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138.「特別進学部1年生夏季期末テスト」

 日曜日、朝。



(ピコン)



 ん?



(チュン チュン)



 光が部屋に差し込む。

 朝。

 6月、最終日となる日曜日。

 外ではポツポツと雨が降ってる。


 昨日の夜は、来週始まる高校野球地区予選のベンチ入りが決まった太陽に触発されて、相棒の未来ノートの問題をひたすら演習した。




(ピコン)

(ピコン)



 

 相棒と一緒に寝落ちか。

 あれ?

 なんかスマホ、ピコピコ鳴ってるような。




(ピコン)

(ピコン)

(ピコン)





 うるさいなピコピコ。

 未来ノートの次はスマホが壊れたかな?

 紫スマホ壊れたらまた詩織姉さんに怒られる。




(ピコン)

(ピコン)

(ピコン)

(ピコン)

(ピコン)

(ピコン)




 壊れ過ぎだってスマホ。

 スマホをクルン。

 ピコピコうるさいって。

 





―――― 神宮司葵 ラインメッセージ ――――



葵:―――――


葵:『今から行くよ』


葵:『信号が赤に変わります』


葵:『あらたな横断はできません』


葵:『歩行者(ほこうしゃ)信号が赤に変わりました』


葵:『歩行者はしばらくお待ち下さい』


葵:『下にいるよ』



―――――――――――――――――――――――




 下にいる?





(ピンポ~ン)





 紫穂かな?





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






 期末テストは明日月曜日に初日を迎える。

 その前日。


 俺は。

 俺は。



「じゃん・けん・ぽん!」

「チ・ヨ・コ・レ・イ・ト」

「じゃん・けん・ぽん!」

「パ・イ・ナ・ツ・プ・ル」

「あははは~」



 母校。

 小学校。

 朝日太陽と、成瀬結衣と通った俺の卒業校。



「歯磨きハーミーしてきたか?」

「俺も」

「俺も」

「ギャハハハ」



 漢字技能検定4級。

 マジかよ。

 昨日の球児たちの熱い戦いから一転。

 周りほとんど小学生ばっかり!?



「守道君」

「か、楓先輩」

「お勉強は出来た?」

「い、一応やりました」

「問題、足りなかったかしら」

「十分です、十分でしたから」



 明日は期末テスト初日。

 楓先輩に契約させられた漢字技能検定4級。

 先週の平日、図書館で過去問だけは演習した。


 今朝起きて思い出す。

 期末テスト決戦前日に、何やってんだよ俺。



「シュドウ君おはよう!」

「なんでそんな元気なんだよ神宮司」

「えへへ」



 神宮司家の黒光りの車に乗せられ、着いた先は俺の母校。

 よくよく見たら、俺の漢字技能検定4級に受験会場俺の小学校だって書いてあった。

 あまりにも受験する自覚が無くて、ちゃんと見て無かったよ。



「守道君」

「楓先輩」

「葵ちゃん、すぐ迷子になっちゃうの」

「そんな切なそうに言わないで下さいよ先輩」



 成瀬がいない。

 昨日、野球部の練習試合で神宮司葵の隣にいた成瀬。


 紫穂もいない。

 成瀬結衣に憧れる俺の妹。

 成瀬が英語能力検定準2級持ってるの知ってて、英語能力検定4級は一緒に受験した。



「シュドウ君、紫穂ちゃんは?」

「いないよ」

「なんで?」

「あいつは英語にしか興味がないの」

「ふ~ん……そっか」

「そうだよ」



 今日は俺と神宮司の2人だけ。

 漢字技能検定4級は、過去問1回やれば十分合格点に達するレベル。

 学力テストで赤点取った俺が言うのも何だが、この試験は楽勝。



「シュドウ君、終わったら一緒にご飯食べに行く?」

「行かないよ」

「なんで?」

「明日期末テスト始まるだろ、全力で予習しないといけないんだよ俺は」

「全力?」



 この子と遊んでたら沈む。

 俺は泳げない。

 期末テストという大海原に出航する高木守道号の船底は穴だらけ。

 未来ノートで穴を塞がないと、高木守道号はすぐに沈没する。


 この子とランチに行ったら最後、神宮司だけ助かって俺だけ沈む。

 この子とランチはNG。



「守道君、終わったらご褒美が」

「結構です楓先輩。そのご褒美、太陽にお願いします」

「シュドウ君、終わったら源氏物語一緒に読まない?」

「明日期末テストあるって言ってるだろ光源氏!」

「お勉強になるよ」

「明日の古文のテスト範囲、枕草子(まくらのそうし)だって」

「葵、源氏物語が読みたい」

「俺はいま枕草子が読みたいの」

「え~」



 神宮司姉妹が俺をダークサイドに誘ってくる。

 期末テストの古文の出題範囲は、担当教師の枕草子(まくらそうし)先生と同じ名前の枕草子(まくらのそうし)

 出題範囲は清少納言であって、紫式部ではない。

 源氏物語を読んでいる場合ではない。



「葵ちゃん頑張って。守道君にちゃんと着いて行ってね」

「は~い」

「俺の袖掴むなよ」

「お姉ちゃんがついて行きなさいって言った」

「分かった、分かったよ。離れるなよ」

「うん」



 母校の小学校の正門で、切なそうに妹を見送る神宮司楓先輩と別れる。

 楓先輩は、妹の事になると楓先輩で無くなってしまう。

 太陽の事は宇宙の彼方に消えているかも知れない。

 楓先輩のシスコンぶりは常軌を逸する。


 今日は成瀬がいない。

 この子を試験会場の教室まで連れて行くのが今日の俺の任務。



「あ~おっきいお兄ちゃんがいる~」

「指差しちゃいけません」

「シュドウ君良かったね、おっきいお兄ちゃんだって」

「嬉しくないよ」

「なんで?」


 

 俺はこんな事をしていて、明日の期末テスト大丈夫なのだろうか?

 試験時間は60分。

 終わったらすぐ家に帰って全力予習再開。


 楓先輩の手前、今日の試験をボイコットするわけにもいかない。

 今日のこの試験で出る漢字が、期末テストの現代文の問題に出ると俺は信じている。


 藍色の未来ノートに、現代文の問題は映し出されない。

 未来ノートに問題が出る教科のテストと、現代文のように問題すら出ない基準は何なのだろうか?


 もっと言えば、英語の未来の問題は出るのだが、答えはどういうわけか浮かび上がらない。

 俺の相棒は気まぐれ。

 問題も答えも、気まぐれに出たり出なかったりする。



「こっちがお前が受験する教室」

「シュドウ君凄い!なんでも知ってる」

「俺のいた小学校だから知ってて当然なの」

「シュドウ君のいた小学校?」

「そうだよ」



 俺のいた小学校は、隅から隅まで覚えている。

 太陽と6年、成瀬と3年過ごした俺の母校。

 今通り過ぎた理科室は、成瀬を泣かせて隠れた理科室。


 同じ教室ではなく、別々の教室で受験するようだ。

 この子に迷子になられては、楓先輩に申し訳が立たない。



「シュドウ君、シュドウ君」

「なんだよ光源氏」

「約束覚えてる?」

「約束?なんの?」

「あれ」

「あれ?」



 なんだっけ約束って。

 この子は必要最低限の事しかしゃべらないので、何を言ってるのかよく分からない。

 話が終わる前に、神宮司の受験会場となる教室につく。


 この教室は、小学校3年生の時の教室。

 俺と太陽は、ただの悪ガキだった。



『チャチャチャチャ~』

『先生、花子が生徒会長になったって』

『全校生徒を花子が(おど)した~』

『あははは』



 小学校3年生の時。

 俺と太陽は、同じクラスのとても可愛い女の子に出会った。

 クラスのみんなが、その子の描いた絵を褒める中。

 当時小学3年生だった俺は、初対面のその子に余計な一言を言ってしまう。



『見て見て朝日くん。ゆいちゃんの絵、綺麗でしょ?』

『ああ、そうだな。どうだ高木?』

『誰これ、宇宙人?』



 成瀬の姉さんに目を付けられたのはその日から。

 もうあれから、随分と時が経つ。

 7年ぶりに訪れたこの教室に、俺は成瀬とではなく、この子と一緒に帰って来る。



「ほら、ここだぞ教室」

「終わったら迎えに来てくれる?」

「分かったよ、迎えに行くよ。お前すぐ迷子になるから、スマホにGPS搭載しとけって」

「スマホお姉ちゃんに渡したよ」

「持って無いのかよ!?」

「試験会場に持って入っちゃいけませんって」

「ロッカーに入れてれば大丈夫なんだって。この前の試験でどんだけ探したと思ってんだよ」



 この前の英語能力検定の時と一緒。

 また神宮寺がスマホ置いてきたようだ。

 俺がこの教室に迎えに来た時、神宮司はちゃんとこの教室に残っているのだろうか?





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





(キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン)




「試験を終了して下さい」

「うわ~」

「どうだった~」

「楽勝だろ楽勝~」



 おっきいお兄ちゃん、小学生に交じって漢字技能検定4級終了。

 1・2問微妙な問題があるが、まあ、大丈夫だろう。

 これ満点取らないと楓先輩から怒られるやつか?

 合格してれば問題無いよな。



「まさひこちゃん~」

「ママ~ちゃんと出来たよ~」

「偉いわ~まさひこちゃん」



 まさひこ?

 この前英語の試験の方にもいたような。


 まあ良いか。

 さて終わった。

 帰って明日の期末テストの予習を……。




『光源氏忘れてた』




 このまま帰るところだった。

 迎えに行かないとあの子。


 60分の試験終わってマッタリしてたよ。

 ヤバいよあの子、すぐに消える。

 

 1回いなくなったら探すのが大変なんだよあの子。

 この前パン研の歓迎会行った時も大変だったし。

 ちょっと目を離すとすぐに消える。


 すぐに教室を出て、小学3年の時の教室に向かう。

 試験終わってすぐ。

 迎えに行くから待ってろって言ってるし、さすがに教室に残って……。



『消えた』



 マズイよちょっと。

 今頃学校の門の近くで黒光りの神宮司家お迎えカーが送迎待機してるに決まってる。


 受験会場までは公共交通機関使えってあれほどアナウンスしてるのに、何やってんだよ保護者。






~~~コインパーキングにて送迎待機中の黒い車両~~~



「楓お嬢様、予定終了時刻です」

「玉木さん、ご褒美の準備を」

「こちらに」

「葵ちゃんのお迎えに行ってまいります」

「お気をつけて」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~






 神宮司どこに行った?

 教室にいろって言ったのに、なんですぐに消えるんだよあの子。

 勝手に動き回るなよ……あれ?


 俺と太陽が小学3年生だった時の教室。

 神宮司の座っていた机。

 落書き。


 小学生にしては綺麗な落書き。

 きっとあの子が描いた落書き。

 その証拠に、葵と名前が書いてある。 


 あまりにも簡単で、暇になって机に落書きしてたのかあの子?

 

 ……あいあい傘。

 外は雨だし、傘の落書き?


 あいあい傘の落書き。

 この傘、斜め右に傾いてる。


 右に葵と名前が書いてある。

 左は……空白。

 

 勝手に落書きしてんじゃないよ。

 今はそんな事はどうでも良い。


 どうするあの子?

 明日期末テストだって言うのに、本当に手がかかる。

 古文の勉強教えてもらってる、むげには出来ない。

 どこに行ったかも検討がつかない。


 そうそう、スマホ。

 電話すれば良いんだよ、ラインで電話出来るよなたしか。



(プルプル)



(「楓です」)

(「楓先輩!?」)

(「守道君?」)



 なんで神宮司のスマホに電話したら楓先輩が出てくるんだ……。

 あっ。

 そうだった。

 神宮司、お姉ちゃんにスマホ預けてるって言ってたのすっかり忘れてた。



(「守道君、これから正門まで迎えに行きます」)

(「あ、あの楓先輩。実は……」)

(「じゃあまた後で守道君」)



(ブチッ)



 楓先輩に妹が行方不明になったと言いそびれた。

 もう先輩は正門に向かってる。

 マズイな、あの子すぐに探さないと。


 どこ探す?

 どうやって探す?

 また迷子の捜索だよ。


 俺この前、平安高校で行われた英語能力検定4級であの子が行方不明になった時に、どうやってあの子見つけたっけ。



『未来ノートの最終ページ』



 まさか。

 ここで相棒を頼るか?

 未来ノートは、テストの問題だけ見えるだけのノートじゃないのか?


 あの子はお姉ちゃんにスマホ預けてる。

 連絡しても意味がない、楓先輩に繫がるだけだ。

 カバンから未来ノートを取り出す。

 藍色の未来ノートの最終ページを開く。



『人体模型』



 ……壊れてる、未来ノート。

 ちょっと待て、人体模型?



『理科室』



 すぐに向かう。

 人体模型は理科室にしかない。

 俺が小学3年生の時に、成瀬を泣かせて太陽と逃げ込んだ理科室。



(ガラガラガラ)



 ……いない。

 光源氏どこにいった?

 未来ノート。

 相棒の最終ページを開く。




『桐の木』




 桐?

 桐の木なんて……あるよ、あそこに。


 校舎を出る。

 傘をさす。

 校舎の裏庭へ向かう。


 学童クラブのある建物を通り過ぎる。

 俺と太陽が、初めて出会った場所。


 見えてきた。

 桐の木の下で、藍色の傘をさした人が立ってる。

 間違いない、迷子のお姫様。 



「探したぞ」

「やっぱり迎えに来てくれた」

「お前……ワザとだろ」

「なにが?」

「教室にいろって言ったぞ」

「迎えに来てくれるって言った」

「ちゃんと来ただろ」

「ちゃんと来てくれた」



 自分で迷子になっておいて、何なんだよこの子。

 突然。

 神宮司が持っていた傘を手放す。



「バカだろお前、濡れるだろ」

「えへへ」



 傘を差し出し、彼女が濡れるのを防ぐ。

 桐の木の下。

 白い未来ノートを捨てた場所。


 近くにある小さな池。

 梅雨空から降り続く雨粒が池に落ちる度、波紋が広がる。

 池の中で、鯉が泳ぎ回る。



「約束」

「なんだよ」

「この前の本」

「本?本って……」

「約束」



『心は必ず強くなる』



 約束していた。

 数馬にすぐに見せたくて、確かにこの子の願いを叶えるとか言ってしまった。



「夏祭り」

「夏祭り?」

「野宮神社のお祭り」



 御所水通りから続く小高い場所に、地元の夏祭りが毎年行われる神社が1つある。

 野宮神社、名前まで知らなかった。



「連れていって」

「連れてく?誰を?」

「わたし」

「ウソだろ。俺は勉強しないといけないから」

「8月」

「うっ」



 8月にテストは無い。

 断る理由が見つからない。



「何でもお願い1つ叶えてくれるって言った」

「い、言ったよ……」



 地元の夏祭りは、毎年太陽と2人で行ってる。

 地元の民なら誰もが良く夏祭り。

 俺は今まで毎年夏祭りに行ってるが、嫌でも目立つ神宮司姉妹の姿を見た事は1度も無い。


 俺は毎年、成瀬の浴衣姿に心を躍らせてきた。

 俺にとって、中学生まで女の子と言えば成瀬結衣だけだった。



「知ってるシュドウ君?」

「な、なんだよ」

「ウソついたら、ハリセンボン飲むんだよ」

「チクチクして痛いだろそれ」

「そうだよ、痛いよ」

「マジか」



 桐の木の枝から、雨粒が雫となって傘に落ちる。

 裏返しになった藍色の傘は、地面に落ちたまま。



「葵ちゃん、ここにいたの?」

「あっ、お姉ちゃん」

「楓先輩」



 神宮司楓先輩が来た。

 帰りが遅いから、ここまで探しに来てくれたようだ。



「お姉ちゃん、あのねあのね。今度の夏祭り、シュドウ君が連れて行ってくれるの」

「まあ、良かったわね葵ちゃん」

「ちょ、ちょっと待って下さいよ。俺そんな約束」

「約束したよね?」

「うっ」



 ルールを守れ。

 校則を守れ。

 人との約束を守れない男が、ルールなんて、守れっこない。

 成瀬ともまわった事が無い夏祭りに、いつの間にか女の子と一緒に行く約束をしてしまっていた。



「守道君」

「は、はい楓先輩」

「明日から期末テストですね」

「はい」

「3級」

「はい?」

「10月にあります。次も葵ちゃんと一緒に頑張りましょうね」

「ちょ、ちょっと待って下さい楓先輩!?」

「お姉ちゃん、シュドウ君も3級受けるの?」

「そうよ葵ちゃん」

「わたしも頑張る!」



 永遠に終わらない試験地獄。

 10月は英語能力検定3級がすでに控える。



「楓先輩、俺10月英語能力検定もあるんですって」

「お姉ちゃん、葵は?」

「守道君と一緒に頑張る?」

「うん!」



 光源氏がまた俺と同じ試験を受けると言い出した。



「楓先輩、2つも試験同じ10月に受けるのはさすがに」

「守道君のお姉さんにもご報告済みです」

「詩織姉さんですか!?」



 なんでここで詩織姉さんの名前が出てくる?

 楓先輩は独断で、俺に資格試験受けさせるようなこんな事してたんじゃなかったのか?

 意味が分からない。

 まるで、年上の先輩たちの手のひらで踊らされているようだ。


 神宮司姉妹に振り回される俺。

 小学校、母校の桐の木の下で交わされた2つの約束。


 8月の夏祭り。

 初めて交わした女の子との夏祭り。

 そして10月、級が上位になる漢字技能検定。

 

 今日の試験が終わり、自宅アパートまで車で送ってもらう。

 これでようやく、全力予習が再開できる。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






(キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン)




 相棒の本気。

 今日この時、この日限りかも知れない、未来ノートに映し出される期末テストの未来の問題。



「それではテストを始めて下さい」



 期末試験、初日。

 1限目、数学のテスト。

 問題用紙を表にする。



『COS45°=「   」』

『COS120°=「   」』



 数学の余弦定理。

 S2クラスのみんなにとって、特に上位2位の成績を取る結城数馬、岬れなにとって。

 この問題は、基本中の基本であり、簡単な問題なのかも知れない。


 苦手科目、数学。

 藍色の未来ノートは、俺に未来の数学の問題を映し出してくれた。


 今の俺は、上だけ向いている。



『S1クラスへ昇格する』



 まるで途方もない、身の丈を遥かに超える目標。

 成績最下位の俺が、これからS2のトップを目指して、結城数馬と肩を並べようという、突拍子もない目標かも知れない。



『戦えますか?』



 弱かった俺の心に檄を飛ばす、重い重い言葉。

 折れた心は先生に支えられた。

 やる気はいつだって友達から与えてもらった。


 上を目指す途方もない目標。

 身の丈を遥かに超える目標への(いただき)を目指す時は、あの人がいつも俺の心を奮い立たせてくれる。


 自力というにはおこがましい、未来ノートを使った俺の挑戦。

 明日には消えているかも知れない、気まぐれな相棒が映し出す未来と一緒に俺は戦う。


 遥かな上への頂を目指して始まる期末テストは、まだ、始まったばかり。


 



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