155.「選択科目世界史」
始業式が終わり、校舎の屋上で太陽と別れた俺と数馬。
部活の会合、文化系のパンダ研究部に卒業2文字など無い。
第一校舎1階の旧図書館に入ると、部室にいる南部長の姿が見えてきた。
安定のパンダ観察中、今日は王子動物園のタンタンか、はたまた上野動物園のシャンシャンか。
「今日はどっちだろうね守道君」
「俺はタンタンだと思う」
「僕はシャンシャンだね」
俺は関西代表タンタンに投票、結城数馬は関東代表シャンシャンに投票。
パンダ研究部に突入、モニターに釘付けの南部長に挨拶。
「南部長、お疲れ様です」
「ご無沙汰しております」
「あ~適当にしてって」
「うっす」
「はい」
南部長が我が子のようにモニターを視聴中。
モニターにはクチャクチャと笹の葉を食べているパンダの姿。
「部長、その子誰です?」
「シャンシャン」
「僕の勝ちだね守道君」
「俺の負けか~」
予想が外れた、モニターに映るのは上野動物園のシャンシャン。
タンタンとの違いは不明、パンダの生態にあまり詳しくない俺。
「そういえば部長、生まれましたね双子のパンダ」
「そうなの~そろそろ公開見たいなの~待ち遠しいわ~」
「なるほどですね」
上野動物園にあらたなパンダが2頭誕生した。
平和な話題が日本中を駆け巡り、にわかファンの俺にもパンダの赤ちゃん誕生の報は耳に入っていた。
「双子のパンダの名前って決まってるんですか?」
「今度公募するみたいなの、今わたしの子の名前を考えてるところ」
「なるほどですね」
南部長が自分の子供だと発言した事はスルー、名前はまだない双子パンダ。
公募は事実らしく、今度ホームページでパンダの双子の名前を募集するらしい。
部長と話をしていると、部室に入って来る眼鏡をかけた可愛い女の子の姿。
「こ、こんにちは」
「やあ」
「末摘さんお疲れ様です」
いつも末摘さんと一緒にいる岬の姿が見えない。
さっき校舎の屋上に太陽と上がってから姿を見ていない。
「岬さん、今日はちょっと色々あって」
「ああ、あれね」
「うん、あれ」
なるほどあれか。
結城数馬も末摘さんとうなずき合う。
分かっていない俺もつられてフンフンうなずく。
「今日機嫌悪かったもんね岬さん」
「うん、やっぱりあれだから」
「やっぱり便秘か」
(バァァーーン!)
「ひっ」
「ちょっとあんた」
「は、はい」
岬姫、御光臨。
「そのツラ貸しな」
「かしこまりました」
部室を出るとそこは旧図書館。
真夏の旧図書館、本棚の裏、処刑場に到着。
(ドォォーーン!)
「ひっ」
緊急地震速報、衝撃の壁ドン。
大きな本棚が左右に揺れる。
「さっきあんたなんつった?」
「岬は可愛いなって」
「嘘ついてんじゃねえし」
俺の嘘はすぐにバレる。
今日の岬は超が付くほど機嫌が悪い。
「他になんか言ったっしょ」
「パンダと、笹の葉と、えっと」
「その後」
「ああ、便秘?ウグッ☆□●!?も、申し訳ありませんです」
「うちに下品な事言わせてんじゃねえし」
胸ぐらを掴まれ生死の境をさまよう。
リンチからようやく解放、いじめ110番。
優しい数馬と末摘さんの待つ部室に命からがら帰還、ここに居たら命が危ない。
「高木君」
「大丈夫かい守道君」
「か、数馬、早く生徒会室に避難を」
「それが良い」
「ちょっと待ちな」
「守道君、岬さんが呼んでるよ」
「は、はい!ただいま」
俺が動物虐待を受けているにも関わらず、南部長はモニターのパンダに夢中。
部室内の長椅子に場所を移動。
大胆に足を組み、部室の冷房の前に座る岬姫。
岬姫の正面に正座、尋問が開始される。
「あんた、選択は?」
「洗濯なら毎日ちゃんとして」
(バァーーン!!)
「ひっ」
「選択科目だっつってんの」
「守道君、世界史」
「は、はい、世界史に致します」
「さっさと言えし」
「申し訳ありません」
結城数馬のナイスアシスト、機嫌が朝から超悪い岬れなのオーラに圧倒されっぱなし。
明日担任の御所水先生に提出する後期の選択科目。
京都の進学校、特別進学部の多彩なカルキュラム。
この大海原を乗り越えるべく、結城数馬と選択科目を同じにする予定。
「じゃあ俺はこの辺で」
「ちょっと待ちな」
「何だよ岬、今日本当機嫌悪いな」
「バイト付き合って」
「えっ?もしかして夜?」
夏の終わりと共に、彼女の手元資金は底をつく。
宵越しの金は持たない岬の金欠は今に始まった事ではない。
「この辺で許してあげる」
「ありがとうございます」
姫の許しが出た、ようやく拷問から解放された俺。
旧図書館から数馬と一緒に脱出、隣の第二校舎にある生徒会室へ向かう。
「ははっ、岬さん怒ってたね」
「笑い事じゃないって数馬、重症だよ重症」
「原因はお兄さんに怒られただけじゃ無かったみたいだね」
「便秘じゃなかったのかよ~」
「どうやら守道君も一因みたいだね」
「マジか~」
女心が分からない俺、岬の怒りの炎に次々と油を注ぎ大炎上。
見ている数馬は終始ご機嫌、俺と岬のやりとりが余程面白いらしい。
岬のお兄さんは3年生、大阪で行われるワールドカップ日本代表の4番は俺たちのいる校舎の隣にある第二校舎の住人。
そういえば今朝、わざわざ1年生のいる第一校舎まで来たお兄さんに廊下で怒られてたな。
「君と一緒にいると毎日楽しいよ」
「俺はたまったもんじゃないんだぞ数馬、早くケガ治して野球に戻れよ」
「古傷は後に響く、ここはじっくり治すのが正解さ」
「なるほどな」
下半身を鍛えるランニングはすでに再開していると話す数馬。
右手が完治するまでは、刺激に満ち溢れる俺のそばを離れないと言い出す始末。
「世界史か~もう明日からだよな」
「日本史もある、これから楽しみな毎日だね」
「楽しそうだな数馬」
歴史が好きな結城数馬。
そういえば日本史の小テストがあると相棒に教えてもらっていた、明日はテストに注意したい。
岬に体を引き裂かれ、重症の傷を負ったまま生徒会室に到着。
第二校舎の3階一番奥、漆塗りテッカテカの表札には「平安高校生徒会」と文字が彫り込まれていた。
9月1日、生徒会室。
生徒会長からのお呼び出し。
生徒会長付け生徒会監査人、結城数馬、高木守道。
「さあ、行こうか守道君」
「ああ、数馬」
俺が右手、数馬が左手。
ダブルエントリー。
重厚で重たい生徒会室の扉に手をかける。
……
……
……
……
……
……
(ギィィィ~~~~イ)
……
……
……
……
……
……
……
……
……
……
……
……
「お~ほっほっほ」
パターン青、使徒だ。




