88.第10章サイドストーリー「真弓と楓は誘いたい」
「うーっす」
平安高校野球部。
京都の名門校。
スポーツ王国、私立平安高校。
フットサルコート、テニスコートなど広大な敷地に充実した設備が揃う。
寮を完備し、全国から優秀な学生が集う。
中には海外から留学生として招待される選手も。
球児たちが練習を行う、平安高校敷地内にある常勝園グラウンド。
両翼100メートル、天然芝のグラウンド。
グラウンドのそばには室内練習場も完備。
各部活の生徒たちが利用できるウェイトトレーニング場。
投球練習場では、5か所同時に投球練習ができるブルペンも完備。
野球部の入部テストが終了し、新1年生たちが練習に加わる平安高校野球部。
監督は平安高校を高校野球の名門校にまで育て上げた名将、迫田監督。
迫田監督の方針、野球部の総部員数はこれまで最大で60名。
各学年20名前後。
今年の新1年生の入部希望者は28名。
入学初日に行われた入部テストの結果、20名が野球部入部を果たし、8名が脱落した厳しい世界。
元々2年生、3年生合わせて42人の部員が残っていた。
すでに監督の考える定員を2名オーバーする今年の平安高校野球部。
例年より2名、1年生が多い状態。
県で行われる地方予選、そして最終目標である甲子園へのレギュラー争いはすでに始まっている。
迫田監督から選手たちに伝達がある際は、必ず野球部主将を通じて全体へ指示がされる。
監督に呼ばれる野球部主将。
「岬」
「はい監督」
「ランニング。1年生がたるんでおる、カツを入れてこい」
「うっす!」
基礎体力作りは走り込みのランニング。
グラウンドをランニングしていた新1年生球児たちが主将の前に集められる。
「うっす」
「最下位だったやつは、俺の前でスクワット100回だ、気合入れろ!」
「うっす!!」
気合が入る新1年生たち。
厳しい主将からの一言でカツが入る。
ランニングを再び再開した新1年生球児たちに熱が入る。
その監督のそばには、3年生マネージャー2人の姿が。
「監督、お飲み物を」
「う、うむ」
「監督、今日も1年生の朝日君と結城君、頑張ってますね」
「そ、そうだな」
美人女子マネージャー、3年生の2人。
神宮司楓、成瀬真弓。
「監督、ランニングは適度な休憩も大事かと」
「う、うむ」
「監督、スクワット100回はかわいそうです。50回に減らしてあげて下さい」
「そ、そうだな。君」
「はい監督」
「岬主将を呼んできなさい」
「うっす!岬主将ーー」
神宮司楓、成瀬真弓がマネージャーとして入部して以降、甲子園には2度出場。
平安高校、春の甲子園1回、夏の甲子園が1回、準優勝が1回。
去年の夏の甲子園。
3年生の女子マネージャーが不在のため、2年生の2人はじゃんけんを実施。
神宮司楓がチョキ、成瀬真弓がグー。
結果、記録員としてベンチ入りしたのが、成瀬真弓であった。
迫田監督の両脇に立つ、圧倒的存在感の3年生マネージャー2人。
その2人が見つめる先、グラウンドをランニングする1年生たちに熱いまなざしを送る2人の姉妹の姿。
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常勝園グラウンドの外から、練習する球児たちを見守る女子2人の姿。
「心音、邪魔」
「文音、邪魔」
姉、空蝉文音。
妹、空蝉心音。
2人は平安高校、特別進学部S1クラスの1年生。
2人の視線の先。
ランニングで汗を流す、想い人の姿。
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「楓、今日葵ちゃんうちに来るんでしょ?」
「ええ、そうね。葵ちゃん大丈夫かしら」
「はいはい、心配でしょうがないんでしょどうせ?」
「そうなの真弓、どうしましょう」
「監督、今日わたしたち早退させていただきます~」
「うむ」
3年生マネージャー2人、早退。
お互いの妹が心配になり、早々にグラウンドを後にする。
「見て楓、あの双子ちゃんたちまだいるよ」
「そうね真弓……わたしたちも3年生だし」
「一応声、かけといた方が良いかもね」
グラウンドの外で、球児たちの練習を見守る双子姉妹の元へ歩み寄る、成瀬真弓と神宮司楓の姿があった。




