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164.「学区運動会」

 大阪で文化祭に向けた生徒会活動を見守り現地で解散、電車で戻り京都駅で数馬と別れる。

 夕方自宅アパートに到着と部屋の明かりがついていた、誰か家に来てるのかな?

 玄関の扉を開けると美味しそうな匂いが漂ってくる、台所に立っていたのは妹の紫穂だった。



「お帰りなさいませお兄様~」

「紫穂、来てたのか」

「ちゃんと来るって連絡してたでしょ~」

「あっ本当だ」

「ちゃんとスマホ見てよ~」

「今日は忙しくてそれどころじゃ無かったんだって」

「なにかあったの?」



 スマホのラインに妹の紫穂から今日来ると連絡が来ていた。

 昼間は大阪で生徒会に捕まってとても確認している余裕が無かった。



「お兄ちゃん、どうしたのその傷?」

「えっ?ああこれか、ちょっと転んだ」

「絶対ウソ!どうしたのそれ?」



 紫穂が俺の額の傷を心配してくれる。

 鏡で見ると多少肌の色が青くなってる程度、もう大分治ってきている。

 それにしても美味しそうな良い匂い、シェフの料理が気になるところ。



「紫穂、今日なに作ってるの?」

「肉豆腐、好きでしょ?」

「もち、サンキュー紫穂。お前、最近女子力付いてきたな」

「え~やだ~今のポイント高いかも」



 バラ肉と豆腐を麺つゆで煮た料理。

 肉豆腐は紫穂の18番、ご飯と最高に合う一品。

 わざわざ家に来てくれた紫穂と居間で談笑する、話題は文化祭の話。



「賞取れたのか紫穂、凄いじゃん」

「えへへ~」



 中学2年生の紫穂、美術部で応募したコンクールに入選したと嬉しい報告。

 春の桜並木、平安高校の正門から描いた絵がコンクールで入選したらしい。



「春の平安高校の桜並木、今度文化祭で展示するの」

「見に行くよ絶対」

「やった!成瀬先輩も一緒に来るかな?」

「成瀬か、分かった誘ってみるよ」



 妹の紫穂にとってS1クラスの成瀬結衣は美術部の先輩と後輩の関係。

 平安高校の特別進学部にうちの中学校トップの成績で推薦入学した成瀬は、紫穂にとって憧れの先輩。



「紫穂、来月うちの高校も文化祭あるから見に来るか?」

「行く行く~お兄ちゃんの部活は?」

「パンダ」

「なにするのそれ?」

「それは俺にも良く分からん」



 来月の文化祭、平安祭で我がパンダ研究部の研究の成果が展示される事は間違いない。

 南部長の、南部長による、南部長のための文化祭。

 旧図書館の部室はすでにパンダの展示資料で溢れている、校外から訪れる一般客が見ても飽きさせない豊富な展示資料で埋め尽くされている。


 10月の文化祭、お互い行き会う約束を交わす。

 続いて明日日曜日の話題、明日控える大きな資格試験。



「英語能力検定、お兄様は大丈夫?」

「もち、8月で対策もバッチリ。余裕だって紫穂」

「詩織お姉ちゃんのおかげでしょ~毎日ここに来てたの私知ってるんだからね~」

「そうだよ、姉さんに毎日勉強教えてもらってた」

「怪しい~絶対イチャイチャしてたんでしょ~」

「毎日ムチだって、ムチ」



 7月終業式が終わってから毎日詩織姉さんがこのアパートを訪ねてくれた。

 真夏の勉強合宿、英語能力検定3級の対策も詩織姉さんとの夏の思い出の1ページ。

 妹の紫穂も家で姉さんから英語の勉強を教えてもらっていたようだ、頭の良い人は自分の勉強もしながら人に勉強を教える力があるらしい。


 夕方日も暮れてきたので、実家まで紫穂を送っていく事にする。

 紫穂と一緒に歩いていると、町内会の掲示板に目が留まる。



『学区運動会のお知らせ』



「あっそうだ。お兄ちゃん、はいこれ」

「学区運動会のプログラムじゃん」

「明日の試験お昼からでしょ?友達も来るから午前中の部だけ出ようと思ってて、お兄ちゃんも一緒に出ない?」

「そうだな、太陽に聞いてみる」



 学区運動会、町内会同士で競い合う秋毎年恒例の行事。

 幼児の部から成人の部まで家族で参加する秋の運動会、景品もそこそこ良い物が出る。



「余裕あるな紫穂、直前まで試験対策しないのか?」

「出題範囲多いし、いまさら徹夜とかしても意味無いんだよお兄ちゃん」

「姉さんから聞いてるよ、ちゃんと睡眠取らないと脳みそ働かないって話だろ」

「分かってるなら宜しい、今日はちゃんと寝て下さい」

「了解」



 実家の近くまで来ると、家の前に2人の男女の姿が見えた。

 1人は詩織姉さん、もう1人は右京郁人の姿。



「知らない男……」

「悪い紫穂、また明日」

「お兄ちゃん」

「明日、学区運動会で待ち合わせな」



 大阪の帰り、生徒会の2人。

 右京郁人が詩織姉さんを家まで送っても不思議じゃない。

 不思議じゃないけど、詩織姉さんが他の男と一緒にいる姿を見るだけで、この嫌な気持ちは一体何なのだろうか。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




(パン!パン!パン)



「ただいまより学区運動会を開催致します」

「最初のプログラムは――」



 日曜日、晴天、待ち合わせをしていた妹の紫穂と合流する。

 母校の小学校で行われる学区運動会、グラウンドにはたくさんの家族が集まっていた。



(「わーー!」)

(「良いぞー!」)



「ようシュドウ、おはようさん」

「おはようさん太陽」

「朝日先輩おはようございます~」

「紫穂ちゃん、おはようさん」



 紫穂も太陽も顔なじみ、体操着を来た太陽は朝からやる気満々の様子。

 午後から試験を控える俺は基本場所取りをしつつ、紫穂と太陽の応援に回るつもり。



「どうだシュドウ、午後のパン食い競争一緒に出ないか?パン研だろお前?」

「そんな練習うちの部しないって。午後はパス、紫穂と英語能力検定受けに行くんだよ」

「それならしょうがねえな」

「お兄ちゃん、午前の玉運び一緒に出ようよ」

「え~」

「シュドウ、勝ったら無料の洗剤貰えるぞ」

「無料?じゃあ出る」

「も~お兄ちゃんったら~」

「ははは」



 午前中の競技、一般の部で紫穂と一緒に玉運びにエントリー、紫穂はこの後中学生の部で100m走にも出場する。

 プログラムが進み、中学生の部の順番がやってくる。



「わーー!!」

「紫穂ーー!!」



 100m走を走る紫穂の雄姿に激しく感動。

 紫穂は1位でゴール、兄と違い運動神経抜群の妹がうちの町内会の順位を押し上げる。

 町内会の対抗戦、エースランナーがもう1人。



「じゃあシュドウ、行ってくる」

「頼むよ太陽、今年も宜しく」

「おう」



 同じ町内会の朝日太陽は、昔からうちの町内会のエースランナー。

 高校生も出場できる一般の部、現役高校球児の太陽が町内会を代表して出場する。

 太陽を見送り英語能力検定の過去問に目を通していると、背中から忍び寄る野獣の影。



「よう高木~」



(バシッ!)



「痛てぇ!?な、なにしてんすか真弓姉さん!」

「めんごめんご~」

「ちょっとお姉ちゃん、高木君叩かないの」

「成瀬」



 太陽を見送るや、野獣に背中から襲われる。

 成瀬姉妹、同じ町内会なので家族で学区運動会に参加しているようだ。

 先程1位でフィニッシュした妹の紫穂が俺のいる席に戻ってくる。



「成瀬先輩~」

「紫穂ちゃん1位だったね、おめでとう」

「えへへ~ありがとうございます~」

「高木、相変わらず紫穂ちゃんは優秀ね」

「その俺と違ってみたいな言い方やめてもらえませんか?」

「分かってる~」



 肉壁ゴールキーパーの適正はあった俺だが、運動会となると話は別。

 紫穂とこの後の玉運びレースに出場すると伝えると、妹の足を引っ張らないよう真弓姉さんから言われる始末。

 紫穂と成瀬は中学校の文化祭の話をする、どうやら成瀬も中学時代に所属した美術部にОBとして訪問するようだ。



「ちょっと高木」

「なんです真弓姉さん?」



 真弓姉さんに呼ばれ少し離れて立ち話、近くで紫穂と成瀬が2人で楽しそうに会話をしている。



「ゆいちゃん、最近学校でどんな感じ?」

「成瀬です?最近あまり会ってなくて、授業も美術以外被りませんし」

「そうなんだ……」

「どうされました?」

「ちょっと気になってね」



 9月授業が再開されて以来、選択科目が被らない成瀬とはほとんど顔を合わせる事が無くなっていた。

 小学校のグラウンドに目をやると、一般の部で出場するランナーがスタンバイを始めている。

 そのランナーの中に朝日太陽の姿。

 


「朝日君の番ね」

「あいつは毎年1位しか取りませんからね」

「楓とも仲良さそうだし、調子良さそうね朝日君」

「知ってたんですか楓先輩との仲?」

「ゆいちゃんの前ではそれ言わない」

「わ、分かってますって」


 

 楓先輩の親友であり、同時に太陽の事が好きだった成瀬結衣の姉でもある真弓姉さん。

 太陽は神宮司楓先輩との約束を果たすために、来年の甲子園出場に向けて野球の練習にまい進する。

 楓先輩と同じ野球部のマネージャーである3年生の成瀬真弓姉さんは、最近の2人の関係を知っているような様子。

 



「S1目指してんでしょあんた?」

「なんでそれ知ってるんですか!?」

「楓から聞いてるし、葵ちゃんとも仲が宜しいようで」

「そんなんじゃありませんって」



(パン!)

(「わーー!!」)



 一般の部の100m走がスタート、大人も混ざる男子たちの中で、朝日太陽がすぐに抜け出しグングン加速して1位でフィニッシュする。

 グラウンドに集まる町内会の家族から大歓声、去年に続いて今年も1位でゴールした太陽に拍手が送られる。


 歓声が止む頃、真弓姉さんと一緒に近くで太陽の走る姿を紫穂と見ていた成瀬結衣に視線を向ける。

 成瀬は右手を握り胸に当て、太陽の姿をとても切なそうに見つめていた。



「ゆいちゃんも朝日君も、いつまでも子供のままじゃ無いって事ね」

「なんですそれ?」

「あんたの事頼りにしてるんだから、ゆいちゃんの事お願いね」

「俺なんかよりも成瀬は何倍もしっかりしてますよ」

「そうね、そうだと良いんだけど」

「えっ?」



 真弓姉さんが気になる事を言い残し、近くにいた成瀬に声をかける。

 しばらくすると成瀬姉妹は、太陽が戻ってくるのと入れ替わるようにその場から離れて行った。



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