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142.第15章最終話「第98回全国高校野球 京都大会決勝戦」

 7月、最終登校日。

 平安高校の講堂で開かれる終業式。

 壇上に上がる1人の教師。

 7月末をもって退職する、藤原宣孝先生。



「本日を持ちまして皆さんとお別れとなります。これからの皆様の活躍をお祈り致します」



 講堂で行われた終業式が終了し、S2クラスに戻る。

 しばらくすると、藤原先生がS2クラスに入ってきた。



「藤原先生~」

「先生、お疲れ様でした~」

「ありがとうございます皆さん」



 期末テストが終わったタイミングで発表された藤原先生の勇退。

 クラスのみんなで話し合い、台紙に寄せ書きを書いていた。

 発案したのはS2クラスのリーダー、氏家翔馬。


 翔馬の提案に全員が賛同。

 俺も一筆、先生へのせめてもの気持ちを書いた。 



「藤原先生、これみんなからです」

「皆さん、ありがとう」



 氏家翔馬がクラスを代表して藤原先生に寄せ書きを送る。

 先生の目が潤む。

 クラスの1人1人に声をかける藤原先生。

 俺の前に立つ藤原先生の手には、クラスメイトが用意したであろう花束をいくつも抱えていた。



「高木君、最後に君の頑張りを見せてもらいました」

「藤原先生」

「勝って兜の緒を締めよ」

「はい」

「これからの君の飛躍に期待しています」



 そう言って藤原先生は、他の生徒の輪に入る。

 期末テストの結果で好成績を上げられた。

 素直に嬉しいと思っていた俺だが、先生の言葉はいつも重い。


 相棒の力を借りて得られた10科目1000点満点のテスト。

 結果は総合948点。


 問題を自力で調べた数学と英語。

 問題すら分からなかった現代文を自力で解いた。

 それ以外の科目は赤く、青く染まった答えを暗記した。


 結果が判明し、クラスのみんなから祝福された。

 クラスでモテはやされる一時の感情は、藍色の未来ノートの力のおかげだと感じる。

 勝って兜の緒を締めよ。


 これまでの4月の学力テスト、5月の中間テストで地を這う赤点ラインを行き来してきた俺にとって、今回の期末テスト1度きり良い点が取れたところでクラス内の順位に変化があったのかは分からない。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 終業式が終了した夜、8時。

 太陽の家の近くの公園。

 今日も太陽と待ち合わせをしていた。

 ベンチに座り、2人で男同士の話をする。 



「太陽、昨日の準決勝も勝てて良かったよ」

「まあな」

「もう第ニ試合から準決まで4連投だろ?大丈夫か肩?」

「正直きついな。さすがに地区予選となるとヤバいぜ」



 第98回高校野球地区予選。

 平安高校は第一試合で3年生のエースピッチャーが肩を故障。


 2年生の投手と1年生の太陽が投手陣を支える。

 太陽の負担も大きく、中2日の試合日程が追い打ちをかけていた。

 第二試合から第三試合、続く準々決勝に準決勝。

 太陽の顔に疲労感が漂う。



「昨日も学校にテレビカメラ来てたな。緊張しないか太陽?」

「注目されてる、逆に燃えるぜ」

「そう思える太陽は凄いよ」



 昨日の準決勝でも勝利した平安高校野球部。

 今日の終業式を挟んで、明日決勝戦が行われる。



「俺も見に行くよ太陽」

「そうか、それは嬉しい。お前が期末テストであんなに頑張ったからな。俺も負けるわけにはいかねえぜ」



 俺の期末テストの結果を励みにしてくれている。

 ただ学校の教室で結果だけ聞いている俺と違って、太陽にはベンチから見てくれている大事な人がすでにいる。



「楓先輩は?」

「毎試合ベンチで見てる」




『私を甲子園に連れて行きなさい』



 太陽には叶えなければいけない大事な仕事がある。

 神宮司楓先輩との大きな大きな約束。


 第一試合から始まった高校野球地区予選。

 野球部を襲ったアクシデント。

 3年生エースピッチャーの故障。

 第二試合から準決勝まで、太陽もチームの一員となって貢献している事が俺も誇らしい。


 明日は決勝戦。

 3年生の神宮司楓先輩を甲子園へ連れて行けるラストチャンス。



「頑張るしかないな」

「ああ」



 太陽のすべてを賭けた一戦。

 俺はただそれを祈る事しかできない。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





(ミ~ンミンミンミ~)



 終業式の翌日。

 朝。

 決勝戦が行われる球場へ向かう。

 御所水通りのバス停で待っていると、女子2人が合流してくる。



「おはよ」

「お、おはよう高木君」

「おはよう岬、末摘さん」



 同じ部活のパン研の3人で待ち合わせ、球場に向かう。

 結城数馬は野球部と帯同。

 今日から夏休みに入る。

 決勝戦には、平安高校のほとんどの生徒が応援に向かうはず。


 バス停で待っていると末摘さんから声がかかる。



「高木君、やったね期末テスト」

「まぐれだよ」

「岬さんも凄いって」

「花、余計な事言うなし」

「ご、ごめんなさい」



 岬が俺を褒めた?

 末摘さんの話、本当かどうか分からない。

 3人でバスに乗り球場を目指す。


 今日平安高校が勝てば甲子園出場が決まる。

 朝から天気は快晴。

 太陽の晴れの舞台。


 球場に到着する。

 内野席は1塁側3塁側共に両チームの応援で生徒たちがひしめき合っていた。

 いよいよ試合が始まる。



(「お待たせいたしました。これより決勝戦、平安高校対嵯峨高校の試合を開始いたします」)

(ウ~~~~~~~~~)

(「わーーーーーー!」)



 全国高校野球地区予選、決勝戦。

 県下の強豪校同士の一戦。

 平安高校対嵯峨高校の決勝戦が開始される。


 1回表、平安高校の攻撃。

 ツーアウトランナー1塁。

 第一打席を迎える平安高校の4番、岬中将。



(ビュ!カキーーン!!)

(「わーーーーー!」)



 先制のツーランホームラン。

 1回表に2点を先制する平安高校。


 内野席で応援する俺。

 隣に座る岬からも声が上がる。



「よし」

「やったな岬!」

「当然」



 岬の兄貴がホームランを打った。

 ダイヤモンドを一周してホームイン、ベンチのナインから祝福される岬選手。

 そのベンチの中にいる太陽と神宮司楓先輩。


 夢のような舞台。

 平安高校が先制点をあげる。

 これで後は太陽が投げれば、ついに楓先輩との約束が果たされる。


 その俺の甘い見通しは、9回を終了した時点でもろくも崩れ去る。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





 序盤こそリードした平安高校だったが、2年生ピッチャーが崩れた事で形勢逆転。

 試合展開は一進一退の攻防が続く。

 太陽の登板が無いまま9回が終わり、同点のまま現在延長戦にもつれ込んでいる。


 延長10回裏。

 4対4の同点の場面。



(「平安高校のピッチャー、森山君に変わりまして、朝日君。6番ピッチャー朝日君」)

(「わーーー!」)



 延長戦同点の場面で朝日太陽が登板する。





~~~~~朝日太陽視点~~~~~



 同点の10回裏。

 1点も点はやれねえ大事な回。

 もう投手は俺しか残ってねえ、俺が抑えるしかない。


 楓先輩がベンチで見てる。

 先輩との約束を果たす時がきた。


 絶対に抑えてやる。

 俺がこのチームを甲子園へ連れて行くんだ。



~~~~~~~~~~~~~~~~





 10回裏、マウンドには1年生の朝日太陽。

 その初球。



(ビュ!シュパーーン!!)

(ストライーーク!)



『135km』



 朝日太陽のストレートにバッターのバットが空を切る。

 ノーボールワンストライク。


 次のキャッチャーのサインはカーブ。

 それにうなずくマウンドの朝日太陽。

 第2球を投げる。



(ビュ!カキーン!)



 セカンドゴロが転がる。

 前に出る内野手。

 


「ああ!?」



 内野ゴロをセカンドがエラー。

 ボールをファンブルさせ地面に転がる間、バッターは1塁を駆け抜ける。

 10回裏、ノーアウトランナー1塁のピンチ。

 マウンドに内野陣が集まる。



「朝日すまん」

「いえ」


 

 エラーした2年生のセカンドが朝日太陽に詫びる。

 すぐに声をあげる4番サード、岬中将主将。



「朝日、まずワンナウトだ。落ち着いていこう」

「うっす」



 チームの主将、3年生の岬中将が声を出す。

 マウンドに集まっていた内野陣が守備位置に戻る。

 守備シフトはゲッツ―。

 

 マウンドに立つ投手の朝日太陽。

 1塁のランナーのリード幅を確認、すかさず1塁に牽制球を投げる。



(ビュ!)

(「セーフ!」)



 きわどいタイミングでセーフ。

 すぐに1塁ランナーは大きなリードでマウンドの投手にプレッシャーをかけてくる。


 内野席、平安高校の応援団。

 試合に出られない球児たちの中に、結城数馬の姿があった。

 

 



~~~~~結城数馬視点~~~~~



 朝日君、ここは苦しいが抑えてくれ。

 僕が投げられない分も頼むよ。


 このピンチを抑えれば、次の回でチャンスは必ず来るはず。

 頑張って朝日君。


~~~~~~~~~~~~~~~~





 延長10回裏。

 平安高校の守り。

 ノーアウトランナー1塁のピンチ。


 キャッチャーのサインはストレート。

 それにうなずくマウンドの朝日太陽。

 第1球を投げる。



(ビュ!カキーーン!!)

(「わーーーーーーーー!!」)



 朝日太陽が天を仰ぐ。

 無情にも右中間へ飛んでいくボールは、そのままスタンドイン。

 決勝のサヨナラホームラン。




(ウ~~~~~~~~)

(「ご覧のように、6対4で嵯峨高校が勝ちました。ただいまから嵯峨高校の栄誉を称え――」)




 勝利し歓喜に沸く嵯峨高校の内野席。

 静まり返る平安高校の内野席。


 うなだれ、下を向く結城数馬。

 その隣で、マウンド上を呆然と見る空蝉姉妹。


 空蝉文音、空蝉心音。

 2人の目から、たくさんの涙がこぼれ落ちていた。





第15章<空蝉の鳴く季節> ~完~



【ここまでの登場人物】



【主人公とその家族】



高木守道たかぎもりみち

 平安高校S2クラスに所属。ある事がきっかけで未来に出題される問題が浮かび上がる不思議なノートを手に入れる。パンダ研究部所属。生徒会監査人。


高木紫穂たかぎしほ

 主人公の実の妹。ある理由から主人公と別居して暮らすことになる。兄を慕う心優しい妹。


蓮見詩織はすみしおり

 平安高校特別進学部に通う2年生。平安高校生徒会、生徒副会長。主人公の父、その再婚を予定する、ままははの一人娘。



【平安高校1年生 特別進学部SAクラス】


朝日太陽あさひたいよう

 主人公の大親友。小学校時代からの幼馴染。平安高校特別進学部SAクラス1年生。スポーツ万能、成績優秀。野球部に所属。



【平安高校1年生 特別進学部S2クラス】


結城数馬ゆうきかずま

 平安高校特別進学部S2クラス1年生。野球部所属。パンダ研究部所属。生徒会監査人。主人公のクラスメイト。


岬れな(みさきれな)

 平安高校特別進学部S2クラス1年生。パンダ研究部所属。主人公のクラスメイト。バイト先の同僚。


氏家翔馬うじいえしょうま

 平安高校特別進学部S2クラス1年生。サッカー部所属。主人公のクラスメイト。


末摘花すえつむはな

 平安高校特別進学部S2クラス1年生。パンダ研究部所属。眼鏡女子。主人公のクラスメイト。




【平安高校1年生 特別進学部S1クラス】



神宮司葵じんぐうじあおい

 主人公と図書館で偶然知り合う。平安高校1年生、S1クラスに所属。『源氏物語』をこよなく愛する謎の美少女。美術部所属、パンダ研究部所属。


成瀬結衣なるせゆい

 主人公、朝日とは小学校時代からの幼馴染。平安高校特別進学部S1クラス1年生。秀才かつ学年でトップクラスの成績を誇る。美術部所属。


空蝉文音うつせみあやね

 平安高校特別進学部S1クラス1年生。双子姉妹の姉。野球部マネージャー。


空蝉心音うつせみここね

 平安高校特別進学部S1クラス1年生。双子姉妹の妹。野球部マネージャー。




【平安高校 生徒会メンバー】


叶美香かのうみか

 平安高校3年生。平安高校、生徒会本部役員選挙にて生徒会長に再選される。


右京郁人うきょういくと

 平安高校特別進学部S1クラス1年生。生徒会メンバー。



【平安高校 上級生】


神宮司楓じんぐうじかえで

 現代に現れた大和撫子。平安高校3年生。誰もが憧れる絶対的美少女。野球部マネージャー。神宮司葵の姉。


成瀬真弓なるせまゆみ

 平安高校3年生。成瀬結衣の2つ上のお姉さん。主人公を小学生の頃から実の弟のように扱う。しっかりもののお姉さん。野球部マネージャー。


南夕子みなみゆうこ

 平安高校3年生。パンダ研究部部長。


岬中将(みさきなかまさ)

 平安高校3年生。野球部主将、プロのスカウトから声がかかる平安高校の4番。岬れなの兄。





【平安高校 教師・職員】


御所水流ごしょみずながれ

 平安高校特別進学部S2クラス、主人公のクラスの担任教師。

 平安高校美術を担当。美術部顧問、パンダ研究部顧問。


藤原宣孝ふじわらのぶたか

 主人公のクラスの旧担任教師。教科、現代文を担当。


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