24.「おぼろ月夜」
(カタカタカタカタ……)
4月。
夜空に春の大曲線。
北斗七星が夜空に見える夜。
夜の平安高校。
職員室。
すべての生徒はすでに下校したこの時間。
総合普通科のすべての教師は、職場をあとにしていた。
対して特別進学部の教師たち、S1クラス、S2クラス、SAクラスの学力テストの結果集計作業に追われる。
急ピッチでの作業が続き、まもなくその集計結果が判明する直前。
パソコンに向かって、最後の1人の生徒。
その生徒の学力テストの成績結果データを打ち込む先生の姿。
「これは……」
「どうされました藤原先生?」
「叶先生、これを」
「はい……あら、これはヒドいですね。入試の成績は?」
藤原宣孝。
S2クラス担任教師。
そのS2の担任教師の左隣の席。
上品な物言い。
流れるような綺麗な髪。
白いスーツを着た大人の女性。
デスクが隣同士のS1クラス担任、叶月夜。
「どうされました叶先生?」
「枕先生、藤原先生のクラスの生徒でおかしな成績を取る子が1人いまして」
「どの子ですかな?……ほう~これは興味深い。中学は……あそこの生徒ですか。藤原先生、中学校から送られてきた彼の成績を拝見しても宜しいでしょうか?」
「もちろんです」
SAクラス担任の枕桑志。
S2クラス担当、藤原先生のパソコンの前に3人が集まる。
枕先生の席は、藤原先生の右隣のデスク。
「これは!?」
「う~む」
「ふむ、なるほど」
「3人ともどうされました?」
藤原先生の向かいに座る日本史担当の先生。
異変に気付き、席を立ち3人に話しかける。
「江頭先生、先生のご意見をお伺いしても宜しいでしょうか?」
「どれ」
江頭中将、日本史を担当。
S1クラス担任叶月夜、S2クラス藤原宣孝、SAクラス担任枕桑志先生が集まる席に移動する。
「入試で不正行為は不可能です。手荷物検査はすべての受験者に徹底しておりました」
「彼の中学生時代の成績では、我が平安高校の入試問題で正答率9割以上を解答するのは不可能です」
「では」
「替え玉……ですかな?」
「ちょっと待っていただけますかな」
「藤原先生」
枕桑志先生、江頭中将先生の会話に割って入る藤原宣孝先生。
その様子を見守る叶月夜。
「私は私の生徒を信じたいと思います」
「藤原先生の言う通りです。学力テストのこの結果では疑いは致し方ありませんが、結論を出すにはあまりにも時期尚早です」
「なるほど。叶先生がそうおっしゃるなら」
「確かに。ただ、来月の中間テストの如何によっては、彼に直接事情を聴かざるを得ませんなこれは」
パソコンの画面には、中学生時代の全成績が、藤原宣孝先生のパソコンに表示されている。
その生徒の中学3年間の成績は、クラスの平均以下。
叶月夜先生のデスクの向かいに座る、金色に輝く綺麗な髪の女性に声を出す
『ローズ先生』
「Yes,Miss」
平安高校、特別進学部『コミュニケーション英語Ⅰ』を担当するネイティブ英語教員。
ローズ・ブラウン先生。
叶月夜先生が、流暢な英語でローズ先生に話しかける。
『明日S2クラスで小テストを実施される予定でしたよね?』
『はい。抜き打ちでリスニングの簡単な小テストを実施します』
『彼がどの程度リスニングが出来るのか、明日授業が終わりましたら教えていただけますか?』
「Yes,Miss」
星空が夜空に輝く、夜の平安高校。
しばらくすると職員室の明かりが消える。
学力テストの結果集計作業を終えた講師たちが、次々と高校を後にしていった。




