36.第4章サイドストーリー「成瀬真弓は逃がさない」
高木守道、朝日太陽。
小学3年生の2人組男子。
小学1年生から3年間同じクラス。
「朝日、今日落合書店な」
「マジか高木」
まだお互い、名字で言い合っていた悪ガキ2人。
そんな2人のクラスに。
初めてクラスが一緒になった女の子が1人。
「それ、ゆいちゃんの絵?」
「う、うん」
「凄~い」
彼女の名は成瀬結衣。
暇さえあれば絵を描くのが趣味だった彼女。
机の上でノートに絵をかいていたところ、クラスメイトに声をかけられる。
「見て見てみんな~ゆいちゃん絵、上手だよ~」
「凄~い。これ誰描いたの?」
「一応、わたし」
「似てる~」
「綺麗~」
小学3年生。
歳相応に良く描かれた可愛い絵の自画像。
そんな女子たちの話をまるで聞いていない、クラスの端にいる高木守道と朝日太陽。
昨日のテレビの話題で盛り上がる2人。
「チャチャチャチャ~」
「先生、花子が生徒会長になったって」
「全校生徒を花子が脅した~」
「あははは」
小学3年生、悪ガキ2人。
今日1日の授業が終了する。
下校時間。
成瀬結衣の机に集まる女子たち。
余計な一言を言う事において、右に出る者がいない高木守道。
学校帰りに落合書店に向かう。
その朝日太陽との約束が今日。
果たされる事は無かった。
「見て見て朝日くん。ゆいちゃんの絵、綺麗でしょ?」
「ああ、そうだな。どうだ高木?」
「誰これ、宇宙人?」
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「いいみんな、この2人の写真をよく覚えて」
5年生のクラス。
成瀬結衣の姉、成瀬真弓。
泣いている妹を片手で抱きしめながら、もう片方の手で3年生の遠足時に撮影された販売写真を天にかかげる。
悪ガキ2人がピースをしている写真。
販売価格、1枚50円。
――支払いはお釣りの出ないように担任の先生まで――
下校途中だった5年生のクラスメイトたち。
成瀬姉妹の異変に気付いたクラスメイト7名。
(パシャ)
ガラケーを持つ生徒が2人の写真を撮る。
その有志の中から、弟、妹がいる生徒複数。
成瀬真弓に続々と兄弟、姉妹情報が寄せられる。
「真弓ちゃん。うちの弟、ゆいちゃんと同じクラスだから知ってる。その2人、朝日君と高木君だよ」
「どっちがどっち?」
「こっちのカッコいい方が朝日君で、こっちのアホヅラが高木君」
情報班から緊急報告。
身元が一瞬にしてバレる。
「ゆいちゃん、大丈夫?」
「お姉ちゃん」
「誰に言われたの?」
「高木君が」
「高木?高木がなんて?」
「わたしの事、宇宙人だって」
有志一同に戦慄が走る。
「真弓ちゃん」
「朝日君は生け捕りにして確保」
「高木は?」
「高木は生死は問わないわ、すぐにここへ連れてきて!!」
「おおっ!!」
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校舎3階、理科室。
人体模型の裏に隠れる、悪ガキ2人。
「はぁはぁ、いきなり泣き出すんだぜあいつ。なんなんだよ」
「はぁはぁ、高木が余計な事言うからだろ」
「俺なんか言ったか?」
女心が分からない悪ガキ1名。
自分には非が無いと主張。
「どうする高木?」
「俺、悪くないし」
「だがな高木、俺もちょっとお前が悪いと思うぞ」
「マジか?」
しばらく悩む高木守道。
どうしても自分が悪い事をしたとは考えられなかった。
「ここで粘る」
「絶対バレるって」
「1時間もしたらみんな家に帰るだろ」
(ピンポンパンポ~ン)
「うわ!?」
「放送?」
(3年2組の朝日太陽君、高木守道君。至急、5年1組、成瀬真弓さんのところまでお越し下さい)
(ピンポンパンポ~ン)
「誰だよ成瀬真弓って?放送部、なんで勝手に放送使ってんだよ」
「高木の泣かせた女子、たしか成瀬結衣って名前だろ?成瀬真弓って言ってたから、絶対姉ちゃんだって」
俺は悪い事は何もしてない。
でも上級生の姉ちゃんは怖い。
「自首か?」
「逃走中かよ。俺は何も悪くないから、絶対自首なんかしないからな。朝日は先に帰れよ」
「今さらだろ高木、俺と一緒に逃げようぜ。
俺も最後まで付き合うからさ」
「マジか」
「そうと決まれば、まずどう逃げるかだな」
「お、おう」
朝日は俺を裏切らなかった。
それどころか、学校の各エリアを細かく分析。
1階の下駄箱を経由して、最終ミッションである正門または裏門から校外への脱出を図る計画。
「正門はもう無理だろうな」
「ここの理科室か音楽室にこもるか?」
「給食室の裏、トラック入れる門あるだろ」
「先生たちの車が通る校舎の裏からも出られるぞ」
俺たち2人の逃走劇の舞台となるのは、学校に設けられた様々なエリア。
「理科室」「音楽室」「給食室」「校舎の裏」
このエリアのどこに逃げ込むかで、逃走者である俺たちの運命は大きく左右される。
「下手にここを動いたらバレるかも知れないな」
「でもここバレたらもう逃げ場がないだろ」
逃走成功のミッションをクリアするために動けば、ハンターに見つかる危険も高まる。
校外脱出に挑むか、挑まないかは、逃走者の自由。
「行くか朝日」
「その言葉、待ってたぜ高木」
「人体模型と心中とかごめんだって」
「違いねえ」
不条理な呼び出しからの逃避行。
先生に呼ばれたわけじゃない。
呼び出し放送なんて無視だ、無視。
校舎3階、理科室の扉に手を掛ける。
「待て高木」
「なんだよ朝日」
「やっぱり2手に別れよう」
「はっ?確かに階段2つあるけど、なに言ってんだよお前」
「俺は中央を行く。お前は外の非常階段から下にいけ」
「お前が発見されたらどうすんだよ!」
「その時は、俺の屍を越えていけ高木」
「朝日」
同時に見つかるリスクを避けるため、別々に脱出する道を選んだ朝日太陽。
「じゃあな高木。もし校内で見つかったら校舎の裏で落ち合おう」
「おう、じゃあな朝日。気をつけろよ」
(ガラガラ)
自由への逃避行。
呼び出し放送ガン無視。
俺と太陽の2人は、別々の階段から下駄箱を目指して走り出した。
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「あっ、いたわよ!」
見つかった。
誰だよあの子?
「おい、アホヅラの方がこっちにいたぞ!」
こっちにもハンター。
誰だよアホヅラって。
もう靴履いたし、一番捕まるリスクのあった下駄箱突破。
正門はすぐそこ。
「カッコ良い方が校舎の裏の方に行ったよ!」
正門はハンターで一杯、マズイ。
カッコ良い方?
朝日か。
あいつ校舎の裏に行ったみたいだな。
俺もそっちにダッシュ。
校舎の裏。
校舎の裏庭にある1本の木。
その近くには小さな池があった。
「待てーー!!」
ヤバい、後ろからもハンター。
「こらーー!高木ーー!!」
なんか凄いデカイ声で叫んでる女子がいる。
俺が泣かせた成瀬結衣に似てる上級生。
あのハンター、なんで俺の名前知ってるんだよ。
校舎の裏庭。
同じく追い詰められた男子がいる。
「朝日」
「高木、どうやらここまでみたいだな」
朝日と俺。
校舎の裏庭、1本の木の下に追いつめられる。
俺たち2人を囲う上級生たち。
その群衆が2つに割れる。
2人の女子。
1人は半泣きの成瀬結衣。
成瀬結衣がくっついてるのは、上級生のお姉ちゃんか?
「こらお前ら!」
「うわ!?」
(バシャーーン!!)
1本の木の近く。
上級生のお姉ちゃんにおどかされ、たじろいだ俺と朝日は、鯉が泳ぐ小さな池に、2人で豪快に落ちてしまった。




