80.第9章サイドストーリー「南夕子は逃がさない」
平安高校。
お昼休憩の時間。
「うっーす」
「よう岬。パン研の部長、昼間は旧図書館の部室にいつもいるらしいぞ」
「うっーす」
岬れな。
平安高校、特別進学部S2クラスの1年生。
彼女の持つスマートフォンには、パンダストラップがぶら下がる。
第一校舎3階、特別進学部の教室から1階へと降りていく。
1階の奥、今は使われていない平安高校旧図書館。
3年生の入る第二校舎地下、蔵書保管庫の耐震工事完了後。
来年には閉鎖される予定のこの旧図書館。
誰もいない図書館の奥から、何やらパソコンを打つ音が聞こえてくる。
(カタカタカタカタ)
図書館の中に足を踏み入れる岬れな。
(カタカタ……ダッダッダ!)
「わ!?」
「入部希望者の方ですか!?」
「え、ええ、まあ」
「どうぞこちらへ!」
南夕子。
パンダ研究部部長。
突然の登場に驚く岬れな。
もう絶対に逃がさないと言わんばかりに腕を掴まれ、図書館奥のお部屋へと連れていかれる。
「どうしてここへ?」
「あの、知り合いからの紹介でして」
「知り合い?」
「高木、ここの部員ですよね」
「高木君のお友達?」
「……ただのクラスメイトです」
「あら~そう~」
嬉しさ爆発。
部室机の引き出しから、入部届を取り出す南夕子部長。
「お名前は?」
「岬れなです」
「あの、1つだけ聞いていい?」
「はい」
「パンダ、好き?」
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―――『無事にパン研入れました。誘ってくれてありがと』―――
「岬さんライン?」
「あのアホに送りました」
「ふふっ、高木君と仲良いんだ」
「それは無いっす」
「あはは」
入部届の記入を済ませる岬れな。
彼女の入部にはとても大きな意味があった。
パンダ研究部が廃部を逃れるための最後の1人が揃った事を意味する。
「岬さん、パン食べない?」
「購買のパンですそれ?」
「そう~新作のクリームパンダだって~」
「食べます」
「どうぞ~」
即答。
購買部の新作菓子パン、クリームパンダ。
売り上げは好調。
毎日欠かさず購入する常連客もついている。
南夕子がその1人。
「岬さん。動物園とか行ったりするの?」
「はい、よく」
「まあ~一緒~」
お互い動物園派の女子2人。
動物園の話題で盛り上がる。
岬れなに渡されたクリームパンダが無くなる頃。
南夕子の部長席の引き出しから、さらにお菓子が出てくる。
「お菓子好き?」
「大好きです」
「まあ~一緒~」
女子は等しくお菓子がお好き。
チョコレートからポリポリ系まで、あらゆるお菓子が引き出しの席から次々と出てくる。
「部長の机、お菓子ばっか」
「最近論文書いてて、頭使ってるから糖分たくさん必要なの~」
「ふふっ」
岬れなの表情から笑顔が絶えない。
南夕子、暗黒のダークサイド。
『この子、絶対逃がさないわ』
お昼休憩の時間一杯、お菓子を与え続けられる岬れな。
部長の机の引き出しはお菓子の家。
ヘンゼルとグレーテル。
パンダ研究部。
ここは1度入ると2度と出られない、怖い魔女が住む不思議の世界の物語。




