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52.第6章最終話「紫色の道しるべ」

 3時。

 平安高校正門に到着。

 バイト先でクラスメイトの岬と別れ、そのまま平安高校に向かう。


 今日は日曜日。

 当然登下校する生徒はまばら。

 部活など用事がなければ、わざわざ日曜日に学校に来る生徒はほとんどいない。


 正門から校舎へ続く並木通りの一本道。

 桜はすでに散り、緑の葉をのぞかせる。


 校舎まで到着する。

 左に1年生と2年生の入る第一校舎。

 右に3年生と職員室の入る第二校舎。

 

 2つに分かれる校舎には、はるか天井にガラスのアーチがかかる珍しい設計。

 雨避けのアーチを抜け、野球部が練習しているグラウンドを目指す。



「今日は解散」

「ありがとうございました!」



 体育会系の挨拶が辺りに響く。

 体だけ鍛えているわけじゃない野球部。

 俺とはため口の太陽が、人前で3年生のマネージャーである真弓姉さんとの礼儀は忘れない。



(バシッ!)



「痛てぇ!?」

「よう高木~なに?なんでここにいるの?」



 俺の背中、重症。

 野獣に背後から突然襲われる。

 俺の天敵、成瀬真弓の強烈な一撃。



「痛いですよ姉さん!何やってんすか!」

「ごめんごめん。楓~こっち高木いるよ~」

「楓先輩呼ばないで下さいって姉さん」



 野球部のマネージャーをしている3年生の成瀬真弓と神宮寺楓。

 太陽の憧れの先輩である神宮寺楓が、真弓姉さんにこっちこっちされて近づいてくる。



「守道君、ごきげんよう」

「ご、ごきげんよう」

「あはは、何言ってんのよ高木」



 なんだよ、ごきげんようって。

 なんて返事すればいいか分からない。


 英語どころか日本語もまともにしゃべれない俺。

 こんな風に挨拶された事無いんですけど。


 神宮寺楓先輩。

 いつ見ても可憐な先輩。

 大人の雰囲気を全身から漂わせる。


 しかもいつの間にか、俺、守道君とか呼ばれてるし。

 3年生の楓先輩からしたら、1年生の俺は小さな子供に過ぎないだろう。

 俺が可憐な楓先輩を目の前にして戸惑ってる時に、真弓姉さんはお構い無しに俺に話しかけてくる。



「高木、あんた部活は?」

「赤点でまったく余裕が無いんですから、部活なんてとてもやってられませんよ」

「あはは、それもそうね。そんなあんたにピッタリの部活があるわよ」

「あら真弓。夕子のところ?」

「さすが楓。うちのゆいちゃんと楓のところの葵ちゃんに無料で勉強教えてもらってるんだから、名前貸しくらい協力してもらわないとね~」



 名前貸し?

 なに言ってんだ姉さんたち?



「じゃあね高木。そのうち呼び出すから覚悟しときなさいよ」

「何の覚悟ですか真弓姉さん」

「ふふっ」



 言うだけ言って、真弓姉さんと神宮寺楓先輩は野球部の部室に消えて行った。



 



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





「ようシュドウ、待たせたな」

「練習お疲れ太陽。それに」

「また会えたね、高木守道君」



 S2のクラスメイト。

 太陽のライバルを自称していた男子。

 たしか結城数馬(ゆうきかずま)って名前だったな。



「じゃあ行こうか、僕の部屋に」

「結城の部屋?」

「はは、数馬で良いよ守道君」

「おい数馬。シュドウに手出したらしょうちしないからな」

「おっと、それは怖い怖い」



 野球部の部室がある大きなグラウンドの近くから、平安高校の敷地内に白い大きな建物が見える。

 太陽と結城数馬。

 2人の後についていく。


 白い大きな建物に到着。

 ここからさらに奥に、もう一つ建物が見える。



「シュドウ。あそこの敷地には絶対に入るなよ。一発で退学になるからな」

「怖すぎるだろそれ。なんでだよ?」

「はは、大げさ。あっちは女子寮だよ守道君」

「女子寮?」



 全国からスポーツ推薦も含めて優秀な生徒が集う平安高校。

 果ては海外からも生徒が来るとか来ないとか。

 全寮制の宿舎も完備されている。

 今さらながら、とんでもないレベルの私立高校に入学してしまった事を実感する。


 当然女子寮ではなく、手前にある男子寮に入る。

 結城数馬のように、県外から単身親元を離れて生活する生徒がたくさんいるらしい。

 1人で生活しているのは、何も俺だけに限った話ではないようだ。


 男子寮の建物はホテルかと見間違うほど綺麗な建物。

 結城数馬の話では、1階奥には食堂が夜遅くまで利用できるらしい。


 野球部以外にも、サッカーや水泳、卓球やバスケットまで幅広いジャンルのスポーツ推薦で、全国から生徒たちが集められていると聞く。

 

 この平安高校出身のプロスポーツ選手や、果てはオリンピックのメダリストまで誕生しているらしい。

 まさにスポーツ天国。

 建物の2階に階段で上がる。

 


「ここが僕の部屋だよ」

「おいシュドウ」

「なに太陽?」

「この部屋は何があっても1人で来るんじゃねえぞ」

「分かった」

「はは、何もしやしないさ」



 太陽の忠告。

 よく覚えておきたい。

 暗記は得意だが、大事な事はすぐに忘れる男、高木守道。

 数馬の部屋に太陽と一緒に入る。


 中は綺麗な男子部屋。

 とても同じ単身者とは思えない。


 本棚も綺麗に整理されている。

 俺の自宅アパートとは大違いだ。

 そういえば、時々洗濯機近くにあるはずの洗剤が行方不明になる事がままある。

 あれはきっと神隠しに違いない。


 結城数馬の部屋に入り、朝日太陽と3人で座る。

 むさ苦しい男子会がスタートする。

 数馬から口を開く。



「いやぁ、まさか朝日君から僕に話しかけてくれるなんて光栄だよ」

「数馬、その話はするなって言ったはずだろ」

「おっと失礼」



 太陽は何か結城数馬に話をしていた様子。

 結城は太陽のライバルを自称していた。

 太陽と結城の関係、俺はよく分かっていない。



「シュドウ。明日月曜日、芸術と選択科目の提出期限だろ?」

「あれ、そうだっけ?」



 S2クラス担任の藤原宣孝先生から言われていたのを、ここにきて思い出す。

 副教科や選択科目が1年生から選べる平安高校特別進学部。

 いわゆる文系と理系の選択が求められる。


 理系男子の太陽は、日本史などの文系科目は回避すると言っていたな。

 そういえば俺、文系と理系どっちなんだ?

 


「金曜日の結衣の話、ちゃんと聞いてたか?」

「ご褒美の事?」

「なんだよそれ」

「はは、その話詳しく聞きたいね」



 副教科から話題が一度それる。

 俺は別に隠す事でも無いと思い、英語能力検定4級に合格したら成瀬結衣先生からご褒美を貰える約束になっている事を2人に明かす。



「はははは、マジかよそれ」

「はは、やっぱり君たち面白い事してるよね」

「おいシュドウ、その話結衣から俺は聞いちゃいないぞ」

「成瀬に黙ってろよ太陽。バレたらご褒美無くなるから」

「英語能力検定4級のご褒美ってなんだよ?クッキーか?」

「そんなショボいのか!?」

「大した褒美があるわけないだろ英語能力検定4級で、中学生かっつーの。真弓先輩じゃねえんだからな結衣は」

「だよな~絶対騙されてるよな俺」

「ははは」



 ご褒美目当てに毎日英会話レッスンを欠かさない、人参に目がくらんだ俺。

 俺のような男が将来、道端で悪徳商法に引っ掛かるに違いない。


 数馬は俺と太陽の話を聞いて笑っている。

 成瀬結衣先生からぶら下げられた人参は以外に小さいものかも知れない。

 話題が芸術や選択科目の話題に戻る。



「結衣から芸術は美術Ⅰにしろって言われてるだろ?」

「あれ、そうだっけ?俺、音楽Ⅰにしたかったのに」

「諦めろシュドウ。結衣がキレるぞマジで」

「分かったよ」

「へ~じゃあ僕も美術Ⅰにしようかな」



 芸術は美術Ⅰに決定。

 これで音楽Ⅰは選べなくなった。

 続いて選択科目の話題になり、結城数馬が口を開く。



「そこで僕の出番だね」

「数馬が?なんだよ出番って?」

「ははっ、高木守道君。君は一体何をどうしたら入試に合格出来たんだろうね?」

「うっ」



 数馬から入学2日目に行われた学力テストの話を言われている。

 超難問の平安高校特別進学部の入学試験。

 30人の狭き門に、全国から1000人を超える受験生が殺到した。

 俺とは違い、実力で超難関のS2クラスの切符を手に入れた結城数馬。


 対して俺はどうだ?

 蓮見詩織姉さんに解いてもらった、事前に知っていた入試問題を丸1ヶ月かけて答えを必死に暗記しただけ。

 


「高木守道君。日本史は好きかい?」

「日本史?まあ社会は暗記ものだし、別に嫌いじゃないけど」

「平安時代の中期に起きた平将門の乱、何年に起きたか覚えてるかい?」

「覚えてるわけ無いだろ数馬」



 結城数馬が突然、平安時代に起きた歴史の問題を俺に聞いてきた。

 平将門はさすがの俺も知っているが、何年と言われるとまったく覚えていない。

 そんなの絶対分からない。



「ちなみ平安時代に起きた承平天慶(じょうへいてんぎょう)の乱において、平将門の乱が起きたのは939年」

「それ覚えてんのかよ数馬!?」

「はは、まあね」



 マジか?

 平将門の乱が939年とか、俺絶対覚えられない。



「時に守道君。好きな野球チームはあるかい?」

「好きなチーム?」

「シュドウ、騙されたと思って数馬に答えろ」

「あ、ああ。太陽がそういうなら」



 今度は結城数馬が、突然好きな野球チームの話題を振ってくる。

 平安時代に起きた平将門の乱と一体何の関係があるんだ?



「俺と太陽は昔からタイガースファンだもんな。数馬は?」

「おいシュドウ。こいつ神奈川出身だぞ、聞くまでもねえよ」

「はは、よく知ってるね朝日君」

「うるせえよ」

「なるほどな」



 結城数馬はドルフィンのファンだったのか。

 2人とも野球部。

 好きな野球チームの話題が、突然日本史にリンクしてくる。



「守道君は野球選手の背番号を覚えてるかい?」

「ああ、好きな選手はほとんど覚えてる」

「三村選手の背番号はいくつ?」

「あの有名な三村だろ?背番号9に決まってんじゃん」

「じゃあ39は?」

「やっぱりデス・トラーデで決まりだな」

「さすがシュドウ、分かってるな」



 なにを言ってる数馬は?

 三村選手の背番号は9。

 デス・トラーデの背番号は39……おいおい、マジかよこれ。



「俺もシュドウも小学生の時から野球が好きだからな」

「あ、あのさ。これって794(なくよ)ウグイス平安京と同じ感じの覚え方って事か?」

「さすが守道君、その通りだよ」

「マジか」



 俺は平将門の乱が939年の出来事だなんて簡単に暗記できそうにない。

 ただ野球は太陽の影響で大好きだし、選手の背番号はほとんど全部暗記していた。


 なるほど、結城数馬も野球部だから、当然俺たちと同じ野球好きに決まってる。

 三村デス・トラーデの乱。

 939年、平将門の乱。 

 おいおい、ちょっと待てよこの覚え方。

 俺メチャメチャ覚えやすいんだけど。



「おい太陽」

「だなシュドウ。これならいくらでも応用が利く。数馬、やっぱり日本史マニアだなお前」

「その呼び方はちょっと嫌だな~」

「いや、ちょっと待って数馬。なんでこの覚え方、もっと早く俺に教えてくれなかったんだよ」

「君が聞いてくれなかったからだろ?」



 結城数馬の教えてくれた暗記法。

 俺は野球が大好きだから、ほとんどの野球選手の背番号を暗記していた。



「別に710(なんと)美しい平城京でも構わないんだよ守道君。ようは語呂(ごろ)さえ合っていれば答えを導き出せるってわけさ」

「なるほどな。その語呂合わせが俺流ってわけか。凄いな数馬」

「こいつはマニアだからな」

「朝日君、その言い方はよしてくれたまえ」



 まさか野球選手の背番号が語呂合わせに使えるとは思ってもいなかった。


 語呂合わせなんて、こんなものなのかも知れない。

 野球を知らない人には、もはや何を言っているのかすら分からないはず。

 794(なくよ)ウグイス平安京っと。


 語呂合わせの応用。

 名付けて背番号語呂合わせっと。

 本当バカみたいな覚え方だな。

 俺たち野球好きにはピッタリの語呂合わせだ。



「時に守道君。平安高校の日本史担当の先生を知っているかい?」

「全然、知らない」

「シュドウ、江頭中将(えがしらちゅうじょう)先生だよ」



 江頭中将先生。

 聞いた事も会った事も無いな。



「おいシュドウ。日本史の授業はいつある?」

「ちょっと待って太陽」



 カバンの中から時間割を確認する。

 あった。

 さっそく来週火曜日に選択科目の授業が1限目にあった。

 


「数馬、そういえば3年生と2年生の先輩が教えてくれてたな」

「そうだね朝日君」

「なんの話?」

「日本史担当の江頭中将先生。毎年最初の日本史の授業で、歴代の総理大臣の名前を記述式で書かせるテストを出してる」

「マジか!?」



 嘘だろ。

 いきなり総理大臣の名前記述式とかおかしいだろ。


 はっ!?

 未来ノート、見てなかった。

 もしかしたら、もうすでに未来の問題に日本史の問題が映し出されていたりするのか?



「おい数馬、いつの総理大臣の出題だ?」

「明治時代だね」

「エグいな江頭先生。いきなり記述式でくるのかよ」

「ちょっと待ってよ。日本史の選択科目無理だって。レベル高すぎるよ」

「はは、大丈夫だよ守道君。勉強は苦ばかりじゃないよ。ちゃんと楽しまないと」

「えっ?」

「シュドウ、日本史に関してはこいつは天才だ。騙されたと思って数馬の言う事はよく聞いとけ」

「お、おう」



 結城数馬が立ち上がり、ふたたび本棚から歴代の総理大臣が載っていると思われる本を取り出す。

 数馬の広げた本には歴代の総理大臣の名前が載る。


 

「ちょっと待ってよ数馬。最初の伊藤博文総理大臣って、何度も何度も総理大臣やってるじゃんよ」

「そういう事」



 明治時代の歴代の総理大臣。

 第1代から第10代までの最初の10人の総理大臣だけで、伊藤博文は4度も名を連ねる。

 第1代はともかく、第何代と第何代を歴任しているのか頭の中で整理できない。



――伊藤博文 黒田清隆 山縣有朋 松方正義 伊藤博文 松方正義 伊藤博文 大隈重信 山縣有朋 伊藤博文――

 


「じゃあ守道君。君に魔法の言葉を教えてあげよう」

「魔法!?あるのか日本の総理大臣にも?元素記号の水兵リーベみたいな覚え方が日本史に?」

「もちろんだよ。ははっ」

「な、なんだよ数馬」

「僕は君にこれを教えるためこの学校に来たのかも知れない」






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





 日曜の3時過ぎに平安高校にやってきたが、いつの間にか辺りはすっかり暗くなっていた。

 夜を迎えようとする平安高校の男子寮。

 勉強会をしていた俺たち3人。

 結城数馬が何かに気づいたように声を出す。



「おっといけない。そろそろ帰らないと門が閉じられる時間だね」

「シュドウ、今日は帰るぞ」

「お、おう」



 結城数馬。

 まさかこんなに日本史に精通しているクラスメイトがいたなんて知らなかった。

 教え方が上手いと言うより、俺に合った暗記法、俺に合った魔法の合言葉をたくさん教えてもらった。

 太陽が数馬に声をかける。



「数馬、俺の見立て通りだった。今日は助かった」

「朝日君のお願いとあれば、そうそう断るわけにはいかないね」

「借りは返す、試合でな」

「ちょっと待ってよ太陽。教えてもらったのは俺の方なんだから、数馬に礼をするのは俺の方だよ」



 数馬は笑いながら俺と太陽の話を受け流す。

 こんな赤点男の俺に、ここまでしてくれるクラスメイトがいるなんて思ってもいなかった。

 男子寮の1階で、数馬に見送られる。


 

「高木守道君」

「お、おう。なに数馬?」

「今日から僕たち、友達って事で良いのかな?」

「ああ、良いんじゃね?」

「おいシュドウ。俺はどうなんだよ?」

「太陽は太陽だろ」

「あははは」



 赤点を取って、S2クラスで初めてクラスメイトの新しい友達が出来た。

 結城数馬。

 太陽が引き合わせてくれなければ、こんな出会いをする事は無かった。


 平安高校から歩いて帰る。

 深夜の御所水通り。

 日曜日の夜。


 暗い夜道を、車道を通る車のヘッドライトが辺りを照らす。

 車が通り過ぎると、すぐに暗黒の夜道に姿を戻す。



「じゃあなシュドウ。明日の朝はまたバイトか?」

「ああ。太陽、明日は朝練?」

「まあな」

「お互い頑張るか」

「だな。おいシュドウ」

「なに太陽?」

「来月の中間テスト、絶対赤点取んなよ。マジで頼むぞ」

「分かってるよ太陽。やるだけやってみる」



 大げさに手を振りながら、朝日太陽が家に帰っていく。

 太陽も家に帰ったら、なにか勉強をしているに違いない。


 俺も自宅アパートに歩を進める。

 さっき数馬の部屋で教えてもらった、明治時代の総理大臣の暗記法を思い出す。



『じゃあ守道君。総理大臣はこの魔法で覚えてみて』

『なに?』

伊黒(いぐろ)の山に始まって、松伊松伊と大隅山(おおくまやま)

『はっ?今なんて言った?』

『ははっ。今ので第10代おしまい』

『嘘だろ!?』



 明治時代の総理大臣、第10代までが一瞬にして語呂合わせに収まった。

 結城数馬は魔法使いか?

 野球部の先輩に教えてもらって、日本史の担当教師、江頭中将先生が毎年出してるテスト問題まで教えてくれた。


 ん?

 毎年出してる問題?

 そうだ!?


 夜になり、薄暗くなった御所水通り。

 等間隔で街頭が立ち並ぶ。


 その1つの街頭の下で立ち止まる。

 俺はとっさに思い立ち、未来ノートの1ページ目を開く。


 あった。

 出てるよ、未来に出題される日本史の問題。


 未来ノートの1ぺ-ジ目には、いきなり第10代までの総理大臣の名前を書かせる記述式の問題。


 日本史の先生、もしかしてワザと毎年同じ問題出してるのか?



『明治時代:第1代から第10代までの日本の総理大臣の名前を答えよ』



 未来ノートに映し出された設問。

 明治時代の総理大臣、第10代までを問う問題。

 数馬の言ってた事は本当だった。

 間違いなくこの問題は日本史の授業で出題される。


 あれ?

 ちょっと。

 ちょっと待てって。


 未来ノートがまた壊れた。


 暗い夜道の御所水通り。

 俺の開いていた未来ノートの1ページ目に映し出されていた問題の解答欄。

 空欄だったはずの解答欄に。



『伊藤博文 黒田清隆 山縣有朋 松方正義 伊藤博文 松方正義 伊藤博文 大隈重信 山縣有朋 伊藤博文』



――浮かび上がる答え。紫色の答え。



 この未来の問題が、未来の日本史の小テストで実施される事が明らかになった。

 しかも答えが紫色に浮かび上がり、結城数馬に聞いた通りの例年通りの出題を裏付ける。


 もしかすると江頭先生が毎年同じ問題を出しているという情報を事前に得ていた、俺以外のS2クラスの生徒たちは全員この問題を答えられるかも知れない。


 それよりも早く。

 覚えないといけない。

 問題が分かったところで、答えが分かったところで。

 テスト当日、漢字の一字一句間違えずに答えを書けるかどうかは別問題。

 当日順番も漢字も間違えずに解答しなければ、テストの点を得る事は出来ない。


 明日は月曜日。

 早ければこの日本史のテストはあさって火曜日の1限目で出題される。



伊黒(いぐろ)の山に始まって、松伊松伊と大隅山(おおすみやま)



 最後に伊藤博文でおしまい。

 順番は楽勝。

 結城数馬の魔法の言葉で、俺は歴代の総理大臣の順番を覚える事から解放された。


 暗闇の御所水通り。

 暗黒に包まれる夜。


 俺はすぐに未来ノートを閉じる。

 どうしてノートに紫色の答えが浮かび上がるのか、その理由はサッパリ分からない。


 今はそんな事はどうでも良い。

 もう未来ノートの答えを見るまでもない。


 日本史を選ばない理系の太陽。

 理系の太陽が導いてくれた、日本史の得意な結城数馬という文系男子。

 日本史を選択する結城数馬からの魔法の言葉が、俺の脳裏に焼き付いた。



『守道君。勉強は苦ばかりじゃないよ。ちゃんと楽しまないと』



 勉強を楽しむか。

 結城数馬らしい、太陽とどこか似ている、前向きな言葉。


 あいつの言葉に嘘はない。

 未来ノートに映し出された未来の問題は、結城数馬が俺に話した例年出題される日本史のテスト問題と見事に一致した。


 結城数馬が言った言葉。

 先輩たちの情報から、毎年同じ問題が出されているという数馬の情報が、嘘偽りない正真正銘の証拠。

 そして紫色の答え。

 数馬が教えてくれた歴代の総理大臣の順番と完全一致した。


 それはすなわち、結城数馬が嘘をついていない証拠。

 あいつは信用できる。


 嘘のない新たな友人の言葉。

 未来ノートが裏付ける、俺が進むべき紫色の道しるべ。


 明日の月曜日、選択科目は日本史で決まりだ。

 閉じた未来ノートをカバンにしまい込む。

 暗い夜道となった御所水通りを、全速力で駆け出す1人の男の姿。

 迷いのない力強いその姿が、御所水通りの暗闇の中へと消えて行った。



 

 第6章<暗黒の御所水通り> ~完~


【登場人物】


【主人公とその家族】


《主人公 高木守道たかぎもりみち

 平安高校S2クラスに所属。ある事がきっかけで未来に出題される問題が浮かび上がる不思議なノートを手に入れる。


高木紫穂たかぎしほ

 主人公の実の妹。ある理由から主人公と別居して暮らすことになる。兄を慕う心優しい妹。


蓮見詩織はすみしおり

 平安高校特別進学部に通う2年生。主人公の父、その再婚を予定する、ままははの一人娘。主人公を気遣う、心優しきお姉さん。



【平安高校1年生 特別進学部SAクラス】



朝日太陽あさひたいよう

 主人公の大親友。小学校時代からの幼馴染。平安高校特別進学部SAクラス1年生。スポーツ万能、成績優秀。中学では野球部に所属し、3年間エースとして活躍。活発で明るい性格の好青年。



【平安高校1年生 特別進学部S2クラス】



結城数馬ゆうきかずま

 平安高校特別進学部S2クラス1年生。主人公のクラスメイト。


《岬れな(みさきれな)》

 平安高校特別進学部S2クラス1年生。主人公のクラスメイト。



【平安高校1年生 特別進学部S1クラス】



神宮司葵じんぐうじあおい

 主人公と図書館で偶然知り合う。平安高校1年生、S1クラスに所属。『源氏物語』をこよなく愛する謎の美少女。


成瀬結衣なるせゆい

 主人公、朝日とは小学校時代からの幼馴染。平安高校特別進学部S1クラス1年生。秀才かつ学年でトップクラスの成績を誇る。



【平安高校 上級生】



神宮司楓じんぐうじかえで

 現代に現れた大和撫子。平安高校3年生。誰もが憧れる絶対的美少女。神宮司葵の姉。


成瀬真弓なるせまゆみ

 平安高校3年生。成瀬結衣の2つ上のお姉さん。主人公を小学生の頃から実の弟のように扱う。しっかりもののお姉さん。


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