29.第3章サイドストーリー「高木紫穂は眠らない」
~~~~~高木紫穂視点~~~~~
(ガチャガチャ、ガチャン!)
高木家、アパート。
玄関のドアが開かれる。
部屋には誰もいない。
「お兄ちゃん~って、誰もいないか」
平日、授業終わり。
アパートに入る制服姿の女の子の姿。
高木守道の実の妹、高木紫穂。
中学2年生。
思春期真っ只中。
スーパーで買った商品を入れたビニール袋を手に下げる。
かつて自宅であった、現在お兄ちゃん宅の合鍵を持つ唯一の人物。
「うわ、布団引きっぱなし。また朝そのままバイト行ったわね」
アパートの玄関から、奥の部屋が見える。
畳みの部屋には布団が引きっぱなし。
「カビるでしょ。本当信じらんない」
引きっぱなしで早朝バイトに向かった兄を察し、布団をベランダに干すべく畳みの部屋に向かう。
ふと兄の枕を両手に持ち、抱きしめる妹。
(くんか くんか)
「お兄ちゃん臭、凄いする。この前私が来た時から絶対洗ってないし」
枕シーツ、布団カバーを慣れた手つきで取る。
洗濯機へ放り投げる妹。
「アタックどこ?」
アタックの捜索を開始する妹。
20秒後、台所付近で発見。
「なんでここにあるのよ~本当信じらんない~」
洗濯機運転開始。
台所のコンロに火が灯る。
(ぐつ ぐつ ぐつ)
肉じゃがの調理を開始。
兄はいつまで経っても帰ってはこない。
次第に日が暮れ始める。
夕陽がアパートの部屋に差し込む。
亡くなった母の遺影。
仏壇の前で手を合わせる高木紫穂。
楽しかった家族との思い出。
楽しかった、あの頃の思い出。
妹の目から涙が溢れる。
涙は頬をつたい、雫となって幾粒も、幾粒もこぼれ落ちていく。
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夜。
バイト帰りの兄が自宅アパートに帰ってくる。
「ただいま~って誰もいないか」
玄関のドアを開ける。
すぐに良い匂いが漂ってくる。
「肉じゃが!?」
部屋の電気は消えていた。
美味しそうな匂いですぐに気づく。
母から肉じゃがの作り方を教えてもらっていた高木紫穂。
母と同じ作り方。
母と同じ、肉じゃがの甘い匂い。
外はすっかり暗くなっている。
部屋の電気をつける。
「紫穂!?」
「すや~」
ヤバいヤバい。
なにやってんだよ紫穂。
母さんの前でなに寝てんだよ。
ん?
近くにスマホ。
紫穂のか?
なんかスマホピカピカ光ってるよ。
ライン?
メッセージ?
なんかいっぱいメッセージ待機画面に出てるし。
ヤバいんじゃないかこれ?
『紫穂、どこへ行った?なぜ連絡もしないで帰ってこない?早く連絡しなさい』
『紫穂ちゃん、詩織です。お父さんが警察行くって聞かなくて。早く連絡下さい』
「起きろ紫穂!」
「すや~」
「捜索願い出されちゃうだろ!いいから早く起きろって!」




