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55.第7章<華道 家元 御所水流>「葵の選択」

(ピコピコ~)




「いらっしゃいませ~」



 月曜日の早朝。

 俺は朝からコンビニのレジに立つ。




(ピコピコ~)




「いらっしゃいませ~」

「おはよう」

「お、おはよう」




 店内に姿を見せたのはクラスメイトの岬れな。

 バイト先が同じという事もあるが、いつもツンツンしている茶髪の彼女からの挨拶には、さすがの俺もドキリとさせられる。


 彼女も朝からバイト。

 この子、本気で赤点男の俺がいるこの御所水通り店でバイトを続けるつもりのようだ。


 コンビニのクルーの制服に袖を通した岬がレジに並んで立つ。

 雑誌や新聞紙の業者搬入は朝6時には終了している。

 この後7時過ぎに、1日3回配送されるお弁当やおにぎりなどの、業者からの受け取り作業が予定される。


 岬にレジを任せている間、俺がお弁当やおにぎりの品出しを担当する。

 そもそもコンビニで求人募集をしていたのも、最近客入りが良くなってきたせいだ。

 店長は俺の常連客が増えているからだと褒めてくれた。



「ありがとうございました」



 営業スマイルが輝く岬れな。

 俺の事を粗大ごみのように見る目とは違ったキラキラした視線と可愛い笑顔。

 ここのコンビニの常連客もますます増えていきそうな予感。


 客が引いて暇になるレジ前での待機時間。

 岬に声を掛ける事にした。



「おい岬。おまえ選択科目なんにする?」

「日本史」

「マジか、俺も」

「キモ」



 朝からハリネズミモード全開。

 キモい俺の心にザクザクとトゲが刺さりまくる。


 今日月曜日は、芸術と選択科目を選んで担任の藤原宣孝先生に提出する日。

 明日火曜日、1限目からさっそく選択科目がスタートする。


 どうやらクラスメイトの岬れなも日本史を選択するようだ。

 太陽に聞いたが、生物などの理系を選ぶ生徒。

 逆に日本史や今後選択科目に追加される世界史を選ぶ生徒にクラス内でも分かれる特別進学部。


 岬も日本史を選択するのか。

 あれ、教えておいた方が良さそうだな。



「知ってるか岬?野球部の2・3年の先輩の話だと、日本史の江頭先生。第1代から第10代までの明治の総理大臣を毎年筆記でテストさせてるみたいだぞ」

「マジ?」

「マジ」



 どうやら岬は知らなかった様子。



「ふ~ん確かにあんた、野球部の知り合いいるもんね」

「まあな」



 岬は平安高校の中に上級生の知り合いとかいないのかな?

 つい先日俺がつかんだ日本史のテスト情報を岬に流す。

 俺も昨日まで知らなかった情報だ。


 最速で日本史があるのは火曜日の1限目。

 今日はまだ月曜日。

 未来ノートの1ページ目にも、数馬の話していた通り、日本史の第10代までの総理大臣を書かせる問題がピッタリと表示されていた。


 俺の話は間違いのない話。

 数馬の話と未来ノートに表示された裏付けがある。


 岬は仕事で教えてもらった事をメモする小さなメモ帳を、コンビニクルー用の制服の袖ポケットにいつも入れている。

 俺の言った日本史の問題をメモに記入している様子。

 どうやら俺の話を少しは信用してくれているようだ。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





(ピコピコ~)



「いらっしゃいま……」

「知り合い?」

「俺の姉ちゃんだよ」

「ふ~ん」



 朝8時前。

 俺のバイト先に訪ねて来た蓮見詩織姉さん。

 平安高校の制服に身を包む。

 俺と視線が合うと、コクリとこちらに向かってお辞儀をする。


 バイトが終了。

 レジ裏のバックヤードで身支度を整える。



「じゃあ、わたし、先行くわ」

「おう。後でな」



 先に店を出て平安高校に向かう岬れな。

 そういえば、あの子が俺にちゃんと挨拶してから行くのって珍しい気がする。

 彼女は赤点男の俺に挨拶してくれる、貴重なクラスメイトの1人なのかも知れない。


 登校の準備が整い、コンビニの外に出る。

 外で詩織姉さんが待っていてくれた。

 2人で平安高校に登校する。



「今日もお疲れ様です」

「はい」



 言葉はあまり交わさない。

 自分の事や、必要な事以外はほとんど口にしない詩織姉さん。


 こと俺の英語のレッスンだけは、鬼講師となって指導してくる。

 詩織姉さんは、本当にいつも何を考えているのか分からない。



「お勉強は進んでますか?」

「はい。もうレッスン5まで終了してます」

「金曜日にチェックします」

「え~」

「ふふっ」



 姉さんは時々ほくそ笑む。

 まるで俺を勉強でいじめて楽しんでいるようにすら感じる。



「ローズ先生」

「えっ?ローズ・ブラウン先生の事ですか姉さん?英語コミュニケーションⅠの?」

「そう」



 ローズ・ブラウン先生。

 先週、英語コミュニケーションⅠで初めて会ったカナダ人の英語の先生。



「自己紹介は最低でも出来るように」

「無理ですよ姉さん」

「レッスン3、よく復習」

「レッスン3?」



 そういえば、詩織姉さんから渡されていたラジオ英会話のレッスン3。

 主人公たちが初めて学校に登校して、自分の自己紹介するシーンだったな。


 詩織姉さん、俺に去年1年分のラジオ英会話のテキストも音声データも全部渡して手元に無いはずなのに、もしかして1年分のテキストに何が書いてあったのか全部暗記してるわけじゃないよな?



「来月5月の中間テストが終わったら、英語能力検定4級の問題演習に入ります」

「え~やっぱり本気なんですか姉さん」

「もう申し込みました」

「え~」

「ふふっ」



 もう英語能力検定4級、出願されてしまったようだ。

 詩織姉さんは本気らしい。


 来月5月の中間テストで赤点取らないか戦々恐々としている今だって時に、どうして来月末に実施される英語能力検定4級を視野に入れないといけないんだ?





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





 詩織姉さんと1年生と2年生が入る第一校舎の1階で別れる。

 特別進学部のS2クラスは、第一校舎の3階。

 

 階段で3階へ上がる。

 S2クラスは、一番奥のS1クラスと、手前のSAクラスの間に挟まれている。

 SAクラスをのぞいてみるが、まだ太陽の姿はどこにも見えない。

 きっと朝のホームルームが始まる時間ギリギリまで、朝練してる野球部で時間を過ごしているに違いない。



「シュドウ君」

「うわ!?ビックリさせるなよ光源氏」



 SAクラスの中を太陽がいないか覗き込んでいた俺に、突然女の子の声が耳元でしたのでそちらを振り向く。


 出た。

 源氏物語の光源氏。

 じゃない、源氏物語大好き美少女。

 神宮司葵が目の前にいた。



「お前いい加減俺のあだ名、勝手に使うのやめろって」

「なんで?」

「なんででも」



 野球部に神宮司楓先輩がいるせいか、この子どこかで太陽から俺のあだ名聞いて勝手に使い始めてしまっていた。

 それよりなにより。

 なんでこの子がこんなところにいるんだ?



「なんだよ神宮司」

「シュドウ君、芸術何にする?音楽Ⅰ?」



 いきなり今日提出締切の芸術科目の話を俺に聞いてきた。

 芸術は『音楽Ⅰ』『美術Ⅰ』『工作Ⅰ』『書道Ⅰ』のどれか1つから選択となる。



「美術Ⅰだよ」

「分かった。じゃあ選択科目は?」

「日本史」

「うん。じゃあね、バイバイ」



 いきなり現れて、いきなり消えて行く神宮司。

 胸の前で小さく手を小刻みに揺らしてバイバイしている。

 なにしに来たんだあの子?


 S2クラスの中に入る。

 俺の席は一番後ろの列、教室中央の席。

 ロッカーに荷物を入れて、俺は教室の席に着く。



「やあおはよう、高木守道君」

「数馬。昨日はサンキュー」

「はは、僕は何もしてないよ。明日の準備はどうだい?」

「バッチリ。今日も少し復習しとく」

「それは良かった。またいつでも僕の部屋においで」

「太陽も一緒にな」




(キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン)




 今日の1日が始まる。

 S2クラスの担任講師、藤原宣孝先生が教室に入ってくる。



「それでは芸術と選択科目の希望用紙を回収します」



 俺の選んだ芸術は美術Ⅰ。

 選択科目は日本史を選択。

 9月にはまた選択科目の追加が発生する。


 9月、その時まで。

 俺がこのクラスで生き残る事が、果たして出来ているのだろうか?



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