「うわすっご! なにこれ? 天才絵師様のラフ?」

「はっ。なにって、次の実装候補案ですよ。今ならまだ差し替えられるって言うんで、描いたんですけど」

「いや、知ってる。知ってた。ほんとお前、メガネ姿とイラストだけは完璧だよな。この青髪娘とか絶対売れるよ」


 実装候補、それは月一回のキャラ追加の候補たちだ。ここに描かれたひとりひとりが、ゲームの生命線であり、ユーザーの財布を緩ませる実弾だった。


「……私もあなたの口車だけは買ってます。他は粗大ゴミですけど」

「辛辣すぎない?」

「鏡見ろ定期」

「……これでも傷心中だよ!? 二本連続で外してるし」

「売れないPはただの詐欺師ですからね」

「……。」


 予算をもらう時には景気の良い話を並べ立て、売れなきゃ言い訳三昧。勝てば左うちわ。負ければ詐欺師を地で行くのがプロデューサーという仕事だ。

 ヒット作を二本持ったなら、十万フォロワーだって夢じゃない。だがもし、二本外したら良くて他部署へドナドナ。悪ければ退社だろう。


 水野はため息をつく。

 竹宮の絵は確かにうまい。だが、これだけでは足りなかった。単月黒字にさえ、多少の追加では足りないのだ。


「竹宮。もっと数増やす方法ないか? この青髪ちゃんクラスが二人になったら、いけるかもしれないんだけど」

「むりむりカタツムリです。 いくら私が男のリビドーをくすぐる名人と言え、そんな簡単に出てくるわけないですよ」

「うーん……。なら、そうだ。あれやろう。同じモデル使って双子にするやつ。そしたらいける」

「先月もそうやって三姉妹出したじゃないですか。またデザイナーの性癖とか言われるのヤですから」


 付き合ってられないとメガネ女はカラープリントを引っ込める。


「とりあえず現実見てもろて。今月はこのまま進めますからね」

「あぁ。金ヅルが逃げる!」

「言い方考えろ定期」


 竹宮は去った。そして、万策も尽きていた。


「あと二ヶ月で黒字化……厳しいな」


 水野は細長い空を見上げた。





※本作は四コマ漫画を参考に短編を連載形式にまとめているものです

※不定期更新かつ、基本的に完結しません

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