表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/173

25.「予見した未来」

 太陽に野球部の入団テストの結果を聞きに行った昨日の夜、太陽から楓先輩への想いを聞く。

 成瀬が太陽に告白してからのこれまでの時間、俺はずっと2人の気持ちを勘違いしていた気がする。

 

 太陽の家に成瀬も駆けつけていた。

 無言で走り去った成瀬の事が気になっていたが、俺は太陽から、俺が来る前に成瀬と何を話していたのか最後まで聞かなかった。


 S2クラス。

 今日から本格的な授業が始まる。

 朝のクラス内は和やかな雰囲気が漂っていた。



「昨日楽しかったね~」

「また行こう~」



 親睦会へ行ったみんなは昨日相当楽しんで来た様子。

 クラス内ではいくつもの小集団が形成されている。

 特に女子はすぐに群れをつくる。

 当然、俺は蚊帳の外。


 教室の一番後ろの列の席、列中央に座る俺。

 俺の背中から女の声が突然聞こえる。



「あっ、バカみっけ」

「俺はウォーリーを探せじゃないんだよ」

「あほくさ」



 昨日図書館の前で偶然会ったクラスメイト。

 彼女だけは群れる事無く、1人で窓側の席に座る。


 完全に俺の事をバカにしている。

 妙な女に目を付けられてしまった。

 あれでいて彼女もこのS2クラスの狭き門を突破してきた1人。


 名前もまだ知らない彼女。

 ツンとした表情だが、彼女はあれでいて相当女子力が高い。

 高1で化粧とか個性あり過ぎだろ。


 茶髪の彼女とは俺は住む世界が違う。

 可愛ければ何をやっても良いわけじゃない。


 S2クラスの朝のホームルームが始まる。

 担任の藤原宣孝(ふじわらのぶたか)先生。



「おはようございます」



 ホームルームの時間が終わり、今日の授業の1限目がそのままS2クラスの教室で始まる。

 現代文の授業。

 高校ではそれぞれの授業にその分野担当の先生が授業を行う。

 今日は本格的な授業初日、突然切り出すテストの話。



「これより小テストを実施します」

「え~」

「嘘でしょ」



 現代文の先生の宣告に多くの生徒から悲鳴が上がる。



 ―――小テストの実施を知っていた。



 俺は知っていた。

 この授業で小テストが実施される未来を、未来ノートからその情報を予見していた。


 抜き打ちで実施されるテストの存在。

 中学3年生の時。

 初めて白い未来ノートを使って社会の小テストや理科の小テストに臨んでいたあの頃を思い出す。


 いずれは実施される事が確実だと、未来ノートは俺に未来の問題を映すことで訴えかけてきていた。

 未来ノートを使い続けて、ある事が分かっていた。

 それはページの1ページ目、新しい方のページから俺の受けるテストの順番が分かる事。


 つまり2ページ目に表示される英語の小テスト。

 それは現代文の授業の後に実施される、次の英語の授業でテストが実施される事を指している。


 未来ノートのページの順番通りにテストが実施される。

 とても分かりやすく、授業の順番が分かっている俺にとって、小テストの実施日が推測できる。


 今日、本格的授業の初日。

 1限目の授業は『現代文』、2限目の授業は『英語』。


 この授業の並びでピンときた。

 小テストは抜き打ちで、1限目と2限目に実施されると。


 未来ノートの1ページ目と2ページ目、現代文と英語の順番に表示される時系列と一致するはず。


 抜き打ちテスト。

 中学3年間、俺は真面目に勉強をした事が一度も無かった俺は、抜き打ちであろうとなかろうと真剣にテストに取り組むことは無かった。


 昨日未来ノートに表示された、現代文と思われる小テストの問題。

 学力テストですでに習ってはいないが古文のものと思われる問題に先に触れていた。

 『国語総合』のカルキュラム、平安高校の要項を確認すると『現代文』と『古文』の2つの科目に大別されていた。


 昨日未来ノートに出た問題は間違いなく、いつかは実施される現代文の授業の小テストだと俺には分かっていた。


 ふと。

 窓側の席に座る茶髪のクラスメイトに目がいく。


 俺の事を馬鹿にする茶髪のあの子。

 一見校則破りの奇抜なあの子も、俺から言わせたら真面目に努力する模範的な学生だ。


 昨日図書館前で鉢合わせになった時、親睦会に行かない理由を彼女はさもあっさりと答えた。

 俺は彼女の考えに共感した。


 そして彼女の方が普通の人間であり、俺のやっている事の方が異常な行動だと自覚する。

 未来の問題を予知できない彼女が、どんな勉強をしているのか俺には想像もつかない。


 未来の問題を未来ノートによって知る事が出来る俺は、ただ作業として模範解答を図書館で調べる続けた。


 俺の方が異常。

 彼女が普通。


 外見なんか関係ない。

 俺と言う人間こそ、このS2クラスの中で異質な存在だ。


 未来ノートが俺に見せた未来は、ものの見事にすべて的中してきた。

 高校生活をスタートさせる特別進学部の生徒たちに、1限目から抜き打ちのテストが襲い掛かる。


 これは学校の策略なのかとすら感じる。

 お前たちには安息の時は無い。


 嫌ならサボれば良い。

 特別進学部から、総合普通科に転落するだけ。


 俺は全力で予習してテストに臨み続けなければいけない。

 1限目、現代文の小テストが実施される。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ