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47.「お帰りなさい」

 まさかまさかの神宮寺家、家庭訪問。

 仕組んだのは成瀬真弓姉さん。

 神宮寺楓先輩に無理やり自宅へ連れて行かれる羽目になった。


 メイドさんはいるわ、楓先輩は綺麗だわ、妹も綺麗だわ可愛いわ。

 天国のような地獄のような場所。


 来月中間テストで赤点の危機にある俺。

 今日の6限目、古文の小テストがさっぱり分からなかった俺に、突然ふって沸いた無料の家庭教師。


 無料の家庭教師が古文のコの字も分かっていない俺に勉強会を実施。

 あれが勉強と言えるのか疑問だが、都合3時間も源氏物語を神宮寺葵からレクチャーされた。

 俺の頭の中、源氏物語一色に染まってしまった。


 それはそうと、ちょっと俺、今マジでヤバい。

 今日は詩織姉さんとの約束。

 金曜日の英語のレッスンの日。


 授業終わりの3時過ぎには詩織姉さんと紫穂がいる実家に行く予定だった。

 神宮寺家に家庭訪問してる場合じゃなかった。


 特に何時とは約束していなかったものの、詩織姉さんに呼び出しを食らってるのは間違いない。

 姉さん怒ってるよな絶対。


 神宮寺家の門を出て、平安高校の正門前まで戻ってくる。

 神宮寺の家から超近いんですけど。



「やあ君」

「は?俺に言ってるのか?」

「ははは、そうだよ。僕は生徒会の右京郁人(うきょういくと)。君はあの有名な高木守道君だね」

「生徒会?有名とかなんで‥‥赤点男だからか?」

「この前の学力テストは残念だったね」

「余計なお世話だよ」



 右腕に生徒会の腕章を付ける男子生徒。

 右京郁人(うきょういくと)

 何者だ?



「今週1週間は始業式の直後だからね。街では不審者情報も出てる。生徒会で不審者が出ないか見回りをしてるんだよ」

「不審者で悪かったな」

「はは、そんなつもりで声をかけたわけじゃないよ。僕が驚いたのは、君が神宮寺さんの家から出て来た事さ」

「なに?」



 確かに神宮寺の家は学校から徒歩0分。

 4月の薄暗い夕方。

 部活帰りに、ちらほらと生徒たちが帰宅の途についている。

 生徒会が見回り巡回してるのか。



「悪い事は言わないから、神宮寺さんには近づかない方が身のためだよ」

「あっちが近づいてくるんだよ」

「はは、それはあり得ない話だよ」

「知るかよそんなの。俺忙しいから、じゃあな」



 なんなんだよあいつ。

 忙しい時に限って変なやつから声をかけられる。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






 実家に到着する。

 辺りはすっかり暗くなっている。


 詩織姉さんとの約束で、実家に来るには来たが、父さんたちと鉢合わせるのはマズい。

 父さんも、ままははも働いている。

 親は帰りは基本夜遅い。

 父さんとは会えば、いつも必ず喧嘩になる。


 ヤバいヤバい。

 そんな事考えてる場合じゃなかった。

 詩織姉さん待たせてる。


 実家に来るといつも嫌な事を思い出す。

 詩織姉さんには絶対服従。

 まな板の上に乗せられた鯉なんだよ俺は。



(ピンポ~ン)



 自分の実家の呼び鈴を鳴らす。

 父さんから鍵の受け取りを拒否してる俺。

 実家の鍵は当然持ってない。



(ダッダッダッダッ、ガチャン!)



 誰かが玄関の扉を開けてくれる。

 凄い勢いで走る音が聞こえる。

 紫穂かな?

 玄関の扉が開く。



「お帰りなさい守道さん」

「詩織姉さん」


 

 紫穂じゃなかった。

 まさかの詩織姉さんのお出迎え。

 お帰りなさいの一言で心臓がドキドキ。



「遅かったわね」

「すいませんでした詩織姉さん、遅くなりました」



 待っていたのは制服にエプロン姿の詩織姉さん。

 詩織姉さんの姿を見てさらにドキドキ。


 紫色のエプロン。

 制服姿。

 超綺麗、超似合ってる。



「あ、あの姉さん」

「なに?」

「お弁当、美味しかったです」

「ふふっ、ありがとう」


 

 ヤバい。

 ここは俺の実家だってのに。

 玄関で詩織姉さんにお出迎えされるわ。

 お弁当美味しかったとか、感想言うの超恥ずかしい。



「あれ、姉さんそれ」

「あらあら、持って来ちゃいました。ふふ」



 詩織姉さんがしゃもじを片手に持ってほくそ笑み。

 今気づいた。

 なんでしゃもじを握ってる詩織姉さん?



「今までどちらに?」

「えっ?」



 ギクッ。

 いきなり鋭い指摘。

 本当なら学校の授業が終わったらすぐに来られたはず。

 そこにきて、神宮寺姉妹に家に連れて行かれた。


 こんなに遅くまで詩織姉さんを待たせてしまった。

 まさか同級生の女の子と3時間も源氏物語読んでましたなんて言えるわけもなく。



「どちらに?」



 顔が突然無表情に変わる。 

 なんか、なんか絶対怒ってる。

 絶対来るの遅いって怒ってる顔だ。

 俺にはなんとなく分かる。


 浮気がバレた?

 なんだよ浮気って。

 詩織姉さんは本当に姉さんになる人、浮気もくそもないだろ。

 

 言ってやる。

 入学してすぐ、女の子の家に行って来ましたって。

 堂々と姉さんに報告して。



「図書館で古文の勉強してました」

「まあ、偉いわ守道さん」


 

 さんざん姉さん待たせておいて。

 女の子の家に行って来ましたとか、姉さんに絶対言えるわけないだろ。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ~~~~高木紫穂視点~~~~




 さて、宿題おしまいっと。

 詩織お姉ちゃん、今日はお姉ちゃんが夕飯作るって言ってたし、宿題先に終わらせちゃった。


 なんか凄い材料買い込んでたし。

 今朝も超早起きしてお弁当作ってたし。

 なんか、なんか最近様子がおかしい。


 もしかして。

 男?



(ピンポ~ン)



 あれ?

 宅急便かな?



(「――勉強――ました」)

(「――わ守道さん」)



 あら?

 なんかお兄ちゃんの声がする。

 もしかして。

 今日うちに来る予定だったの?

 ちょっとわたし、聞いてないんですけど。


 詩織お姉ちゃん、いつもいつもわたしに優しくしてくるから大好きなんだけど。

 あんまり自分の事しゃべらないし、お部屋にもまだ1度も入れてもらってない。


 それなのに。

 それなのに。

 なんでお兄ちゃんはあっさりお部屋に入れちゃうわけ?

 凄く納得できないんですけど。


 今2階にいるのに、2人が上がってこない。

 お部屋に行くんじゃないの?

 1階かな。

 ちょっと降りてみよ。


 あっ。

 やっぱりお兄ちゃんの靴、玄関にある。

 もうすでにちょっと汚れてるし。

 ちゃんと綺麗に磨きなさいよ。



(「……無理ですって……」)

(「……こうするの……」)



 なにこの声!?

 リビングから。


 なんか。

 なんか変なの聞こえる!?



(「……こんなの無理ですよ……」)

(「……大丈夫、優しく……」)



 優しく。

 優しくなんですって?

 ちょっとおかしい、絶対おかしいこの2人。


 おかしいとずっと思ってたのよ。

 お父さんがいくら言っても絶対同居しないって言ってたくせに。

 なんで詩織お姉ちゃんが言ったらホイホイうちに来ちゃうわけ?

 本当、信じらんない。



(「……こうするの……」)

(「……俺、もう無理です……」)

(「……頑張って……」)



 あわわわわ。

 もう。

 もう手遅れだわこの2人。





~~~~高木紫穂脳内 思春期の妄想大爆発~~~~




『姉さん、今日もお願いします』

『恥ずかしいわ守道さん』

『俺、もう、我慢できません!』

『ダメ~』




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




(ガチャ)



「紫穂ちゃん?」

「あわわわわ」

「ふふっ。そんなところにいないで、こっちいらっしゃい」




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




「これお兄ちゃんが剥いたリンゴ?なんか凄いデコボコなんですけど」

「うるさいな紫穂は、じゃあ俺が全部食べてやるって」

「取らないでよ~」

「ふふっ」



 詩織姉さんと紫穂と一緒。

 3人で夕飯を食べる事になる。


 今日の夕飯は詩織姉さんが作ってくれたカレーライス。

 なぜか姉さんに台所に立たされて、リンゴの皮を包丁でクルクル剥かされた。


 アパートには戻らずに、詩織姉さんと紫穂がいるこの実家に平安高校から直行してきた。

 詩織姉さんから渡されていた、紫色の風呂敷に包まれたお弁当箱を洗って持ってくるつもりだったのに。

 正直に話し、リンゴを剥いた後自分でお弁当箱を洗う事にした。

 それを手伝うという詩織姉さん。



「守道さん、洗ったら頂戴」

「はい」



 俺が弁当箱を洗い、隣に並んで立つ詩織姉さんが受け取って拭いてくれる。

 なんか。

 一緒に生活してる感じする。

 

 お弁当箱のフタや容器を洗っては、1つずつ隣の詩織姉さんに渡していく。

 さも当たり前のように、隣で姉さんが受け取る。

 

 俺が洗うのが遅いので、拭き終わった姉さんが次の容器が来るのを隣で待っている。

 


「守道さん、自炊も出来るようにならないと」

「ええ!?自炊はちょっと」

「許しません」



 生活指導。

 コンビニ弁当ばかり食べてる俺に、自炊の勉強もするように強く迫られた。


 包丁を握ったら負けだと思っていた俺。

 まな板の上の鯉。

 詩織姉さんにサバかれるだけの俺の立場。

 嫌ですとは言えない。


 平安高校の入試問題を事前に知っていたのがバレている俺。

 英語の勉強しろだの。

 包丁持ってリンゴの皮を剥けだの。


 なにをするにも。

 俺が嫌だと言っても。



「許しません」

「はい」



 絶対服従。

 姉さんには一切、逆らう事は出来ない。





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