152.第16章サイドストーリー「氏家翔馬は眠らない」
8月、真夏の大阪。
御堂筋線なんば駅、結城数馬を出迎える氏家翔馬。
「わざわざ来てもろうてすまんな~」
「楽しみにしてたのはこっちの方だよ」
道頓堀の街を歩く翔馬と数馬の2人。
話題は昨日行われた、パンダ研究部の王子動物園ナイトツアー。
「トワイライトZOOかいな?なにすんねん?」
「夜の動物園を冒険さ」
「ただの夜遊びちゃうんか?」
「ちゃんとした部活動だったよ」
「ほんまか?」
神戸の夜、掬星台に訪れたのがつい先日の話。
結城数馬の口から語られる神戸100万ドルの夜景。
「なに部やそれ?」
「ははっ、パンダ研究部だよ」
「おもろい事しよんな~楽しいかったやろ」
「もちろんさ」
結城数馬の顔から笑みがこぼれる。
なんば駅から歩いて進むと、ビルに側面に張り付く大きなカニが見えてくる。
「かに道楽や」
「いいね~」
「デカいやろ、食えるであのカニ」
「美味しそうだね」
「ははは、そやな」
もちろん食べられない大きなカニ。
お店の看板がウネウネ動くその下、かに道楽の軒先に観光客が列を成す。
続いて結城数馬を道頓堀のたこ焼き店に連れていく氏家翔馬。
お店の前には長い行列が出来ていた。
「ここや」
「随分お客さん並んでるね~」
「ここのたこ焼きが一番うまいねん」
「へ~それは楽しみだ」
「たこ焼き食えばケガも早う治るで」
「ははっ、それは嬉しいね」
たこ焼きを購入、道頓堀のグリコサイン前に移動する2人。
「良いね~ここ」
「そやろ、タイガース優勝しても飛び込んだらあかんで」
「今最下位だね」
「ははは、その心配は無いわな」
道頓堀川にかかる戎橋は、たくさんの観光客でひしめいていた。
「ここでたこ焼き食ったら次や」
「次もたこ焼きかい?」
「せや、今日は腹一杯なるまでたこ焼き食うで~」
「ははっ、それは楽しみだね」
たこ焼き巡り、道頓堀ツアーは終日続く。
大阪観光を満喫した2人。
夜、氏家翔馬の家に泊まる結城数馬。
「悪いね翔馬君」
「気にせんでええで~」
大阪から単身、京都平安高校に進学した氏家翔馬、神奈川から単身進学した結城数馬と境遇を共にする。
翔馬の部屋で談笑、話題は学校の話。
「わざわざ神奈川から出てきて、野球出来んのはツラいな~」
「僕は毎日楽しくやらせてもらってるよ」
「せやな、守道おったらおもろいもんな」
「ははっ、そうだね」
クラスメイト、友人の話題は終わらない。
「守道、今日は来れんのか?」
「毎日勉強してるみたいだよ」
「夏休みくらいサボったらええのに」
「お姉さんに尻を叩かれてるらしい」
「ははは、大変やな守道~」
高木守道は京都で勉強中。
今日結城数馬が氏家翔馬を訪ねた理由。
「明日は試合やさかい、気合が入るで~」
「大事な試合だね」
「正月に向けてレギュラー争いが激しいで」
「サッカー部も大変だね」
「せや」
サッカー部の対外試合、冬に行われる全国高校サッカー選手権に向けた大事なレギュラー争い。
予定されている大阪の高校との試合、明日友人の試合を観戦する事を決めていた結城数馬。
久しぶりの再会に、2人の話は夜通し続く。
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翌日、対外試合が行われるサッカー場へ到着。
これから試合がある氏家翔馬。
グラウンドの入場口前、平安高校サッカー部の部員が集まっていた。
「頑張って翔馬君」
「ほな行ってくるわ数馬……あの2人」
「あれは……右京君に、それに」
2人の視線の先には右京郁人ともう1人、S1クラスの女子の姿。
「S1のあの子やないか?」
「そうだね……」
(ピピー)
(「わーーー」)
試合開始のホイッスル。
結城数馬が座る観覧席には、平安高校サッカー部の応援に京都から駆け付けた、たくさんの生徒たちの姿があった。




