43.第5章サイドストーリー「神宮寺楓は眠らない」
平日。
夜。
神宮司家の呼び鈴を鳴らす1人の女子。
(ピンポ~ン)
(「はい」)
「成瀬真弓です。楓さんお願いします」
(「お入り下さい」)
使用人が応対。
神宮司家の正門。
オートロックが解除される音。
正門から玄関までは白い石畳が続く。
玄関の扉が開く。
緑色のカーディガンを羽織る、私服姿の神宮司楓。
「真弓」
「ごめんね楓、こんな時間に」
「いいのよ。あなたがこんな時間に訪ねてくるなんて初めてだもの、ビックリしちゃった私」
「ちょっとヤボ用で、本当ごめん」
旧知の仲。
成瀬真弓と神宮司楓。
夜空に星が輝く真夜中。
神宮司家のリビングに通される成瀬真弓。
「こんばんわ真弓お姉ちゃん」
「あら葵ちゃん~今日も可愛いわね」
「えへへ」
神宮司葵。
すでに寝巻に着替え、藍色のカーディガンを羽織る。
成瀬真弓と面識がある様子。
成瀬真弓に温かいコーヒーを出す神宮司楓。
「悪いわね楓」
「今日はどんなご用事?」
「ちょっと相談。うちの出来の悪い弟の話」
「あら、真弓に弟さんいらっしゃったかしら?」
「それがいるの。超出来の悪い弟」
弟ではない弟がいる。
出来の悪い弟の、出来の悪い話。
「高木君?」
「そう。うちのゆいちゃんが、今その子の英語の家庭教師始めてて」
「あらあら」
成瀬結衣を知る神宮司楓。
楓の隣には、ベッタリと引っ付いている妹の姿。
顔を姉に擦り付け、視線が合う度笑みを浮かべる。
「全部?」
「そう、もう全部ダメな感じ」
「あらあら」
「もう本当バカなの。どうやって平安高校入れたんだか」
「まあまあ」
出来の悪い弟の悪口。
旧知の親友に相談する、成瀬真弓。
「楓、昔から国語得意でしょ?」
「それはそうだけど、古典は葵ちゃんほどじゃないし」
「お姉ちゃん、わたし源氏物語好き」
「はいはい。良い子ね葵ちゃん」
「えへへ」
姉にベッタリの妹。
その妹の頭をなでる姉。
ほほえましい姿に、自分の妹を重ねる成瀬真弓。
「うちのゆいちゃん、あんな必死にバカの高木に勉強教えてて。私もゆいちゃん見てて、なんとかしてあげたいなって思ってて」
「ふふっ、真弓らしいわね」
「もうあのバカ。来月の中間テストまた赤点だったら終わるの、本当信じらんない」
「まあ、それは大変」
神宮司家のリビングで話し込む成瀬真弓。
そして神宮司楓。
次の用事があるからと、神宮司家を後にする成瀬真弓。
正門まで見送る神宮司楓。
「じゃあね楓。わたしはゆいちゃん迎えに行ってきます」
「真弓。さっきの話、前向きに検討させていただきます」
「話聞いてくれただけで十分よ。お父さんの許可、出るわけないでしょ?」
「ふふっ。聞くだけ聞いてみます。だってあの子」
「高木の事?」
「葵ちゃんの、大事なお友達なんですもの」
空に月が浮かぶ。
雲に隠れては、その輝く姿をふたたび見せる。
1000年前。
紫式部の見上げた月と同じ月が。
今を生きる人々を。
1000年後の今も変わらず、明るく照らし続ける。




