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50.「クラスメイトは反抗期」

 ポケベルによる店長からの急な呼び出し。

 普段お世話になってる店長の頼みとあれば断るわけにもいかない。

 そういえばお店で1人アルバイトを募集するとか店長が言っていた。


 うちの店長、凄くいい人だからバイトの離職率は低い。

 働く従業員もみんな俺のように心優しい先輩ばかり。


 駅前のハンバーガーショップから歩いてバイト先に到着する。

 衝撃的な出会いが待っていた。



「じゃあ高木君。今日から新しくきた(みさき)れなさん。仕事教えてあげて」

「嘘……だろ」

「最低」



 スラっとしたモデルのように引き締まったスタイル。

 ジト目で俺の事を睨みつける攻撃的な視線。

 S2クラスでひときわ目立つ個性的な茶髪女子。


 どこからどう見てもクラスメイトで間違いない。

 この前『英語コミュニケーションⅠ』で同じ班になった女子。

 俺のクラスメイト……(みさき)れな。



「じゃあ高木君。ちょっと用事があるからお店お願いね」

「分かりました店長、行ってらっしゃい」



(ピコピコ~)



 客の出入りの際に床を歩くと音が鳴る。

 店長がお店を出ていき、店内には数名の客と俺たち従業員の2人。


 初日から俺という赤点先輩従業員に印象最悪なオーラを発する新入従業員。

 俺の顔を見てものすご~~~く嫌そうな顔をしている。

 いくら女子から嫌われるのに慣れている俺とはいえ、後輩従業員に初対面から嫌われるのはさすがに心が深く傷つく。



「あんたがいるって知ってたらここにしなかったし」

「給料もらってるなら割り切って働けよ」

「最低」



 初日からモチベーション最悪。

 夕方の帰宅時間帯。

 お店にとっては商売時の時間帯。


 俺はとりあえずお店を回すためにレジ打ちから後輩従業員かつ俺のクラスメイト、(みさき)の隣についてあれこれと教えていく。


 ボタンが色々付いてるレジ。

 弁当やドリンクを購入する客がすぐにレジにやってくる。

 最近のレジはバイトの俺たちが弁当のラベルについているバーコードを読み取り、代金の清算は客自ら機械にお金を入れて勝手に清算してくれる。



「現金ですか?」

「クレジットで」

「岬、クレジットカードの清算の時はここ押すように言って」

「こちらをお願いします」



 やっぱりこの子頭が良い。

 テストの点が取れるのと、頭が良いのは話が違う。

 一度俺が教えた事はすぐに覚えていく岬。


 しかも岬、ちゃんと敬語話せるじゃないか。

 学校では俺に初対面からタメ口ばかりだったのに、お客様への対応に問題ない。



「ありがとうございました~」

「お前凄いな」

「何が」

「その素敵な営業スマイルだよ、営業スマイル」

「死ね」



 客が帰るとすぐにジト目に変わり言葉遣いも荒くなる。

 褒めたら怒る、反抗期を迎える俺のクラスメイト。

 先輩に対する優しい気配りは持ち合わせていないようだ。

 


「ポイントカードお持ちですか?」

「古いやつなら持ってるんだけど、これ使える?」

「今昔のやつ、全部新しいポイントカードに切り替わってるんですけど切り替えますか?」

「お願いします」

「岬、ポイントカードの切り替え用紙はこれ。新しいカードこの引き出しに入ってる」

「こちらへご記入下さい」



 客の要望は多種多様。

 単純なレジ打ちだけがコンビニの仕事ではない。



「BTSのコンサートが予約できないんですけど」

「ちょっと待って下さい……日程変わって再来週の10時からに変更になってます」

「どうも」



 コンビニチケットは多様な音楽コンサートのチケットを販売している。

 ライブに行った事が無い俺だが、チケット販売端末に関してすでに熟知している。

 

 平安高校に合格してから1カ月間、ここのコンビニで毎日必死に働いた。

 最初は客からの質問に全然回答できなかったが、バイト先の業務内容を必死に覚え今に至る。



「あんた、ライブとか見に行くわけ?」

「行った事無いよ。情報誌見て覚えたんだよ」

「ふ~ん」



 岬も俺と客の応対を聞いていて、疑問に思った事を質問してくるようになる。



「土日は道案内とかけっこう聞かれる」

「聞くだけ聞いて帰るわけ?」

「すぐそこの球場行きのバス停あるだろ?御所水通りバス停はよく聞かれる」

「ふ~ん」



 質問してくるという事は仕事を覚えようとしている事の裏返し。

 2時間も経つとレジ打ちまわりを完全に覚えた岬。

 


「岬、ちょっとレジ任せる。俺からあげ作ってくる」

「オッケー」



 仕事というつながりがあるせいで、強制的にコミュニケーションを取る事になる俺たち2人。

 仕事が終わる頃には俺の指示を受け入れてくれるようになった岬。

 店長が帰ってくるまでの、あっという間に過ぎていった。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






「いや~助かったよ高木君。親が家の階段で転んじゃって」

「大丈夫だったんですかそれ?」

「診療所で見てもらえたから、折れて無くて私も一安心だよ。今日は突然呼び出して悪かったね」

「全然平気ですよ」



 時間は夜9時。

 辺りはすっかり暗くなっている。

 平安高校とは反対側のこのコンビニ。


 店の裏にある従業員用の待機スペース。

 男子と女子に別れるロッカー。

 女子の方から岬も身支度を整えて家に帰ろうとしている。


 さっきハンバーガーショップの帰り道、成瀬の見送りは太陽に任せた。

 女子が1人で歩いて深夜に帰るのは、さすがに俺もどうかと思う。

 大体察しはついているが……仕事と思って一応声掛けとくか。



「岬、途中まで送ってく」

「死ねし」

「無理にとは言わないよ。ただお前女子だし、そういうの少し気にした方が良いぞ」

「……」


 

 案の定、従業員用の待機スペースから早々に店の外へ出て行った岬。

 一匹オオカミの彼女は1人で帰るだろうな。


 わざわざ学校でガン飛ばしてくるし、俺に良い印象を持っていないのは間違いない。

 そうタカをくくって帰り支度を終わらせた俺。


 店を出て驚く。

 平安高校の制服を着て、店の前に立つ女の子。


 俺と目が合うとバツが悪いのか、視線を逸らして黙り込む。

 岬は1人で帰らずに、俺が出てくるのを待っていた。



「ほ、本当に待ってたのか」

「あんたが言ったんでしょ」

「ああ、すまん……帰るか」



 本当に待っていると思わなかった。

 彼女は絶対1人で帰る、俺が勝手にそう思い込んでいた。

 誰とも学校ではツルまない彼女が、暗い夜道を送ると言った俺と並んで帰る。


 特に言葉を交わす事は無い。

 彼女はただバイト先が一緒なだけのクラスメイト。

 しばらく無言で歩いていると、不意に彼女の方から声をかけてきた。



「あんた、あんな頭悪かったんだ」

「うっ」

「バカじゃん」



 学力テストで赤点取った事を岬にツッコまれる。

 平安高校の特別進学部、一般入試の狭き門を突破。

 県下随一の進学校に入学した直後の赤点。

 矛盾だらけの俺の結果に彼女は困惑しているだろう。



――入試に合格出来たのは、未来ノートのおかげ。



 学力テストがあった前日。

 偶然彼女と学校の図書館の前で会っていた。

 彼女は真面目に勉強し、俺は未来ノートに映し出された古文のテスト問題を調べていた。


 結果、俺は赤点。

 真面目に勉強してきた彼女は、高得点を叩き出した事だろう。


 間違い無く彼女の方が実力は上。

 未来ノートを使って入試に合格した俺。

 俺は自分のテストの点数を水増ししている。

 彼女への罪悪感を感じる。


 無言で並んで歩く岬。

 不自然な事に気づく。


 近い。

 近すぎるこの子。


 さっきから肩が何度も当たってる。

 初対面に近い男の隣。

 いくらクラスメイトだからって、あからさまに嫌ってる男子の至近距離まで近づくか普通?


 朝と夕方は人通りの多いこの御所水通り。

 夜9時を過ぎると辺りは暗く、等間隔に設置された街灯が道を照らす。

 岬が肩が当たるまで近づくので、逆に俺は岬と反対側に離れようとした。


 突然。

 岬が俺の制服の袖をつかむ。



「どうした?」

「……」



 なんだ。

 どうしたこの子?

 手が……震えてる?



「あのさ……」

「おう」

「私」

「うん」

「暗いとこ、ちょっと苦手……」



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