158.「重大インシデント」
9月2日、本格的な授業は今日からスタート。
S2のクラスメイト達が久しぶりの授業に悶絶、ガリ勉男子たちの体力が尽きかけていた。
「やっと6限目終わったぜ~」
「あと1つか~マジ疲れた~」
7限目の授業が間もなく始まる、秋の授業は終わらない。
夏休みの間ひたすら勉強を続けていた俺にとっては、あっという間の時間に感じた。
勉強合宿とも呼べる1日10時間を超える勉強の日々、この夏最も自信がついた科目は英語。
成瀬や神宮司ほどでは無いにせよ、詩織姉さんに鍛えられた英語力は俺の大きな武器。
英語能力検定3級の試験対策もすでに出来ている、来月の中間テストで実力を発揮したいところ。
7限目の現代文の授業が始まる。
現代文の担当教師、藤原宣孝先生は引退。
今日登壇する現代文の先生は、俺がこの高校で初めて見る先生。
「橘則光です、今日から宜しくお願いします」
とても真面目そうな先生。
授業が始まるのかと思いきや、特別進学部に安息の時は無かった。
「これよりテストを行います」
「え~」
この7限目にしてまたテスト、しかも現代文に関しては相棒の告知が無かった。
テスト用紙が配られる、いつも疑問に思うが、藍色の未来ノートに未来の問題が出る時と出ない時の差が未だに分からない。
世界史のテスト問題は先週以前、8月の終わりには未来ノートに映し出されていた。
昨日の夜も相棒の1ページ目には目を通しているが、どういうわけか今俺の机に置かれた設問が浮かび上がる事は無かった。
現代文の小テストの問題を確認する、四字熟語の問題。
いける、いけるぞ今の俺なら。
『冒頭陳述 証拠隠滅 責任転嫁 宣戦布告』
よし、バッチリ。
夏に演習を繰り返したのは、何も英語だけではない。
現代文に古文、果ては漢字技能検定3級の対策もすでに終了している。
今の俺は漢字博士、数馬ほどで無いにせよこの程度の四字熟語で引けを取らない。
ただのバカだった4月の俺とは違う、国語が俺の得意科目になりつつあった。
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「今日もあるのか生徒会の会議~」
「臨時らしいよ守道君」
今日の授業が終了、俺と数馬の2人は今生徒会室へ向かっている。
予定に無かった臨時の会議を結城数馬から告げられる。
「会議多すぎだって数馬、生徒会監査人としてまず無駄な会議から指摘しようぜ」
「生徒会長への発言は君に任せるよ」
「言えるわけないだろ」
叶美香生徒会長にビビりまくる監査人、文句を言えば報復も必然、ミサイルがすぐに飛んでくる。
この平安高校の3年生はキャラの濃いメンツがそこら辺にうようよしている。
生徒会長に余計な一言は拷問部屋直行案件、ただでさえ蓮見副会長から夏休み期間中生活態度を監査され続けた俺。
「守道君、指摘されるような事は?」
「あるわけないだろ、誠意大将軍だぞ俺?」
絶対の自信で生徒会室の扉を開く。
清廉潔白、誠意大将軍の俺に指摘される隙は無い。
「来たわね」
獲物を捕らえた野獣の瞳、叶生徒会長のきらめく視線ににらまれる生徒会監査人。
生徒会室に入るなり、3年生、2期目に突入した叶生徒会長の圧倒的存在感を感じる。
すでに生徒会のメンバー全員集合、蓮見副会長は今日も可憐の一言。
「郁人、始めて頂戴」
「はい叶会長。これより平安高校生徒会の定例会を開催致します」
9月2日、臨時の生徒会定例会が開催される。
生徒会監査人である結城数馬と、数馬の右腕である俺も同席。
右京郁人、特別進学部S1クラスの1年生。
議事進行を任されているあたり、生徒会長からの信頼も厚いはず。
「本日の定例会の議題は、最近乱れ気味の平安高校の風紀に関してです」
風紀?そんなの乱れまくってるって。
俺の視界に副会長の蓮見詩織姉さん、連日の膝枕、夏の思い出。
クールマイシスター、詩織姉さんは生徒会室で俺と視線を合わさない。
「最近一部の生徒の間では、平安高校の生徒としてふさわしくない行動が多々見受けられます」
「それは由々しき事態ね」
今日の生徒会の定例会は風紀一色、男女交際に至るまで徹底した議論が行われる。
春の始業式から半年が経過、校内でイチャイチャするカップルが続出する由々しき事態。
校内にとどまらず、議題は8月の夏祭りにまで発展。
「先日の夏祭りにおきまして、僕と副会長2名、加えて明石沙羅4名で見回りを実施しました」
「ご苦労だったわね」
右京と詩織姉さんたちが夏祭りの見回り!?
遊びに行ってただけだろそれ。
「結果は?」
「会長のお考えよりもかなりヒドイ実態です」
「我が校から日本代表が選出されてる大事な時……早急に校内の風紀を正す必要があるわね」
「はい会長~」
「ちょっと明石さん、お口」
「ふふっ良い子ね。風紀の乱れは心の乱れ」
「う~ん……悪い子がいたらみんなで会長にチクれば良いんですね~」
「そういう事」
「明石さん、お口」
「は~い」
高校野球世界大会、U―18日本代表の4番に平安高校の選手が出場中。
連日正門前でテレビカメラが取材に来ている。
叶生徒会長、高校野球の世界大会が大阪で行われている大事な時期と判断。
生徒会による風紀委員会発足の稟議、結城数馬に顔を向ける叶生徒会長。
「生徒会監査人、なにか意見は?」
「大変素晴らしいお考えです」
「結構」
結城数馬監査人による適正意見を持って、生徒会内で風紀委員会が立ち上がる。
生徒会定例会終了、解散直後に数馬と小声で話す。
「おい数馬、良かったのか適正意見出して?」
「岬主将が大事な世界戦を戦ってる。平安高校の生徒が水を差すような事があってはいけないしね」
「祭りでダブルデートしてたお前が何言ってんだよ」
「あれは野球部の打合せさ」
「太陽と同じ事言ってんじゃないって」
S1の双子マネージャーとのダブルデートを目撃。
深夜の密会、太陽や楓先輩と同じ理由、野球部の打ち合わせでかわす結城数馬監査人。
「守道さん」
「ひっ」
「ちょっとこちらへ」
定例会終了直後、蓮見生徒会副会長から直々にお呼び出し。
1人生徒会室内にある応接フカフカソファに着座、詩織姉さんの後ろに秘書の右京が直立不動。
向かいに座る蓮見副会長に、どこからともなくお茶が配膳される。
(ズズッ)
「右京さん」
「はい蓮見副会長。これより臨時の風紀委員会を開催致します」
うっそだろ!?
生徒会副会長にそんな権限まであるのか?
「先日の夏祭りにおきまして、監査人による重大インシデントが発生しております」
「続けて」
なんだよ重大インシデントって!?
8月の夏祭り……野宮神社……はっ!?
『ここにいたんですね神宮司さん……』
『もう離れろって神宮司』
『嫌、離れるなって言った』
(ズズッ)
「守道さん」
「は、はい」
「そのケガは?」
「そ、その」
「最近、生活が乱れているのではありませんか?」
9月、生徒会室に吹き荒れる風紀の嵐。
風紀委員会の名のもとに、蓮見副会長から大目玉を食らう監査人の俺。
夏祭りの夜、野宮神社で迷子のパンダを発見、右京達と合流したところをすべてチクられる。




