26.「英語コミュニケーションⅠ」
入学3日目。
本格的に授業が始まり、1限目の現代文の授業が終了する。
現代文のテスト。
出来は半分といったところ。
俺は今日の現代文のテストを受けて、未来ノートのある問題点に気付かされた。
――未来ノートには相性が存在する。
現代文の科目1つとっても、未来の問題が分かるからといって、なんでもかんでも正答を調べられるわけでは無い事が分かってきた。
第1問、ひらがなから漢字を記入させる問題だった。
『ざせつ』。
未来ノートの1ページ目に映し出された問題。
以前のように藍色で答えのようなものが浮かび上がるわけもなく。
ただ調べるのは容易だった。
図書館で漢字辞典を使えば、答えはあらかじめ簡単に調べる事が出来た。
そして第2問でいきなりつまづく。
長文問題が出題されたからだ。
登場人物の行動と理由を問わせる記述式の問題。
こんな問題が分かったところで、中学時代に国語の授業をまともに聞いてこなかった俺が簡単に解けるような問題ではない。
答えを調べようもなく、結局それらしい答えを埋め、何とか白紙解答を避けるのが精いっぱいだった。
未来ノートは万能ではない。
それを俺は、2限目の英語の授業で思い知らされる。
「それでは授業終了します」
嘘だろ!?
2限目の英語の授業で、俺が準備していた英語の小テストが実施されなかった。
昨日の未来ノートには、確かに1ページ目に現代文の小テスト。
そして2ページ目には英語の小テストの問題が浮かび上がっていたはず。
おかしい。
いや。
明日の英語の授業で、未来ノートの2ページ目に表示されていた英語のテストが出るという意味だったのかも知れない。
俺の読み違い。
完全に勘違いだった。
1限目の現代文の後に、2限目の英語の授業で小テストが実施されるものだと、すっかり勘違いしてしまった。
いつ、どこで実施されるテストなのか。
平安高校の入試問題と違って、頻繁に行われる小テストとは未来ノートは相性が悪すぎる。
モヤモヤとした気持ちのまま、3限目の『コミュニケーション英語Ⅰ』の授業が始まる。
(キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン)
「キャー」
「素敵~」
特別進学部、S2クラスの教室が沸き立つ。
金色の綺麗な髪をなびかせる大人の女性。
青い瞳、日本人ではない美しい大人の女性の姿。
「Hi,everyone!I'm Rose Brown.I'm Canadian but I have lived in Japan for over 10 years~」
嘘だろ、嘘だろ。
3限目の『英語コミュニケーションⅠ』。
なにやるのか全然理解してなかった。
いきなり金色の髪の綺麗な女性講師が現れた。
日本人じゃない大人の女性講師が全部英語で話し始める。
もしかして。
もしかしてこの授業、全部英語!?
マジかよ。
中学時代まったく英語をまとも勉強してこなかった俺。
成瀬は毎週金曜日に英語の家庭教師がきて勉強してたって言ってたけど。
俺はそんな事を中学3年間なにもしてこなかった。
全然、まったく、英語を聞く事も出来なければ、話すのだってまるで分かってないよ。
「ローズ・ブラウン先生だって」
「凄い~綺麗~」
「カナダ人でしょ?本場のネイティブって素敵」
ローズ・ブラウン先生?
俺、全然聞き取れなかった。
ネイティブ、本場って、みんな今の英語が聞き取れてるのか?
カナダ人とかみんな騒いでる。
俺には全然なんにも分かってないよ。
とにかく全部英語の授業。
どんどん授業が進んでいく。
30人の生徒が、6つのグループに分けられる。
俺の入ったのはBの班。
自己紹介をお互いするように言われる。
「Hi.I'm Kazuma Yuuki.I'm ~」
B班の女子たちが見惚れるこの超イケメン男子。
かずまゆうき?
英語で逆に名乗るから、漢字は分からないけど、ゆうきかずまっていう男子のようだ。
滑舌がいい、しかもカッコいい。
眼鏡女子たち大興奮。
次の次が俺の自己紹介の番。
自分の自己紹介に超不安の俺。
「Hi.I'm Rena Misaki.I'm ~」
俺の1つ前の順番の女の子。
茶髪で俺にガン飛ばしてくるこの子、れなみさき?
名前は逆に名乗るから、漢字は分からないけど、みさきれなっていう女子のようだ。
「キャ~」
「Hi」
「先生来た~」
嘘だろ嘘だろ。
なんで俺の自己紹介の番になったら、突然カナダの先生来ちゃうんだよ!?
「あんたの番。さっさとしろし」
「わ、分かってるよ」
「English only」
「Sure」
「はははは」
みんなに笑われてる。
すればいいんだろ、自己紹介。
「I'm Morimiti Takagi……」
「hu?」
「ははは」
名前以外、なにも話せない。
みんな自分の趣味とか、なんか一杯話してたけど。
俺。
名前以外喋れないよ。
俺がもう終わりにして欲しいオーラを出していると、ローズ先生が突然俺を英語でまくし立ててくる。
「Listen to the story again and find the answer」
『物語を聞いて答えを探して下さい』
「テストよ高木君」
「テスト!?噓でしょ先生」
同じB班の眼鏡女子が、ローズ先生がテストを始めると言い始めた。
嘘だろ嘘だろ。
もう授業の冒頭から全然ついていけていない俺。
なんで。
なんで俺だけテストが……英語の、小テスト?
B班の俺以外の5人どころか、他の5つの班のクラスメイトたちから注目が集まる。
「I am going to join the basketball team at school~Question~」
クエスチョンだって!?
ボーっとしてる間にもう問題って言ってる。
これ、もう小テストじゃん。
あれ。
でも、バスケットボールって聞こえたな今。
確かこのバスケットボールって単語。
登場人物マイクが将来なりたいプロスポーツのプレーヤーを問う問題。
正答はバスケットボール、サッカー、野球のうちどれか1つ。
ローラって女の子の名前も先生言ってたな。
ローラが何かスポーツの話題を英語で話してる。
あれ?
この話、俺、もう知ってる。
先生が言ってる問題。
昨日図書館で調べた問題。
似ているどころか、未来ノートの2ページ目に表示されていた英語の設問と瓜二つの事を先生は発音しているだけのように聞こえる。
全部図書館で単語を和訳するにはしたけど。
最後の質問はやはり「マイクが将来なりたいプロスポーツのプレーヤーは何か?」
結局バスケットボールだと俺は思った。
確証はないけど。
今先生の発音してるネイティブ英語、全然聞き取れてないけど。
何も言わないよりはマシ。
「Professional basketball player」
静まり返る教室。
(パチ……パチパチ)
え?
(パチパチパチ)
「凄いね君。全然分かってないフリして、僕もすっかり騙されてたよ」
「嘘だろ?合ってたのかバスケで?」
「マジで言ってんのあんた。馬鹿じゃん」
クラスメイトが注目する中、ネイティブの先生が言っていた問題を実際には聞き取れていなかった。
だが俺に奇跡が起きた。
昨日活字に起こされた未来ノートの問題を辞書であらかじめ調べておく事で答えを予測。
ただ最後に1言。
予想していたプロバスケットボールプレイヤーだと発言しただけ。
まぐれで合っていたらしい。
奇跡的に俺はリスニングの小テストを突破することに成功した。




