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22.「一匹オオカミ」

 太陽は昨日行われた野球部の入部テスト。

 その結果を今日聞かされるはず。


 太陽にとって、俺が平安高校の合格発表を迎えた日と同じ気持ちでいるはず。

 俺が行ったところでどうこうなるものではないが、結果が良くてもダメでも、あいつの大事な時には俺も会って声をかけてやりたい。


 夕方まで時間がある事、遊んでいる暇はない。

 このままじゃ、ここにいられなくなる。

 もうまったく余裕がなくなってきた。


 未来ノートにふたたび小テストの問題と思われる記載が浮かび上がっていた。

 どうして突然問題がまた?

 今はそんな事どうでもいい。


 学力テストの点数は、満点で500点。

 小テストも学年成績の2割に影響する。

 絶対に落とすわけにはいかない。


 これ以上クラスメイトに差を開けられれば、もう学年末どころか、2学期の9月にも勝負がついてしまいかねない。

 さらに怯える、赤点足切り降格の危機。

 次に行われる5月の中間テストでも赤点なら、翌月6月から自動的に総合普通科に転落する。


 平安高校特別進学部に、たった3カ月の在籍で終わった惨めな生徒で終わってしまう。

 まだ終われない。

 俺はここで終わりたくない。


 そのためには、実力のない俺は未来ノートに頼るしか方法がない。

 調べるしかない、小テストの問題の答えを。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






 図書館の入口までたどり着く。

 未来ノートの未来の問題の模範解答作り、もはや作業だ。

 とても勉強とは言えない。


 よく言って予習。

 そう、全力の予習。

 まったく余裕のない俺はこの予習に全力を尽くすしか、ここで生き残るすべは他にない。


 図書館までの道のり。

 綺麗な校舎、綺麗な渡り廊下。


 校舎の1階、3年生の入る第二校舎側には自動販売機も設置されている。

 中学校には無かった学校内の自動販売機。

 とても新鮮な気持ちになる。

 やっぱり俺は、平安高校にいるんだなって気持ちになる。

 渡り廊下を歩き、第二校舎2階の図書館を目指す。



「今日は昨日の入部テストの結果が分かるんだって~」

「見た見たわたしも。あの先頭走ってた男の子2人、すっごくカッコよかったよね~」

「でしょ~」



 誰とも知らない女子生徒の会話。

 野球部の入部テストの話かな?

 余裕のない俺には関係のない話。

 噂話のたぐいは、学校内にすぐに広がっていくらしい。


 図書館に向かう途中、あの『源氏物語』大好き美少女の事を思い出す。

 成瀬真弓姉さんに教えてもらった。

 名前は神宮司葵(じんぐうじあおい)が本名らしい。

 姉も同じ苗字のはず。


 姉は神宮司楓(じんぐうじかえで)

 どちらも超がつく美人の女の子。


 まさか成瀬の姉さん、成瀬真弓(なるせまゆみ)にまで出会うとは、今日の俺は運が悪い。

 野球部のマネージャーやってるって言ってたな。


 まだ高校で入る部活を決めていないと言っていた妹の成瀬結衣。

 もしかすると、姉と同じ部活に入る事も十分ありえるだろう。


 そうなれば太陽とはお似合いのカップル。

 エースとマネージャー、これ以上ない組合せ……か。

 本当は太陽も成瀬の事が好きで、俺に遠慮して成瀬の告白を断っただけの話。


 時間が経てばあの2人はいずれくっつくだろう。

 すでに成瀬の気持ちは知っている。

 俺は勝手にそう思ってる。


 ボーっと考えていると、いつの間にか図書館の前まで到着。

 たしか図書館に入るのに、学生証をピッとタッチしないとゲート開かないんだったな。

 えっと、学生証、学生証っと。



「あっ、神宮司泣かせたバカな男いた」

「ん?なんだよお前……どっかで見たな」

「同じクラスだっつうの」



 随分と口が悪い女だな。

 髪の毛茶色いし、校則違反だろ?

 ズルして未来ノートの未来の問題の解答を先に調べようとしている俺が、平安高校の校則だけは厳守しようとする。


 図書館で本の試し読みは2冊まで。

 この校則を守ったせいで、俺はこの子の言ってる神宮司葵と出会ってしまった。



「同じクラス……あれ?お前は親睦会行かないのか?」

「行くわけないっしょ。つるむとか、マジだるいし、そんな事してる場合じゃないし」



 一匹オオカミ的な女がS2クラスに混ざっていたらしい。

 遊びを知らない他のガリ勉女子たちは、今頃人生初の親睦会で盛り上がっているに違いない。



「あんた、あんな好き勝手言ってて平気なわけ?」

「うるさいな。俺が何かバカな事でも言ったか?」

「そうよ、バカじゃん」



 俺をストレートに馬鹿にしてくる。

 一体こいつは何者なんだ?



「S2にいるあんたと私。S1ともうすでに差付いてんの。学力テスト、あんた出来たわけ?」

「……全然」

「話になんないっしょ」



 そう言い捨てて彼女は先に図書館の中に消えて行った。

 S1とは差がついている。

 一体どういう意味だ?


 親睦会に行ってる場合じゃない。

 もうすでに差が付いてる、か。

 あの子の言う通りだ。


 ちょっとチャラい感じだけど、結構考えは真面目だなあの子。

 その証拠に彼女が向かった先は、親睦会ボックスではなく、俺と同じ図書館だった。


 図書館の自習席で明日にも行われるかも知れない、現代文と英語の小テストの問題を調べ始める。

 模範解答が無い未来ノート。


 さらに英語は始末が悪い。

 5行程度の英語の文書からの出題。

 問題をとりあえず和訳するため辞書を調べる。


 登場人物マイクが将来なりたいプロスポーツプレイヤーを答える、みたいな。

 正答はバスケットボール、サッカー、野球のうちどれか1つ。


 俺の適当な和訳。

 ややこしいのが、もう1人の登場人物であるローラが会話で何かスポーツの話をしている。

 マイクが将来なりたいプロスポーツプレイヤーを答えたいのに、ローラが好きなスポーツが混じってる。

 どっちだ結局?

 答えはどれだ?

 分からない、和訳して辞書で調べて結局もっと混乱してしまった。


 俺の英語はそれほどヒドイ。

 どうするこんなレベルで?

 やっていけるのか1年間?

 しかも未来ノートが映し出す、未来の問題を出題前日から調べてこの有り様。


 この未来ノートは万能じゃない。

 今さらながら、なんで答えが載ってない?


 この前古文で藍色の答えが浮かび上がったが、今日はそうした現象は起こらない。

 今日映し出された未来ノートの未来の問題には、色のついた答えらしき文字は浮かぶことはなかった。

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