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28.第3章最終話「消える未来」

 3年生の入る校舎。

 その1階。

 平安高校の教師や職員たちが入る大きな職員室があった。


 初めて入る場所。

 担任の藤原宣孝先生に連れられて職員室の中に入る。


 俺が入るなり、先生たちから視線が注がれる。

 職員室には更に奥の部屋があった。


 ドアを開け、扉を閉める。

 藤原先生と2人きりになる。

 応接室に連れてこられたようだ。


 

「落ち着きましたか?」

「はい」



 俺は悔しかった。

 自分の持てるすべてを出して学力テストに臨んだ。

 結果は悲惨を通り越して、絶望的なものだった。



「1つ話をしても良いかな?」

「えっ?は、はい」



 年配の男の先生。

 いつも冷静で落ち着いた雰囲気の先生だと思っていた。


 まだ入学して3日しか経っていない。

 担任の先生とはいえ、2人で話をする機会はこれが初めてだ。



「私はこの平安高校の卒業生でね」

「そうだったんですね」



 藤原宣孝先生。

 まさかこの高校の卒業生だったなんて知らなかった。



「君は今、赤点を取ってとても苦しんでいる。そうだね?」

「はい」

「ふむ、ではこれから君はどう行動する?」

「さっき友達に言われました。勉強するしか、俺のやるべき事はそれしかありません」

「宜しい。では次の授業から頑張れるかな?」

「もちろんです」



 気合を入れろ。

 前を向け。

 もう答えは太陽が示してくれていた。


 俺はもう子供じゃない。

 いじいじ泣いていてもしょうがない。


 次の大きなテスト。

 赤点降格のリーチがかかった俺にとって、来月5月の中間テストは背水の陣で臨む最後のテストと言っていい。



「あまり無理はしない事。それだけは覚えておいて欲しい」

「分かりました」


 もう1限目の授業が始まっている時間。

 物理の授業。

 クラスメイトはもう授業のある教室に移動してしまったはず。


 先生が先に立ち上がる。

 俺も続けて立ち上がり、応接室を出ようとする。



「それから……これは秘密にしておいてもらいたいのだが」

「は、はあ」

「恥ずかしながら私も一度、君と一緒で赤点を取った事がある」

「ええ!?」






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






(キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン)




 学力テストの結果ボードが校舎の前から撤去されていた。

 午前中の授業が終了し、昼休憩の時間になる。


 朝から厚い雲に覆われていた空模様。

 段々と外の天気が怪しくなってきた。

 今にも雨が降り出しそうな天気。


 その厚く黒い雲に覆われる空を切り裂くように。

 授業が終わるなり、S2クラスに光り輝く暑苦しい生徒が1人入ってきた。



「ようシュドウ、おはようさん」

「もう昼だって太陽。朝はサンキューな」

「よく今日の授業頑張れたな、偉いぞ」

「授業受けるとか普通だろそれ。俺は小学生じゃないっつーの」



 静かだったS2クラスが、SAクラスの太陽が入ってくるなり一気に明るい話し声があちこちから響いてくる。

 学力テストの悲惨な結果。

 赤点を取った俺におかまいなしに話しかけてくる朝日太陽。


 もう俺は太陽がまぶし過ぎて仕方がない。

 俺とは正反対。

 スポーツも出来て、勉強も出来て、おまけに成瀬が惚れるほど、超が付くほどカッコ良くて性格も明るい朝日太陽。

 俺にこんな最高の親友がいる事自体、ますますおかしく感じてくる。



「シュドウ、今日は夕方バイトか?」

「今日はフリー」

「よし、夜勉強するぞ」

「夜!?お前野球部の練習あるだろ」

「終わってから特訓だシュドウ。何時でも付き合ってやるから、絶対だ。今日は絶対だ」



 太陽は一度やると言ったら絶対にやる男。

 もうこうなっては止めようがない。

 太陽の話。

 受け入れるしか選択肢が無い。



「分かった、分かったよ。じゃあ何時から?」

「9時だな」

「9時!?ふざけんなよそれ。どこで勉強やるんだよ、どこで!?」

「お前んち」

「キモイだろそれ、お前と夜2人きりとか絶対嫌だって」

「じゃあ俺んち来い。それで良いな?」

「分かった、行くよ、行きますよ絶対」




 野球部の練習が終わって、飯やら風呂やらモロモロ終わらせたら夜の9時から勉強合宿を開始するつもりらしい。

 まだ明日授業も1日残っているというのに、特訓と称して俺を勉強漬けにする気満々だこいつ。


 太陽の熱いトークに、S2のクラスメイトから失笑する声も聞こえてくる。

 そんな俺たち2人に近寄る男がもう1人。



「やあどうも」



 太陽がその男の姿を見て殺気立ち、喧嘩ゴシに荒く話かける。



「数馬、なんだてめえ」

「まあまあ。僕もその話、ぜひ混ぜてもらいたくてね」

「お前は引っ込んでろ。俺のシュドウに手出すんじゃねえよ」



(キャ~)



 なんかヤバいトークになってきた。

 超恥ずかしいんだけど俺。

 クラスの女子たちが太陽と結城の一言一言に悲鳴を上げている。


 もう俺、恥ずかしくて生きていけない。

 穴があれば入りたい。


 学力テストで悲惨な結果に終わった俺。

 太陽にはもう何も逆らえない。

 俺の口からは、もうグの字も出ない。



(ざわざわ)



「おいシュドウ」

「え?今度はなに太陽?」

「客だ。お前の姉さん」

「姉さん?」



 次の瞬間。

 静まり返る教室。

 教室の後ろの席から、クラスの中を覗き込む上級生の姿。


 平安高校の2年生。

 蓮見詩織姉さんがそこにいた。


 可憐な風貌にクラスの男子たちが見惚れている。

 心配そうに俺を見つめる表情。

 なんで姉さんまでこんなところに。



「シュドウ、行ってこい」

「なんでだよ」

「お前以外に用のあるやつがいるわけないだろ。ほら、さっさと行け」

「痛いって太陽」



 太陽に無理矢理腕を掴まれて席を立ちあがる。

 廊下に出て、詩織姉さんと向かい合う。


 もう今日は朝から色々な事があり過ぎてとても参っている。

 藤原先生からも慰めてもらって。

 太陽からは朝からずっとだ。

 

 今日までまともに話をしてこなかったクラスメイト2人から、突然今日は話しかけられるし。

 俺。

 きっと今。

 凄く情けない顔して、詩織姉さんの前に立ってるだろうな。



「守道さん」

「……」

「こっち」



 学力テストであんな悲惨な点数を取って。

 もう姉さんにあわせる顔が無い。


 おもむろに詩織姉さんが俺の腕に手を掛けてくる。

 姉さんに連れられて、校舎の中央階段まで進む。


 今いるのは1年生と2年生の入る校舎。

 特別進学部1年生の3クラスが入るフロアは校舎最上階の3階。


 姉さん、階段を上に向かってる?

 最上階3階の上は屋上。


 なんで姉さん。

 こんな人目のつかない場所に俺を連れていく?


 最上階から上の階段を2人で上がる。

 非常口のピクトグラムが緑色に店頭する下。


 重たい金属製のドアを開けると、外から風が内側に吹き抜ける。

 屋上には誰もいない。


 そのまま姉さんに引っ張られ、屋上の中ほどまで進んでくる。


 立ち止まる詩織姉さん、俺も続いて立ち止まる。

 朝から天気は曇り空。

 厚い雲から雨が今にも降り出しそうだ。



「守道さん。今日のあれ、見ました」

「やっぱり、そうですよね」



 詩織姉さんの言うあれ。

 学力テストの結果ボード。

 あれ以外には考えられない。



「ねえ守道さん」

「はい」



 突然黙り込む詩織姉さん。

 なにか言いたげ、それでも言えない、そんな表情。



(ピカァ!ゴロゴロ)



 雷が鳴り、あたりに轟音が響き渡る。

 姉さんはそれでも動じず。

 ついに、口を開く。



「覚えてる守道さん」

「えっ?なにをです姉さん」

「あの日、わたしたち。図書館で会ったわよね」



 図書館?

 姉さんと図書館って。


 後にも先にも、入試の前のあの1回だけのはずじゃあ。

 入試の前のあの1回。


 あの日、あの時。

 御所水通りにある、中央図書館。


 平安の過去問5年分を自力で解いているとき、俺は姉さんに図書館で声をかけられ。

 過去問の模範解答、数学の解法が分からなかった俺は。

 姉さんの好意に甘え、解き方を教えてもらった。


 まだ未来ノートに映し出された問題が、平安高校の入試問題だと確証が無かった時。


 あの日俺は。

 姉さんに。

 未来ノートに映し出された平安高校の入試問題を、詩織姉さんに、すべて解いてもらっていた。



「ごめんなさい守道さん。わたし、見てしまいました」

「何を?」

「今年の平安高校の、入試問題を」



(ピカァ!ゴロゴロ)



 雷鳴が鳴り響く。

 校舎の屋上。


 心臓が激しく鼓動する。、

 俺の心臓が張り裂けそうになる。

 鼓動がバクバクと、今にも張り裂けそうになる。


 何も言わない。

 それ以上、話そうとしない詩織姉さんを前にして。

 

 ただ立ち尽くす。


 黒い雲に覆われた空から。

 大粒の雨粒が、ポツポツ、ポツポツと降り落ちてきた。





第3章<力の代償> ~完~


【登場人物】




【主人公とその家族】



《主人公 高木守道たかぎもりみち

 平安高校S2クラスに所属。ある事がきっかけで未来に出題される問題が浮かび上がる不思議なノートを手に入れる。


高木紫穂たかぎしほ

 主人公の実の妹。ある理由から主人公と別居して暮らすことになる。兄を慕う心優しい妹。


蓮見詩織はすみしおり

 平安高校特別進学部に通う2年生。主人公の父、その再婚を予定する、ままははの一人娘。主人公を気遣う、心優しきお姉さん。





【平安高校1年生 特別進学部SAクラス】



朝日太陽あさひたいよう

 主人公の大親友。小学校時代からの幼馴染。平安高校特別進学部SAクラス1年生スポーツ万能、成績優秀。中学では野球部に所属し、3年間エースとして活躍。活発で明るい性格の好青年。






【平安高校1年生 特別進学部S2クラス】


結城数馬ゆうきかずま

 平安高校特別進学部S2クラス1年生。野球部入部テストにて朝日太陽と競い合う。




【平安高校1年生 特別進学部S1クラス】


成瀬結衣なるせゆい

 主人公、朝日とは小学校時代からの幼馴染。平安高校特別進学部S1クラス1年生。秀才かつ学年でトップクラスの成績を誇る。


神宮司葵じんぐうじあおい

 主人公と図書館で偶然知り合う。平安高校1年生、S1クラスに所属。『源氏物語』をこよなく愛する謎の美少女。




【平安高校3年生】


神宮司楓じんぐうじかえで

 現代に現れた大和撫子。平安高校3年生。誰もが憧れる絶対的美少女。神宮司葵の姉。




【平安高校 教師・職員】



叶月夜かのうつきよ

 平安高校特別進学部S1クラス担任教師。


藤原宣孝ふじわらのぶたか

 平安高校特別進学部S2クラス、主人公のクラスの担任教師。


《枕 桑志まくらそうし

 平安高校特別進学部SAクラス担任教師。


江頭中将えがしらちゅうじょう

 平安高校特別進学部日本史担任教師。


《ローズ・ブラウン》

 平安高校特別進学部、英語コミュニケーションⅠを担当。

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