153.第16章サイドストーリー「高木紫穂は追いかけたい」
8月、地元の夏祭りが行われる日。
紫色の浴衣姿の姉妹が2人、高木紫穂、蓮見詩織。
「お姉ちゃんは入らなくて良いの?」
黙ってうなずく姉の詩織。
店の外で待つ姉を、不思議そうに見送る妹。
(ピコピコ~)
「いらっしゃいませ~」
「いらっしゃいました」
「ここに来るなって言ってるだろ紫穂~」
「えへへ~」
高木守道のバイト先に姿を現す妹の紫穂。
レジに立つ兄に駆け寄る。
「せっかく夏祭りなのにバイト?」
「夏祭りだからお店が忙しいの。その浴衣超似合ってるぞ紫穂」
「やった!嬉しい~お兄ちゃんは行かないの?」
「夜の花火だけ見て帰るよ。今から行くのか?」
「うん、行ってくる」
「楽しんでこいよ紫穂」
「は~い」
レジ前で雑談する兄と妹。
昼から行われている夏祭りに向かう妹を、バイト先のレジから見送る兄。
店の外に出ると、姉の詩織が待っていた。
2人並んで夏祭りの会場へ向かう。
「お姉ちゃんは生徒会の人と待ち合わせ?」
「そうよ、紫穂ちゃんはお友達と?」
「うん。お姉ちゃん生徒会にも入ってるし、頭も良いし憧れるな~」
「紫穂ちゃんも平安高校目指してみる?」
「う~ん……私じゃ無理かも」
「大丈夫よ紫穂ちゃんなら」
「無理だよ~」
仲の良い姉妹。
姉と兄は県下随一の進学校、平安高校の特別進学部に通う。
自分の進路を思い描く、憧れの高校、追いかけたい背中。
簡単には入る事が出来ない、特別進学部の狭き門。
追いかけたい背中がもう1つ。
中学校美術部の先輩、同じく特別進学部S1クラスに通う成瀬結衣。
続けて話題に上がる、夏に行われた絵画コンクールの話題。
夏休み期間、必死に描いて応募した作品が1つ。
「一応出すには出したんだけど……」
「凄く良く描けてたわよ」
「どうかな~成瀬先輩も出したって言ってたし」
「成瀬さんも?」
「うん」
高木紫穂、中学校の美術部に所属、絵画の作品をコンクールへ応募。
それを知る姉の詩織、コンクールの結果発表は秋。
互いの待ち合わせ場所へと向かう2人。
姉に語りかける妹。
「お姉ちゃん、あの話、お兄ちゃんにもう言ったの?」
「まだどうなるか分からないから」
「お姉ちゃんが言わないなら、私も黙っとくね」
「うん」
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夏祭りの会場へ到着。
妹の紫穂が別れ際、姉に手を振る。
「じゃあね詩織お姉ちゃん」
「行ってらっしゃい紫穂ちゃん」
夏祭りの屋台が軒を連ねる。
しばらくすると蓮見詩織の元へ、2人の浴衣姿の女子の姿。
「こんにちは」
「お久しぶりです蓮見先輩」
「副会長、ご無沙汰です~」
「ちょっと明石さん、お口」
「良いじゃん美雪~」
「ふふっ、お久しぶりです一ノ瀬さん、明石さん」
合流したのは生徒会の一ノ瀬美雪、明石沙羅。
2年生の蓮見詩織と3人で待ち合わせ。
最後に合流する男子が1人。
「お疲れ様です皆さん」
「郁人、生徒会の仕事じゃないのよ今日は」
「これは失礼、一ノ瀬副会長のおっしゃる通り」
「茶化さないの郁人」
合流した右京郁人、全員生徒会のメンバー。
右京郁人が蓮見詩織に近づき挨拶する。
「ご無沙汰しております蓮見先輩」
「右京君も元気そうで何よりです」
「その浴衣、とても良くお似合いです」
「ありがとう」
「ちょっと郁人~わたしたちには何か無いわけ?」
「ははっ、2人も良く似合ってるよ」
「聞いた美雪?ついでみたいなヒドイ言い方~」
「この人はいつもそういう人です」
「これは手厳しい」
笑い合う生徒会メンバー。
特別進学部S1のクラスメイト、右京郁人、一ノ瀬美雪、明石沙羅。
1年生の3人が、2年生の蓮見詩織と共に夏祭りの会場へと向かっていく。
夜行われる予定の花火の打ち上げ。
夏祭りは、まだ始まったばかり。




