ベッドの中
三題噺もどき―ひゃくにじゅうさん。
※表現注意※
お題:煙草・劣等感・未練がましい
「――った!」
ドサっ―という音と共に、ベットから落ちた。
気づかぬうちにかなり暴れていたのか、髪は乱れ、シーツはぐちゃぐちゃ。
寝る前にかぶっていた掛け布団は、ベットの端の方に追いやられていた。
落ち方が酷かったのか、体のあちこちが痛む。
幸い頭はさほど強く打っていないようだ。
痛む体をなんとか動かし、もぞもぞとベットの上へと戻る。
「……、」
枕はもとより使用していないので、ベットの上には掛け布団とお気に入りのクッションが並んでいる。
まぁ、正確にはベットの上の木枠に頭をぶつけないようにと、保護目的で置いているのだが。
おかげで凹んでいたりするものもある。
たまにそれの上に座っているせいもあるかもしれないが。
「……、」
意識に若干の靄がかかっているのか、頭がうまく働いていない気がする。
やはり打ちどころが悪かったのだろうか…。
もう一度寝直そうかとも思ったが、痛みでどうもそんな気にならない。
関節が痛い、というよりは全身の筋肉が痛いというか…肉離れでもしてるのではないかと思えるぐらいに酷い。
筋肉痛が酷いみたいな状態なのか、ギリギリと悲鳴を上げているようだった。
これだけ痛みが酷ければ、もう少し意識もはっきりしそうなのだが…それでも朦朧としている。
「……、」
とりあえず、時間を確認しようと備え付けられている棚へと手を伸ばす。
ん。
痛みが酷く動きやしないだろうと、思っていたが、案外動くものだな。
動かしている際も痛い事には変わりないのだが―むしろ更に悲鳴を上げているような気もするが―動かしてもたいした問題はないように、感じた。
動かしても、痛くない、というか、なんというか…ん、頭が混乱している。
―しかしまぁ、動いてくれることにこれ以上の喜びはないので、良しとしよう。
痛みをどうにかしてくれると完璧なのだが。
「……、」
頭がいまだ覚醒しきらないような感覚が、癪に障る。
動けば覚めるだろうか。
ちなみに、スマホで確認した時間は、夜中の二時。
いわゆる丑三つ時という時間帯。
そんなもの気にしたことはないが、この時間はなんとなく良くないモノが多いらしい。
そんなことを昔の友達が言っていた。
「……、」
そんなことはどうでもいいのだが。
―目覚ましついでに外で涼むのもありだろうか。
この時間なら外に人も居ないだろうし、気分転換にはなるだろう。
この痛みもどうにか慰められるかもしれない。
「……、」
部屋の椅子に掛けていたパーカーを手に取り、机に上に置いていた煙草を手に取る。
これだけ動いても、痛みは変わらず、しかし動くこと自体に支障はない。
箱の中身を確認し、一緒にライターが入ってることを目視。
手に取ったパーカーを羽織り、煙草を取り出しながらベランダへと向かう。
鍵を開け、ガラーと扉を開く。
パーカーを羽織っているが、若干肌寒い。
「……、」
口にくわえた煙草の先を、ライターであぶり、一息つく。
小さなマンションの一室。
住宅街にあるため、目の前には狭い道路と一軒家が立ち並んでいる。
もちろん、上空には美しい星空が広がっているのだが、こうも周りに光が多いと見えるものも見えない。
「……、」
スゥ―
と煙草を口に含む度、口内にジワリと熱が広がる。
じりじりと焼けるようなそれは、胸中に広がる劣等感を想起する。
自分でもよく分からないような、整理のしようがないような、それでも残り続ける。
未練がましく他人にしがみつき続ける自分に、嫌気がさしながらも、それも生きるすべだと言い聞かせ、それでも自分のほかの人間たちは自立していることを、見せつけられ。
自分にはできないと分かりきっていて、比べることに意味はないと言い続け、それでも残る劣等感にどうしたものかと、お手上げ状態になっている。
そんな自分が、嫌いで、嫌いで、生き汚くて、大嫌い。
「……、」
吐くたび白く揺れる煙を眺め、思考がぐるぐるとめぐる。
「……、」
いまだに靄がかかったような感じは抜けない。
考えたくもないことはしっかりと、頭の中をめぐるのに。
「……、」
そのうち、短くなってしまった煙草を落とし、もう一本、と思ったが、体によろしくないのでやめた。
ベランダから戻り、少し冷えすぎてしまった体を温めるため、ベットに戻る。
ふと、暗闇になれた目が、何かを写した。
「……?」
ベットの上が、なにか、黒く染まって、るような、
白いシーツを使っているので、汚れにはすぐ気づく。
先ほど気づかなかったのが、不思議なくらいに、黒い、―シミ?
しかし、黒、というよりは、赤―
「――っ」
瞬間、痛みが全身を襲った。
いや、起きた瞬間から痛みはあったのだが、それが、いっそう強くなった、というか、その存在を、主張し始めたというか、、
「?!」
がツっ―!!
と何かに殴られたように痛み出した。頭が。
無意識に、頭を抱えようと、手が動く。
――――が、そこに、何もなかった。
「????」
いや、なにかはあった。
やけに、ぬるりとした、なにか、
なんだ、これは、
痛みに耐えかね、ふら―と体が揺れる。
「!!」
先ほど窓を開けたせいで、カーテンがずれたのか、外からの光が、ベットに差し込んでいた。
それが、その上にあった、
「 」
一面に広がる、赤。
赤、赤、赤朱紅あか、あかあかかかかかかああああかかかかか あかがあかがあかが――――――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「!?!?!?!?
ベットの端に、追いやられていた、はずの掛け布団は、誰かの、足と、腕と、胸と、腹と、足と、腕と、内臓と、それらの塊、で
クッションは、頭で、脳みそで、耳で、目で、
「――?
あれは、誰か、では、なくて、誰でもなくて―
「った!」
ドサ―という音と共に、ベットから落ちた。
ズキズキと痛む体をさすりながら、ベットに戻る。
寝汗が酷いのか、何か、濡れたような。