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70.第8章最終話「パンダの恩返し」

 先週に続いて、今週2度目の神宮司家の訪問。

 着物を着た同級生の女の子の姿に胸のドキドキが止まらない。


 それでも神宮司葵は意に介さず、リビングのソファに並んで座り俺に古文の問題集を使ったレクチャーを続けてくれる。



「シュドウ君、この問題覚えてる?」

「これって、先週読んだ源氏物語に載ってた問題じゃんか」

「凄いシュドウ君!ちゃんと覚えてる」

「あれだけ神宮寺が教えてくれたとこ、さすがに覚えてるって」



 俺は先週の金曜日。 

 都合2時間もこの子から源氏物語のレクチャーを受けていた。



「この君をば、かしづきたまふこと限りなしのかしづき~がね」

「かしづきは先週やった大切に育てられってやつだろ?」

「凄いシュドウ君!」

「いちいち褒めなくて良いって。次どれ」

「これ」


 

 神宮司葵。

 この子、やっぱり頭良い。


 俺に源氏物語読ませて、読んだところと同じ問題が実際に出てる問題集のページにフセンをたくさん貼ってリビングに持ってきてる。

 それも大量に。

 さっき家に着いてから、着物に着替える時間しかなかったはず。


 この問題集から源氏物語の問題を抜粋してフセン貼るなんて、こんな短時間じゃできやしない。

 俺が今日ここにきて古文の勉強するの分かってて、あらかじめ問題を抜粋してくれてたとしか考えられない。

 なんでそんな事までして俺に古文を教えてくれるんだこの子?



「お待たせしました」

「楓先輩!?」

「お姉ちゃんも綺麗~」

「ありがとう葵ちゃん」



 神宮司楓先輩が緑色の着物を着て現れた。

 妹は藍色の着物。

 ただでさえ綺麗な容姿、上品な振る舞いが際立つ楓先輩が着物着てる。


 太陽がこの場にいたら悶絶するはず。

 なんで太陽じゃなくて俺がここにいるんだよ。



「お姉ちゃんの番?」

「大丈夫かしら葵ちゃん?」

「は~い」

「あれ、持ってきてもらって良いかしら?」

「は~い」



 1時間近く古文の問題を解き続けていた。

 先週の金曜日に源氏物語の原文をレクチャーされていた事もあり、1度は目を通した問題ばかり。

 神宮司葵、家庭教師の教え方も上手かった事もあり、古文の問題が驚くほど簡単に理解できた。

 姉の楓先輩と入れ替わる形で、妹の神宮司葵がリビングの外へ出ていく。



「守道君、こっち」

「はい」



 緑色の着物を着た楓先輩。

 ソファに座る先輩の隣に座るよう誘導される。



「さっきはごめんなさいね。夕子にとってパンダ研究部はとても大事な部なの」

「名前くらいならいくらでも貸しますよ」

「そう言ってもらえてありがたいわ」



 やはり今日の1日はパンダ研究部存続に協力したお礼といったところのようだ。

 楓先輩はとても義理堅い人に感じる。

 単に名前を貸しただけで、妹にも声をかけてここまで赤点男の俺に勉強教えてくれようとするなんて。



「昼間のテスト問題、良いかしら?」

「はい」



 俺のお恥ずかしい石器時代をふたたびカバンから取り出す。

 特に表情を変えずに楓先輩が俺の現代文の解答用紙にふたたび目を通す。

 おもむろにリビングのソファの前にある机の上から紙のプリントを取り出す楓先輩。



「守道君、まずこちらを」

「漢字技能検定……4級……6月受験!?ちょっと楓先輩」

「こちらにサインを」



 また新しい契約書が出てきた!?

 パンダの次は漢字技能検定かよ!?

 嘘だろ嘘だろ。


 俺来月中間テストで赤点2連発退学行きの断崖絶壁にいるのに。

 しかも詩織姉さんと成瀬先生との約束で英語能力検定4級、中間テストが終わった後の5月末に申し込んじゃってるよ。



「絶対にタメになるから」

「え~でも先輩。俺、来月英語能力検定4級も受験するんですよ」

「真弓から聞いてるわ」

「それ知っててこれですか!?」



 俺の個人情報が全部漏れてる。

 成瀬真弓、諸悪の根源はあの女。



「英語能力検定4級と受験日が被らないわ」

「そういう問題じゃありませんって先輩」



 死ぬ。

 毎日毎日英会話レッスン。

 詩織姉さんの紫色のスマホレッスン、去年1年分のラジオ英会話。

 さらに成瀬先生の紫色のCDプレイヤー、2年前のラジオ英会話レッスン。

 今朝もバイトに行く前にさらに早く起きて終わらせてるってのに。


 英語能力検定の次は漢字技能検定。

 ダメだ。

 この契約書にサインしちゃいけない。



「楓先輩、俺毎日の授業だってまったくついていけなくて。全然余裕ないんで本当勘弁して下さい」

「受験料は当家で負担を」

「お金の問題では無くてですね」



 楓先輩、なんとしても俺に漢字技能検定やらせたいらしい。

 漢字、そんなに大事なのか?

 それよりなにより、これ以上勉強増やしたら死んじゃうよ俺。



「中学生が受験するレベルです」

「こっちも中学生!?」

「ご褒美は何が良い?」

「うっ」



 またきた、ご褒美。

 詩織姉さんと成瀬先生と同じ事言い始めたよ。

 太陽と数馬に話して、英語能力検定4級レベルは手作りクッキーが相当と相場が分かってる。


 楓先輩まで人参をぶら下げてきた。

 やり方が古典的過ぎる。

 合格出来たら楓先輩からご褒美だって?

 子どもじゃないんだから俺。



「頑張って守道君。この申込用紙にサインを」



 絶対に契約してはいけない。

 俺、もう高校1年生だぞ?

 今さら中学生レベルの漢字技能検定4級なんて。



「男の子のご褒美って何が良いのかしら?よく分からないわ」



 絶対嘘だ。

 こんな美人の楓先輩が、今まで彼氏1人もいませんでしたなんて絶対嘘に決まってる。

 男の子にプレゼントしたこと無いような言い方、絶対嘘。


 ご褒美は絶対に手作りクッキー。

 いや、神宮司家なら和菓子とか出てきそう。

 なに期待してんだよ俺。



「お姉ちゃん持ってきたよ~」

「ありがとう葵ちゃん」

「お姉ちゃんこれなに?」

「守道君、漢字検定受けるのよ」

「シュドウ君偉い!お姉ちゃん、わたしもやりたい~」

「あらあら、この子ったら」




 美人姉妹。

 英語能力検定と漢字技能検定の試験地獄。

 楓先輩からご褒美。


 クソ。


 そんなの。


 絶対。



『頑張るに決まってる!!』




第8章<パン研へようこそ> ~完~



【ここまでの登場人物】



【主人公とその家族】



《主人公 高木守道たかぎもりみち

 平安高校S2クラスに所属。ある事がきっかけで未来に出題される問題が浮かび上がる不思議なノートを手に入れる。


高木紫穂たかぎしほ

 主人公の実の妹。ある理由から主人公と別居して暮らすことになる。兄を慕う心優しい妹。


蓮見詩織はすみしおり

 平安高校特別進学部に通う2年生。主人公の父、その再婚を予定する、ままははの一人娘。主人公を気遣う、心優しきお姉さん。




【平安高校1年生 特別進学部SAクラス】



朝日太陽あさひたいよう

 主人公の大親友。小学校時代からの幼馴染。平安高校特別進学部SAクラス1年生。スポーツ万能、成績優秀。中学では野球部に所属し、3年間エースとして活躍。活発で明るい性格の好青年。



【平安高校1年生 特別進学部S2クラス】



結城数馬ゆうきかずま

 平安高校特別進学部S2クラス1年生。野球部所属。主人公のクラスメイト。主人公の友人となる。


《岬れな(みさきれな)》

 平安高校特別進学部S2クラス1年生。主人公のクラスメイトかつバイト先が同じ。




【平安高校1年生 特別進学部S1クラス】


神宮司葵じんぐうじあおい

 主人公と図書館で偶然知り合う。平安高校1年生、S1クラスに所属。『源氏物語』をこよなく愛する謎の美少女。


成瀬結衣なるせゆい

 主人公、朝日とは小学校時代からの幼馴染。平安高校特別進学部S1クラス1年生。秀才かつ学年でトップクラスの成績を誇る。


空蝉文音うつせみあやね

 平安高校特別進学部S1クラス1年生。双子姉妹の姉。


空蝉心音うつせみここね

 平安高校特別進学部S1クラス1年生。双子姉妹の妹。



【平安高校 上級生】


神宮司楓じんぐうじかえで

 現代に現れた大和撫子。平安高校3年生。誰もが憧れる絶対的美少女。神宮司葵の姉。


成瀬真弓なるせまゆみ

 平安高校3年生。成瀬結衣の2つ上のお姉さん。主人公を小学生の頃から実の弟のように扱う。しっかりもののお姉さん。



【平安高校 教師・職員】


御所水流ごしょみずながれ

 華道 御所水流 第54代家元。謎のお姉系乙女男子教師。平安高校芸術科目、美術を担当。

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