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170.第18章最終話「虹色の未来」

 時刻は18時、平安祭はあっという間に終了した。 

 保健室で太陽と数馬と別れてすぐ、俺は立ち上がれる程度まで回復。

 外部から来てる保健師の先生にも迷惑かけたくなかったし、先生に早めに休んだ方が良いと促され、帰れるうちにすぐに家に帰る事にした。


 パンダでいるのも楽ではなかったが、パンダストラップだけでも完売出来て本当に良かった。

 昼から何も食べていないが、疲れたので今日はもう横になって寝る事にする。

 家の布団で横になったタイミングで、玄関の方から何やら音が聞こえてくる。

 


(トントン……ガチャ!)



「失礼しま~す。お兄ちゃん大丈夫!?」

「紫穂か、どうした?」

「どうしたじゃないよ!スマホいくら電話してもラインしても繋がらなかったから心配してたんだよ~どこにいるかも分からなかったし~」

「悪い紫穂、パンダになっててスマホ全然見てなかった」

「意味分かんないしダメだよ~ちゃんと連絡してよ~」



 昼間から俺のスマホが鳴り続いていたらしい、紫穂がわざわざ心配して家まで来てくれた。

 朝、中学校の友達と一緒に来た時だけ会い、日中連絡できず仕舞いのダメな兄貴。

 朝からパンダストラップの事で頭が一杯で紫穂をほったらかし、悪い事をしてしまった。



「なあ紫穂、お兄ちゃんお腹空いてきたんだけど……」

「すぐに用意するからそこで寝てなさい、命令です」

「ら、ラジャー」



 妹に甘える事にする。

 こういう病気とかの時独り身はやっぱしキツイ、紫穂が来てくれて本当助かる。



(ガチャ!)



「キャーー!冷蔵庫空っぽ、大変だわ!」



 大声で叫ぶなってそれ。



「お兄ちゃん寝てて。わたし、なんか買ってくる!」

「紫穂、俺の財布そこに」

「動くなバカ兄貴、それくらいのお金持ってるから」

「ら、ラジャー……」



 紫穂が家を飛び出して行く。

 部屋に1人になる、紫穂がいないととても静かな部屋。



(トントン)



 ドアをノックする音、紫穂のやつもう戻ってきたのか?

 それにしては早すぎる。



(「鍵開いてる。美雪、早く入っちゃいなよ」)

(「押さないの沙羅」)



 俺の家の玄関前で女の子の声がする、遠くてほとんど聞き取れない。



(カチャ……)



「失礼します。高木さんいますか?」

「えっ?」

「ああ、大変!?」





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





(ガチャ!)



「キャ!?冷蔵庫何も入って無いわ!」

「信じられない~」



 俺の家に来る女の子は次々と冷蔵庫を開けては酷評していく。



「なんでこんないい加減な人なのも~」

「タッキーらしいっちゃらしいわ……」


 

 冷蔵庫をのぞいて驚いているのは一ノ瀬美雪と明石沙羅。

 空っぽの冷蔵庫に絶望する2人の女子、俺は女の子を悲しませるのが得意な男らしい。


 2人には挨拶しないで帰ったし気になって寄ってくれたのか?

 なんでこの2人が俺の家知ってんるんだろ……。

 一回布団に入ると、体がしんどくてもう起き上がれない。



(ピタッ)



「なっ」

「あなた、こんなに熱出てるじゃない」

「タッキー大丈夫?」



 いきなり俺のおでこに手を当ててくる一ノ瀬。



「わたし、何か買ってきます」

「わたしが行くから美雪はここに残ってなよ~」

「そんなわけにはまいりません」

「だ、大丈夫。妹が今買いに行ってる」

「え?」

「妹さん?」



 2人は少し静かになる、俺が布団に横になってるのをビックリしている様子。

 部屋の中を少しキョロキョロ、男の家にいきなり上がってくるとか、何考えてんだこの子たち?


 知らない仲ではないからいるのは別に構わないけど、もう俺は動けない。

 洗面所の方から何やら水の音が聞こえる。

 

 しばらくすると一ノ瀬が俺の寝ているところに戻ってきた。

 水で濡らしたタオル、俺の額にそっと乗せてくれる。



「朝日さんと結城さんから聞きました。あなた、あんな長い時間頑張ってたなんて知りませんでした」



 俺は布団に横になったまま話を聞く、なんか半泣きしてるし。

 明石は終始、一ノ瀬が話すのを隣でそっと見守る。



「ごめんなさい」

「えっ?なんで謝るんだよ」

「ずっとブースにいたから、そんな無茶してるなんて気づかなくて」

「別にたいした事してませんよ、頑張ったのはそちらです」

「わたしが言いたいのは、なんで私なんかのためにそこまでしてくれたのかって」

「美雪」

「……ごめんなさい」



 一ノ瀬が興奮したように話し始めると、それを制止する明石。



「そんなにみんなが心配してくれてるなんて知らなくて、黙って帰ってすいませんでした」

「そうだよタッキー。朝日君たちに聞いてビックリして保健室みんなで行ったら、もういなくなってて大騒ぎだったんだからね」

「先生に帰って良いって言われたから帰ったんだよ、ちゃんと南部長に大丈夫って」

「たっだいま~~……知らない女……」



(バサッ)



「わ、わたし、帰りま~す!」

「ちょっと待て紫穂!」



 帰ろうとする紫穂を慌てて引き留めようとしていると、次々と俺の家に来訪者がやってくる。



「失礼します」

「うっーす」

「あっ!シュドウ君いた!」



 成瀬結衣、岬れな、神宮司葵が揃って入ってくる。



「一ノ瀬さんに明石さん……紫穂ちゃんも来てたんだ。高木君、きっと冷蔵庫空っぽだと思って買ってきちゃった」

「またいつでも食べればいいっしょ。先にドロンしやがって、相変わらず連絡しないし」

「しょうがないだろ、パンダになってたからスマホ持てなかったんだよ」



 朝日太陽と結城数馬が続く。



「おいシュドウ、全然大丈夫じゃないだろお前」

「守道君をやっぱり1人にするんじゃなかった」

「お前らも来たのかよ、俺がブースに戻れって言ったの」



 なんでみんな俺の家来るんだよ。


 

「シュドウ君、お熱なの?」

「お前来るなって……ちょ!?」



(ピタッ)



 神宮寺葵が自分のおデコと俺のおデコくっつけきた。

 俺もみんなも絶句。



「お熱……熱いよシュドウ君!どんどん熱くなってる!」

「お前のせいだろ!離れろ光源氏!」



(ガチャ!)



「失礼しま~す……みんないる……高木と葵ちゃん……なにチューしてんだ貴様!」

「もううるさいからみんな帰れって!」


 

 真弓姉さんに楓先輩、南部長に生徒会長たちまで家に押しかけて大騒ぎ。

 なんなんだよみんな、揃いも揃って。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





 ようやく家が静かになり、自宅アパートには俺の家族だけが残った。



「やっぱりわたし帰った方が良かったかな?」

「俺はお前だけ居てくれればそれで十分だよ紫穂」

「ウソばっかり~本当は詩織お姉ちゃんと2人きりが良かったんでしょ~」



(トントントントン)



 台所で料理を作ってくれる詩織姉さんの後ろ姿、詩織姉さんが家に来るのは夏休みの時以来。

 俺のそばに居てくれる家族の存在がありがたい。



「はい守道さん」

「ありがとうございます」

「気分はどう?」

「大丈夫です」

「良かった」



 俺のために夕飯を作ってくれた詩織姉さん、美味しそうな手料理をありがたくいただく事にする。

 夕方俺の家にたくさんの人が集まり、布団で寝ている俺を見て家族以外全員帰らせたのは詩織姉さんの一声だった。

 


「今日はもう帰りましょう紫穂ちゃん」

「もう帰っちゃうのお姉ちゃん?」



 夕飯を作り終えて、紫穂と一緒に実家へと帰るようだ。

 先に詩織姉さんがアパートを出ると、別れ際に妹の紫穂が俺のそばに寄ってくる。



「明日また来るねお兄ちゃん」

「もう遅いから早く帰れよ紫穂、今日はありがとう」

「お姉ちゃんも泊っていけば良いのに~」

「そんなわけいかないだろ」



 笑顔で手を振り、妹の紫穂も玄関の外へと消えて行った。

 

 2人が帰り食事を終えて手持無沙汰、夜寝るまでまだ時間がある。

 来週からは中間テストを控えている、ふと藍色の未来ノートが気になる、今日は朝からノートを見る暇が無かった。


 藍色の未来ノートを手にする、昨日までの相棒はどのページを開いても白紙のままだった。

 未来ノートの1ページ目を開く。


 ……このタイミングで、なぜ、どうしてこうなる?


 未来ノートの1ページ目、どう見ても世界史の問題。

 世界史の未来の問題の設問、2ページ目、3ページ目にも続く、設問の量が小テストの比じゃない。



『インダス文明』『アーリア人』『カースト制度』



 これは俺が未来で受けるはずの世界史の設問に違いない。

 そればかりか藍色の文字で答えと思われるものまでハッキリと浮かび上がっていた、まるで私が答えだと言っているかのように。


 世界史の問題の次は……これは明らかに数学の問題。

 数学の問題が4ページ目から映し出される、円順列、余事象、乗法定理、すべて直近の授業範囲。

 間違いない、世界史から続く数学のこの問題は間違いなく。



『中間テストの未来の問題』



 来週から実施される中間テストの問題に違いない。

 いつも気まぐれな相棒、昨日までは浮かび上がっていなかった未来の問題が突然藍色の未来ノートに映し出される。


 藍色の未来ノート、1ページ目の世界史から続き、4ページ目の数学は問題だけが浮かび上がる。

 続く科目は現代文、化学、英語、日本史。

 問題文と合わせて、答えも緑色、赤色、紫色、青色に浮かび上がっている。


 来週の中間テストの日程を調べる、世界史、数学、現代文、化学の順番。

 10科目、1000点満点、数学だけなぜ問題だけしか映らない?

 

 この藍色の未来ノート、気まぐれにも程がある。

 七色に光る虹のように、色々な色で俺に答えまで見せてくる。 

 最後の教科、古文の問題の設問には、ハッキリとした色で、藍色の答えが浮かび上がっていた。





第18章<わらの中の七面鳥> ~完~



【ここまでの登場人物】



【主人公とその家族】



高木守道たかぎもりみち

 平安高校S2クラスに所属。ある事がきっかけで未来に出題される問題が浮かび上がる不思議なノートを手に入れる。パンダ研究部所属。生徒会監査人。


高木紫穂たかぎしほ

 主人公の実の妹。ある理由から主人公と別居して暮らすことになる。兄を慕う心優しい妹。


蓮見詩織はすみしおり

 平安高校特別進学部に通う2年生。平安高校生徒会、生徒会副会長。主人公の父、その再婚を予定する、ままははの一人娘。




【平安高校1年生 特別進学部SAクラス】


朝日太陽あさひたいよう

 主人公の大親友。小学校時代からの幼馴染。平安高校特別進学部SAクラス1年生。スポーツ万能、成績優秀。野球部に所属。





【平安高校1年生 特別進学部S2クラス】


結城数馬ゆうきかずま

 平安高校特別進学部S2クラス1年生。野球部所属。パンダ研究部所属。生徒会監査人。主人公のクラスメイト。


岬れな(みさきれな)

 平安高校特別進学部S2クラス1年生。パンダ研究部所属。主人公のクラスメイト。バイト先の同僚。


氏家翔馬うじいえしょうま

 平安高校特別進学部S2クラス1年生。サッカー部所属。主人公のクラスメイト。


末摘花すえつむはな

 平安高校特別進学部S2クラス1年生。パンダ研究部所属。眼鏡女子。主人公のクラスメイト。






【平安高校1年生 特別進学部S1クラス】


神宮司葵じんぐうじあおい

 主人公と図書館で偶然知り合う。平安高校1年生、S1クラスに所属。『源氏物語』をこよなく愛する謎の美少女。美術部所属、パンダ研究部所属。


成瀬結衣なるせゆい

 主人公、朝日とは小学校時代からの幼馴染。平安高校特別進学部S1クラス1年生。秀才かつ学年でトップクラスの成績を誇る。美術部所属。





【平安高校 生徒会メンバー】


叶美香かのうみか

 平安高校3年生。平安高校、生徒会本部役員選挙にて生徒会長に再選される。


右京郁人うきょういくと

 平安高校特別進学部S1クラス1年生。生徒会メンバー。


《一ノ瀬美雪いちのせみゆき

 平安高校特別進学部S1クラス1年生。平安高校生徒会、生徒会副会長に抜擢される。


明石沙羅あかしさら

 平安高校特別進学部S1クラス1年生。生徒会メンバー。




【平安高校 上級生】


神宮司楓じんぐうじかえで

 現代に現れた大和撫子。平安高校3年生。誰もが憧れる絶対的美少女。野球部マネージャー。神宮司葵の姉。


成瀬真弓なるせまゆみ

 平安高校3年生。成瀬結衣の2つ上のお姉さん。主人公を小学生の頃から実の弟のように扱う。しっかりもののお姉さん。野球部マネージャー。


南夕子みなみゆうこ

 平安高校3年生。パンダ研究部部長。


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