151.第16章最終話「流れ星に願いを」
8月、今日は地元の夏祭りが行なわれる。
朝から御所水通りにある中央図書館の自習室に座る。
この中央図書館に来たのは、家で集中して勉強ができなかったから。
『守道さん』
かつてここで、この席で。
詩織姉さんに声をかけられ、身の丈を遥かに超える進学校に入学してしまった。
未来ノートの問題を信じて覚えたあの日の入試。
今では色が変わっってしまった相棒を信じて何とかここまでやってこられた。
最近すっかり身に付いた勉強グセ。
夏祭りを控える朝、隙間時間に英語の問題集に向かう。
以前の俺にはあり得ない行動、今ではすっかり板についてきた。
家で一人勉強していると、脳裏に浮かぶ詩織姉さんの後ろ姿。
S1クラスへの昇格を目指せ、この夏その思いを胸に強く刻み込み勉強に明け暮れた。
詩織姉さんとの約束を果たすために、問題集に向かい合う。
今日の問題演習も一区切り。
ふと、相棒の様子が気になる。
毎日確認している藍色の未来ノート、相棒は夏の間ずっと白紙のまま。
次に俺の受ける大きなテストは、10月にある中間テスト。
今日も相棒の1ページ目を開きノートを確認する。
……出た。
未来に俺が受けるテストの問題。
何だよこの問題……今まで経験の無い設問。
中間テストにしては出題量が少な過ぎる。
何かの科目の小テストなのか?
気まぐれな相棒、突然浮かび上がる未来の問題。
(ピコン)
ラインメッセージ、誰だろ。
―――ラインメッセージ―――
結衣:『おはようございます』
――――――――――――――
成瀬結衣。
久しぶりのメッセージ、慌てて返信。
―――ラインメッセージ―――
既読 結衣:『おはようございます』
守道:『うっす』
――――――――――――――
間違えたか俺?
大先生の結城数馬はここにはいない。
既読付いた……返信がしばらくこない。
(ピコン)
―――ラインメッセージ―――
既読 結衣:『おはようございます』
既読 守道:『うっす』
結衣:『駅前に17時でお願いします』
――――――――――――――――――――
夏祭り、待ち合わせ場所を聞くに聞けず今日を迎えていた俺。
幼なじみ、成瀬結衣の優しさに感謝。
―――ラインメッセージ―――
既読 結衣:『駅前に17時でお願いします』
守道:『ラジャー』
――――――――――――――――――――
俺の夏祭りがもうすぐ始まる。
以前お勉強名目で映画を見に行った時とは訳が違う、お姫様2人連れで夜の夏祭り。
女の子に関しては完全に予習不足。
昼はバイト、夜夏祭り。
今日は長い1日になりそうな予感。
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(ピコピコ〜)
「いらっしゃいませ〜」
「アホヅラ」
「誰がタッキーだって?」
「死ねし」
久しぶりの毒舌、どこか懐かしくも感じる。
海外旅行から帰ってきた金欠の岬れな、コンビニクルーの制服に袖を通しレジに入る。
「旅銭全部使い切ったのか?」
「うるさいし、お土産返しな」
「あれはもう俺のもんだって、サンキューな岬」
「うっーす」
彼女の旅行のお土産は大事に家に置いてある。
今日は夏祭りで客の入りも多く、浴衣を着た女性客の姿も見える。
「あんたは夏祭り行くわけ?」
「うっ」
ギクッ。
いきなり確信を付く質問、返答に困る。
「誰かと行くわけね」
「そ、そうだよ」
「ふ〜ん」
これ以上ツッコまれたくない話題。
神宮寺や成瀬たちと回るとは口が裂けても言えない。
太陽は楓先輩と付き合ってもいないのに、夏祭りに一緒に行くと連絡が入っていた。
野球部の打ち合わせが建前。
甲子園に行くまでは先輩と後輩を貫くつもりの真面目な2人。
どう見ても付き合っているようにしか見えないが、太陽が幸せそうなので放って置く事にする。
成瀬たちとは以前、英語の学習名目で映画を見に行った事がある。
女子と一緒に夏祭り、太陽の文句は俺には言えない。
(ピコピコ〜)
「やあ高木君」
「お疲れ様です兄さん」
「今日も暑いね〜」
「ですね~」
コンビニ近くにある美容院『ステージ』、そこのイケメン美容師の兄さんが来店。
陳列棚のお弁当を取り、いつも俺がいるレジに並んでくれる兄さん。
「お弁当温めますね」
「頼むよ」
休みの合間にお弁当を買いに来た兄さん。
レジ前で雑談中に、昨日翔馬に言われた事を思い出す。
『守道、床屋ちゃうで。美容院や美容院』
「兄さん、今日予約って空いてます?」
「ちょうどキャンセル出たからこの後空いてるよ~帰りに寄ってく?」
「迷惑じゃないですか?」
「全然~」
聞くだけ聞こうと兄さんに声をかけたら予約扱い。
バイト終わりに生まれて始めて美容院に行く事が決定。
美容院に行った事が無い俺、未知の選択に激しく動揺。
美容院に行く前にシャワーを浴びるべきだろうか?完全に予習不足。
粗相の無い行動をどうすべきか、予約をしてから今更迷い始める。
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バイトが終わり、コンビニ近くにある美容院を目指す。
美容院『ステージ』に到着。
店に入るなり、見た事のある綺麗なお姉さんが出迎えてくれる。
「いらっしゃいませ」
「ど、どうも」
美容院に入ると、いつもコンビニに来る綺麗なお姉さん。
どうやらここのスタッフだったようだ。
「ふふっ、こちらへお座り下さい」
「は、はい」
コンビニにお客さんとして来ていたのは知っていたが、まさかここの美容院で働いているお姉さんだとは思ってもいなかった。
お互い顔見知り、綺麗なお姉さんに接客してもらう。
「苦しくないですか?」
「大丈夫です」
お姉さんに首からカット用のクロスを付けられる。
髪をカットするのはいつも床屋の俺。
床屋のあんちゃんとはまったく違うグレードの接客に終始緊張。
『いつもの感じで良いっスか~?』
『お願いします』
『カリアゲ無い程度っスね~』
『はい』
いつも微妙にカットの長さが違う1000円カット。
綺麗なお姉さんは後ろで待機、大きなガラスにお姉さんの笑顔が映る。
ボサボサ頭の男が美容院のイスで待機中、オシャレな美容院の雰囲気にドキドキ。
「高木君、いらっしゃい~」
「すいません兄さん」
「全然~始めるね~」
「お願いします」
常連の美容師の兄さんが姿をあらわす。
綺麗なお姉さんと2人きりだったので、顔なじみの兄さんの姿に一安心。
「う~ん」
俺の髪の毛をチャチャっと両手の指先で触り、深くうなるイケメン美容師。
何をどうすれば良いか困っている様子。
「今日はデート?」
「デートのような、デートじゃないようなです」
「連れは女の子?」
「はい」
「女の子と夏祭りかい、良いね~」
髪のイメージは大事らしく、今晩のシチュエーションを根掘り葉掘り聞かれる。
「俺の頭、何とかなります?」
「夏だし爽やかにいこう高木君~」
「お任せします」
今晩の夏祭りを控え、改造手術がスタートする。
ボサボサ頭が大胆にカットされていく。
「今日の服は気合入ってるね~」
「友達に選んでもらいました」
「そうかい~」
昨日藤原先生に会いに奈良に行った帰り道。
数馬と翔馬に連れられショップに立ち寄った。
『これや守道!』
『赤とか絶対嫌だって翔馬~』
『守道君、こっちはどうだい?』
『全身青じゃんかよ数馬!』
ルックス最高の数馬と違い、アホヅラの俺はそう簡単に似合う服は見つからなかった。
趣味が極端に偏る同級生、今日の服装は激しく疑問のチョイス。
「夏祭りだし、今のラフな格好で良いと思うよ~」
「なるほどですね」
美容師の兄さんの意見に胸をなでおろす。
楽しいトーク、あっという間にカット終了。
イケメン美容師の兄さんにカットして貰えただけで幸せな気持ちになる。
「どうかな?」
「感動です」
「それは良かった~今度はあちらへ」
「えっ?」
後ろで待機していた綺麗なお姉さんに案内され、美容院の別の席へ座る。
1000円カットには無い、お姉さんによるシャンプーとマッサージタイムが待っていた。
「かゆいところありませんか?」
「大丈夫です」
美容院という夢のような空間を初体験。
90%OFFの魔法のカードを使い会計を済ませる。
もうすぐ日暮れ、待ち合わせの場所へと向かう。
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夏の京都。
夏の最後を締めくくる地元の夏祭り。
待ち合わせ場所に到着すると、薄暗い町並みの中に浴衣姿の女子2人の姿。
紫色の浴衣を着た成瀬結衣、藍色の浴衣を着る神宮司葵。
手元の時計は17時ピッタリ。
俺が近づくとこちらに気づき、2人の顔に笑顔の花が咲く。
開口一番、神宮司葵がスマホを俺にかざして見せてくる。
「遅刻」
「嘘だろ?」
「3分遅刻」
「誤差だろ誤差」
「ふふっ」
成瀬結衣と神宮寺葵。
2人の浴衣姿に思わず見惚れていると、幼なじみが俺の異変に気付く。
「高木君、どうしちゃったのその髪?」
「へ、変か成瀬!?」
「ううん、ちょっとカッコ良いかも」
「マジか!?」
美容院の凄まじい効果発動。
ちょっとカッコ良くなった俺。
成瀬姫から微妙な高評価。
「成瀬、その紫の浴衣似合ってる」
「本当?」
「シュドウ君わたしは?」
「超似合ってるよ超」
「やった!」
「ふふっ」
女の子はとにかく褒める、結城数馬の言葉に嘘はない。
2人は可愛いし綺麗な女子、それに加えて数段俺より頭が良いS1の才女。
仲良し女子2人、俺の場違い感は半端ない。
「高木君」
「なに成瀬?」
「葵さん、今日はわたしと2人でお祭り来てる事になってるそうなの」
「嘘だろそれ?」
「えへへ」
「えへへじゃないよ、俺が一緒なの家にバレたらどうすんだよ」
「う~ん……内緒?」
「俺を巻き込むなって」
神宮寺家のお嬢様は、姉妹揃って親に内緒で夜の夏祭りをまわるつもりらしい。
「神宮寺、嘘ついたらハリセンボン飲むんだぞ」
「それは嫌」
「高木君、いじわる言わないで下さい」
「この子に甘すぎるって成瀬~」
「結衣ちゃん好き〜」
成瀬と神宮寺、2人は仲良し。
久しぶりに会う成瀬結衣、どこか大人びた雰囲気に感じる。
しばらく見ない間に成瀬の印象は大分変わっていた。
「行きましょう」
「行きましょう」
神宮寺が成瀬の真似をして同じ事を2回言う。
俺の右に神宮寺、左に成瀬が自然に並ぶ。
両手に花、信じられない1日。
「お祭り楽しみだね」
「そうだな成瀬」
成瀬と夏祭りをまともにまわった事は一度も無い。
今年の夏は特別な1日になりそうだ。
「高木君、葵さんは?」
「あれ!?どこ行った!?」
右に居たはずの神宮寺が一瞬にして消える。
先に見つけたのは成瀬。
「高木君、あっち」
「マジか!?なにしてんだよ光源氏!」
「えっ?」
お祭りの屋台が立ち並ぶ。
脱走パンダがチョコバナナの屋台に吸い込まれていた。
「離れるなよ神宮司」
「分かった」
「近いって」
「離れるなって言った」
「分かった、分かったよ」
「ふふっ」
お祭りの屋台が延々と続き、夏祭りの見物客が道をたくさん行き交う。
人の流れは神社の方向へと向かう。
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「高木君頑張って」
「分かってる」
「シュドウ君頑張って」
「今集中してるから」
高木守道、金魚すくいに挑戦中。
姫2人が俺の手さばきを注視、何としても金魚をゲットしたいところ。
「ほい」
「凄い~」
「ほい」
「凄いシュドウ君!」
「あっ、破れた」
「でも凄い~」
2匹の金魚をゲット、俺にしては上々の収獲。
「はい嬢ちゃんたち」
「わ~い」
「ありがとう高木君」
「あ、ああ」
姫たちに1匹ずつ袋に入れられた金魚が渡される。
今日一番の笑顔を見せる2人。
金魚すくいの屋台を離れようとした矢先、1人の男に声をかけられる。
「やあ、奇遇だね」
「右京さん」
「右京……」
右京郁人、S1クラス。
成瀬と神宮司のクラスメイト、生徒会の右京とこんなところで鉢合わせるなんて。
右京は1人なのか?成瀬と話し始める。
「3人でお祭り?」
「うん」
「この前は一緒に来てくれてありがとう」
「ううん」
俺の知らないやりとり、成瀬は右京と夏休みの間にどこか行っていたのだろうか?
「右京、ここにいたのか……成瀬さんに神宮司さん」
「紀藤君」
俺の前にもう1人現れたS1クラスの紀藤。
こいつは翔馬と同じサッカー部、以前翔馬が背が低いとバカにしていた嫌なやつ。
「もうすぐ花火が上がる時間だね」
「どう成瀬さんたち、一緒に花火見ない?」
「でも……」
「同じクラスだし一緒に見ようよ」
俺だけ1人S2クラスの部外者。
隣でキョロキョロする神宮司をよそに、S1クラスの右京と紀藤が誘ってくる。
「葵さん、同じクラスだし一緒に行かない?」
「う~ん……結衣ちゃんが行くなら一緒に行く」
「それが良い、一緒に行こうよ神宮司さんも」
成瀬は右京達のグループと合流するつもりのようだ。
「君、S2の高木君だね」
「そ、そうだけど」
「君も一緒に来るかい?」
「ああ……」
S1クラスの右京と紀藤が合流、成瀬と神宮司の4人が俺の先を歩く。
2人組で並んで歩く姿を、俺は後ろから眺める。
射的の屋台、右京と紀藤が射的に挑戦する。
(パンッ!)
「右京さん上手~」
「ははっ、どうも。はい成瀬さんこれ」
「ありがとう右京さん」
俺は射的を外し、何も取れずじまい。
「ははは」
「ふふっ」
俺は目の前にいる右京と紀藤、2人のS1男子すべてに劣る気さえしてくる。
もうすぐ花火が打ちあがる時間。
4人とも楽しそうだし、俺がここにいる理由は何も感じない。
「俺、そろそろ帰るわ」
「高木君?」
「もう十分楽しんだよ」
「それは残念だ」
S1の右京も紀藤もいる、場違いに感じ始めていた俺はグループから抜ける事にする。
神宮司が俺に話しかけてくる。
「シュドウ君、葵花火まだ見てない」
「良いだろ別に誰とだって、じゃあな」
野宮神社へと通じる道は、たくさんの花火の見物客で埋め尽くされる。
俺はその見物客をかき分けて、1人家へ帰る事にした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(ヒュ~ン……パ~ン)
たくさんの花火が夏の夜空に打ち上がる。
その花火の下を1人歩く。
この花火を夏祭りの会場のどこかで、太陽や数馬も誰かと一緒に見ているのかも知れない。
女の子と夏祭りをまわれる、浮かれていた俺はS2クラスの底辺にいる男子だと言う事をすっかり忘れてしまっていた。
太陽や数馬とは違う、カッコいいわけでもなく、頭が良いわけでもない男。
あのままS1グループに残る事も出来た、ただ1人S2の俺はそれを惨めに感じてしまった。
そそくさと逃げるようにグループから抜けた俺。
S1クラスの女子と少しでも夏祭りをまわれただけで十分だろう。
(ヒュ~ン……パ~ン)
夏の花火が夜空を染める。
俺、なんでここに来たんだっけ?
ああそうか、あの子に誘われてきた事をすっかり忘れてしまっていた。
辺りが静かになる。
花火が打ち終わると、夏祭りの会場から大きな拍手が沸き起こる。
花火が終われば夏祭りはおしまい。
(ピコン)
ラインメッセージ。
誰だ一体?
―――ラインメッセージ―――
結衣:『高木君どうしよ、葵さんとはぐれちゃったの』
――――――――――――――
成瀬からメッセージ。
右京達と4人でいた神宮司が、成瀬とはぐれてしまったようだ。
夏祭りの会場から完全に離れてしまっていた。
続いて電話がかかってくる。
成瀬からの電話。
(「高木君?」)
(「成瀬か、いないのか神宮司?」)
(「どうしよ、私どうしよ」)
(「落ち着けって成瀬、右京たちと一緒にいるんだろ?」)
(「近くを探してくるって。こっち人が多くて」)
(「俺も戻るから」)
来た道を引き返し、夏祭りの会場へ戻る事にする。
神宮司はすぐに迷子になる、成瀬が一緒だから油断していた。
夏祭りの屋台はまだ営業しており、花火が終わった後も見物客で辺りはごった返す。
(ドンッ!)
「こら!気をつけろ」
「すいません」
夏祭りを後にする帰りの群衆にぶつかる。
こんな人ごみの中で神宮司が1人迷子になっていたら探しようがない。
「高木君」
「成瀬」
夏祭りの会場の入り口近くで成瀬と偶然合流する事が出来た。
うろたえる成瀬、はぐれてしまった責任を感じているのか、目に涙を浮かべていた。
「ごめんなさい」
「いつもの事だって、電話は?」
「何度もかけてるけど繫がらなくて、電源も入ってないみたい」
「なにやってんだよ神宮司」
「花火が終わったら家に一緒に帰る約束だったの」
「もう一度神社の方まで見て見よう」
「うん」
肝心のスマホも電源が入ってないと使えない。
成瀬は慌てた様子で人ごみの中へと消えて行った。
1人残された俺も、成瀬に神宮司を任せて帰ろうとした責任を感じていた。
(ガヤガヤガヤ)
たくさんの人でごった返す会場、この人ごみの中で神宮司1人見つけるなんて無理に決まって……。
『未来ノート』
道を外れて屋台の裏にまわり、バックの中から相棒を取り出す。
アテがあった、以前資格試験の会場で彼女を見失った時に、藍色の未来ノートに導かれた記憶がよみがえる。
朝から中央図書館で勉強、バックの中に持参していた藍色の未来ノートを開く。
その最終ページ。
『チョコバナナ』
ん?
んん?
う~ん……あっ。
『離れるなよ神宮司』
『分かった』
『近いって』
『離れるなって言った』
最初に見たチョコバナナの屋台。
最初に彼女が迷子になったチョコバナナの屋台に向かう。
屋台に到着、見慣れた3人の姿。
結城数馬を挟むように、浴衣姿の空蝉姉妹が両脇にピッタリとくっついていた。
「数馬!」
「あっ」
「あっ」
「やあ守道君」
「数馬デート中悪い、神宮司見なかった?」
「お姫様かい?えっと」
「神宮司さんなら」
「あっちの奥に消えていきました」
「ありがとう、え~っと空蝉さんと空蝉さん。じゃあな数馬」
空蝉姉妹から貴重な情報。
家路につく見物客とは逆に、夏祭り会場の奥へと向かったようだ。
まだまだ人が多い。
ふたたび未来ノートの最終ページを開く。
『金魚すくい』
宝探しじゃないっての、神宮司は一体どこへ消えた?
金魚すくい、金魚すくい……あっ。
さっき俺がすくって、あの子にあげた屋台があった。
姫2人に献上した金魚すくいの屋台に到着。
屋台のあんちゃんが客だった俺の顔を覚えてくれていた。
「よう兄ちゃん」
「すいません、僕と一緒に居た女の子来ませんでしたか?」
「どっちの彼女?紫の方?」
「紫じゃ無い方の子です」
「そっちの美人さんなら、この奥の神社の方に行ったよ」
「ありがとうございます」
もう片付けが始まってる野宮神社の方角。
夏祭り終わるっていうのに、なんで神社の方向かってるんだよあの子は。
金魚すくいの屋台の場所から、野宮神社を目指して進む。
夏祭りの花火は終わり、神社周辺の屋台は店じまいを始めていた。
会場入り口方向から、夏祭りの終わりを惜しむように楽しそうな話し声がここまで響いてくる。
ここまで来たけど未だに神宮司の姿は見えない。
藍色の未来ノートをもう1度開く。
最終ページ、金魚すくいの次は何だ?
『流れ星』
なんだよこの藍色の答えは?
流れ星なんて、一体どこで……。
野宮神社、どこか星が見える場所は無いか?
薄暗い野宮神社の境内に入る。
何か物音がする。
明るい場所から薄暗い場所に移動して、目が段々と暗闇に慣れてくる。
ボンヤリと浮かんでくる浴衣姿の女の子のシルエット。
やっと見つけた、迷子のお姫様。
「探したぞ神宮司」
「やっぱり君が迎えに来てくれた」
「君?」
「うん」
神宮司がシュドウと呼ばない、どうしてあだ名で呼ばなくなった?
勝手に迷子になるし、相変わらず不思議な事を言い始める。
「待ってたの」
「探したよ」
「流れ星」
「流れ星?」
夜空を見上げる神宮司葵。
「知ってる?流れ星にお願いすると願いが叶うの」
「それくらい知ってるよ」
「ちゃんと叶った」
「叶った?」
「流れ星のおかげ」
彼女の視線の先には満天の星空。
一度視線を空に向けた彼女が、ふたたび俺に視線を合わせる。
「守道君」
「その呼び方……楓先輩と一緒」
「ふふっ」
神宮司葵の姿に、楓先輩の姿が重なる。
「守道君、あのね」
「お、おう」
未来ノートの導く先、いつもたどり着くのは彼女の姿。
野宮神社の夏の夜空から、一筋の光が、地平線へと落ちてゆく。
第16章<君が見た流星> ~完~
【ここまでの登場人物】
【主人公とその家族】
《高木守道》
平安高校S2クラスに所属。ある事がきっかけで未来に出題される問題が浮かび上がる不思議なノートを手に入れる。パンダ研究部所属。生徒会監査人。
《高木紫穂》
主人公の実の妹。兄を慕う心優しい妹。
《蓮見詩織》
平安高校特別進学部2年生。平安高校生徒会、生徒副会長。主人公の父、その再婚を予定する、ままははの一人娘。
【平安高校1年生 特別進学部SAクラス】
《朝日太陽》
主人公の大親友。小学校時代からの幼馴染。平安高校特別進学部SAクラス1年生。スポーツ万能、成績優秀。野球部に所属。
【平安高校1年生 特別進学部S2クラス】
《結城数馬》
平安高校特別進学部S2クラス1年生。野球部所属。パンダ研究部所属。生徒会監査人。主人公のクラスメイト。
《岬れな》
平安高校特別進学部S2クラス1年生。パンダ研究部所属。主人公のクラスメイト。バイト先の同僚。
《氏家翔馬》
平安高校特別進学部S2クラス1年生。サッカー部所属。主人公のクラスメイト。
《末摘花》
平安高校特別進学部S2クラス1年生。パンダ研究部所属。眼鏡女子。主人公のクラスメイト。
【平安高校1年生 特別進学部S1クラス】
《神宮司葵》
主人公と図書館で偶然知り合う。平安高校1年生、S1クラスに所属。『源氏物語』をこよなく愛する謎の美少女。美術部所属、パンダ研究部所属。
《成瀬結衣》
主人公、朝日とは小学校時代からの幼馴染。平安高校特別進学部S1クラス1年生。秀才かつ学年でトップクラスの成績を誇る。美術部所属。
《空蝉文音》
平安高校特別進学部S1クラス1年生。双子姉妹の姉。野球部マネージャー。
《空蝉心音》
平安高校特別進学部S1クラス1年生。双子姉妹の妹。野球部マネージャー。
【平安高校 生徒会メンバー】
《右京郁人》
平安高校特別進学部S1クラス1年生。生徒会メンバー。
【平安高校 上級生】
《神宮司楓》
現代に現れた大和撫子。平安高校3年生。誰もが憧れる絶対的美少女。野球部マネージャー。神宮司葵の姉。
《南夕子》
平安高校3年生。パンダ研究部部長。
【平安高校 教師・職員】
《藤原宣孝》
主人公のクラスの旧担任教師。第一線から引退。
《叶月夜》
平安高校特別進学部S1クラス担任教師。教科、英語を担当。




