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136.「追いかけたい背中」

 新図書館で探していた楓先輩紹介の本『心は必ず強くなる』。

 先に手にしていた神宮寺から数馬の手に渡る。

 今一番出会いたい本と出会えたと、数馬がとても喜んでくれて俺も嬉しかった。


 数馬が本を読んでいる間、俺は自習室で楓先輩から大量に渡されていた漢字能力検定4級の過去問を解いた。


 これでもかと何年分も渡されていた過去問。

 正直、今の俺の実力なら余裕でいけそうな漢字レベル。

 量が半端ないので、解き切れなかった過去問は試験の当日朝にでも演習する事にする。


 小学生でも受験する漢字能力検定4級の試験。

 元々5月のゴールデンウィークあたりから、楓先輩の現代文鬼問題集の演習を繰り返し解いていた。


 ラジオ英会話を終わらせた後は、いつも楓先輩の問題集と向き合っていたおかげで試験の過去問がとても簡単に感じた。 


 数馬と一緒に第二校舎2階にある新図書館を後にする。


 靴に履き替えるために第一校舎下駄箱を経由して下校する。

 あれ?

 下駄箱の靴に何か入ってる。

 イタズラか?




―――――――――――――


 生徒会頑張ってください。

 あなたの事を応援しています。


―――――――――――――




 イタズラでは無かった。

 紫の手紙。

 差出人は不明。

 俺が生徒会に入った事を知ってる?

 いつからか、下駄箱に入るようになった誰だか分からない不思議なエール。


 学内で誰か俺の事を応援してくれる人がやはりいるようだ。

 一方通行の不思議な手紙に書かれた綺麗な文字に、胸の鼓動が高鳴る。



「どうしたんだい守道君?」

「いや、何かなこれ?」

「凄いじゃないか守道君。ファンレターだよきっと」

「女子?」

「男子の可能性もあるね」

「マジか!?なんでそう言えるんだよ!?」

「僕もたまに男子からくるよ」

「たまにきちゃダメだろそれ!?」



 恋愛マイスターの数馬の話では、ファンレターは女子とは限らないようだ。

 不思議なエール、絶世の美女の妄想が一瞬にして砕け散る。

 


「守道君、期待値が高いほど人は大きく失望する」

「観音様かよ数馬。もの凄い期待しちゃってたよ」

「気持ち半分、可愛い女の子ならラッキー」

「男子来たら、立ち直れなくなるだろこれ」



 不思議なエールの期待値が高かった俺。

 マイスターに言われて冷静になる。

 俺の妄想天女は、羽衣を身にまとい天へと帰って行った。

 数馬と2人で校舎の外に出る。



「あ」

「あ」

「おっと、ここにもお姫様が」



 出た。

 S1クラスの空蝉姉妹。

 2人とも下校時間はとっくに過ぎてるのに、こんなところで何してんだ?



「ありがとう、野球部に寄ってくれたんだね」

「マジか」



 双子姉妹が2人とも顔をそらす。

 そういえばこの前、数馬と一緒にこの子たちの働いてた空蝉屋に寄った。

 数馬がケガしていなくなったせいか、野球部のマネージャーを最近サボってたこの子たち。


 誰かがいないからやらない。

 あの時の双子姉妹は、楓先輩という目標が無くなって野球やめたいと言い出した太陽と同じように感じた。

 この時間にここにいるって事は、今日は野球部に顔を出したのか?



「迷惑でなければ送るよ」

「結城君」

「結城君」

「お店までこの子たち送ってく気か数馬?」

「いつもお迎えにきてもらっていた、そのお礼さ」



 数馬の言うお迎え。

 いつも俺と数馬のいるS2クラスに、おそらく数馬のファンであろうこの子たちがしょっちゅう迎えに来ていた。

 そのお礼に今度は家まで送迎するらしい。

 モテる男のやる事は違う。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





「おこしやす~」



 御所水通り商店街にある空蝉屋。

 特にここに用事が無かった俺も、数馬と同伴でお店に着席。



「どうぞ」

「どうぞ」

「どうも」

「どうも」



 空蝉姉妹からお茶とおはぎが配膳される。

 空蝉餅と言うらしい、美味しそうなおはぎ。



「高木ちゃん~おこしやす~」

「婆ちゃん、元気?」



 コンビニの常連、産業スパイの婆ちゃんに挨拶。



「ありがとうね高木ちゃん、うちの子と仲良くしてくれて~」

「仲が良いのはこっちの男の子だよ婆ちゃん」

「結城です、こんにちは」

「まあまあ~」



 婆ちゃんにとっては同じ高校に通うこの子たちの同級生。

 会計がどうなのか不明だが、ここまで来て野暮な事は考えない。

 出された物は遠慮なくいただく事にする。


 店の中にある4人掛けの席。

 数馬と並んで座り、向かいに空蝉姉妹が座る。

 不思議な時間。

 2人の目当ては数馬なので、俺は勝手におはぎを食べ始める。



「生徒会」

「生徒会」

「なんだい?」

「おめでとうございます」

「おめでとうございます」

「ありがとう」



 数馬と双子姉妹の話を、俺は隣でおはぎをつまみながら聞く。

 俺も数馬と同じ生徒会メンバーらしいが、俺へのおめでとうのオの字も聞こえてこない。


 2人の女子に祝福される生徒会の結城数馬。

 その様子を監査する生徒会監査人の俺。



「いよいよ地区予選だね」

「うん」

「うん」

「右手が治ればまた練習を再開するよ」

「本当?」

「本当?」



 さすがの俺も少し場違いだと感じ始める。

 数馬の話に聞き入る双子。


 数馬の話にフンフンうなずく。

 その様子を監査する俺。



「3年生はいずれ卒業する。そうなれば僕のチャンスだ」

「チャンス?」

「チャンス?」



 向かいに座る双子姉妹の視線が数馬に釘付けになる。

 目がウルウルしてるよ2人とも。


 数馬の言葉に力強さが戻っている。

 なにより滑舌が良い。

 ケガをする前の、絶好調の数馬の力強さを言葉に感じる。


 藤原先生に言葉をもらって、俺の見せた本も何か数馬に影響があったのかも知れない。

 野球をやる気満々の数馬。

 ケガが治れば、いずれ俺の隣から野球部のグラウンドへ戻っていくだろう。



「見ていて欲しい、僕が復活する姿を」

「はい」

「はい」



 俺だけ蚊帳の外。

 3人の世界。

 どう見ても口説いてるようにしか見えない。


 おはぎはもう食べ終わった。

 超旨かった。

 こういう時は詩織姉さんと同じようにお茶をすすって心を落ち着かせよう。



(ズズッ)



「熱っつあぁ!?」

「守道君?」





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





 夜、太陽の家の小さな公園。

 街灯が1つ、薄暗い夜を照らす。


 太陽が昔使っていたグローブを手に、2人でキャッチボール。

 今日は2人で会う約束をしていた。

 太陽は甲子園に繫がる高校野球地区予選を間近に控える。


 約束されていない太陽のベンチ入り。

 野手は厳しいだろうが、ピッチャーなら1年生でも登板機会のチャンスがあるかも知れないと常々話していた太陽。

 楓先輩はこの夏の甲子園が終われば野球部から離れてしまう。


 1年生の太陽にとっては、来年活躍しても意味がない。

 俺でも取れる緩いボールを優しく投げてくれる太陽。



(パンッ!)




「どうだシュドウ?生徒会監査人は?」

「毎日監査されて俺はたまったもんじゃないよ」

「はは、なんだよそれ。そもそもどうやって生徒会に入れた?」

「またダマされたんだよ。数馬から右腕になれって言われて、断れなかったんだよ」

「なるほど、サンキューなシュドウ。数馬に付き合ってやってくれてよ」

「あいつの右腕だから当たり前だろ」



(パンッ!)



「今日も来てたぜあの双子」

「S1の空蝉姉妹か?」

「一時見えなくなったが、最近また来るようになった。楓先輩と真弓先輩も大分気にかけてる」

「マジか」



 あの姉妹が野球部にマネージャーとして戻っていた話は本当のようだ。

 俺は知ってる。

 彼女たちのやる気は、結城数馬の言葉が影響している。

 楓先輩と真弓姉さんがあの姉妹を気にかけているらしい。



(パンッ!)



「やるぜシュドウ、俺はやる」

「随分やる気だな太陽」

「楓先輩が見てる。ここでやらないと男が廃る」

「この前まで心がポッキリ折れてた男のセリフじゃないな」

「うるせえよシュドウ」



(パンッ!!!)



「痛てぇ!?強く投げるなって太陽!」

「ははは、悪い悪い」



 太陽からキャッチボールの強い球が飛んでくる。


 太陽は楓先輩が見ている影響で、ベンチ入りを目指して頑張ろうとしている。

 自分自身の力で、胸を張って楓先輩を甲子園に連れて行きたいと本気で考えている。

 その事だけを考えて、中1の時に初めて楓先輩に一目惚れしたその日からずっと夢見て来た舞台のステージに今まさに挑戦しようとしている。



「まだレギュラーは約束されてねえ。でも俺はベンチ入りを諦めねえ」

「その意気だ太陽。試合に出れないと戦えないもんな」

「ああ」



(パンッ!)



「土曜日の試合、もうすぐだな」

「ああ。少し話すか」

「おう」



 キャッチボールをやめて、ベンチに2人で座る。

 男同士の話をする時は、いつも決まってこの公園とこのベンチ。


 楓先輩への告白を決意し、機が熟したと語った太陽。

 最初上手くはいかなかったが、延長戦に突入している太陽と楓先輩の試合。



「地区予選とか地元のテレビ中継あるもんな。テレビに太陽が出るとか考えるだけでワクワクするよ」

「ベンチ入りできなきゃ、アルプススタンド直行だぜ」

「その時はまた野球やめるとか言い始めるなよ」

「そうならないように最後のチャンスに賭けてんだよ」



 太陽の言う最後のチャンス。

 


「数馬から言われてる」

「数馬から?」

「俺の分も投げてくれって」

「背負うものデカすぎだろそれ」

「ああ、だから俺は最後まで諦めねえ」



 太陽の肩にかかる責任、楓先輩だけでは無かった。

 数馬から、自分が投げられない分も投げて欲しいと太陽は頼まれたようだ。


 太陽の目が本気だ。

 次の土曜日の練習試合、ベンチ入りメンバーを決める最後の競争に望みを託している。

 甲子園への絶対条件。

 ピッチャーとして地区予選で、ベンチ入りメンバーに選ばれる事。



「シュドウの次の試合は、期末テストか?」

「漢字技能検定もある」

「ははは、大変だな」

「お前の楓先輩に勝手に申し込まれたんだって」



 何かと俺の勉強を気にかけてくれていた神宮司楓先輩の話。

 蓮見詩織姉さんが生徒会副会長だった話。


 近況を太陽に話す。

 逆に太陽は一度はフラれた楓先輩の最近の行動に言及。



「また弁当かよ!?」

「ま、まあな」

「もう彼女じゃんそれ」

「違うぞシュドウ、甲子園行けなかったら止まるだろ弁当」

「マジか、もらい続けるには行くしかないだろ甲子園」

「分かってる、分かってるって」



 まるで自分に言い聞かせるように強く語る太陽の胃袋は、楓先輩のお弁当でわしづかみにされているようだった。



「そういうシュドウはどうなんだよ?」

「今日も副会長に呼び出された」

「マジか、どこにだ?」

「拷問部屋だよ」

「拷問部屋?」



 俺が監査された詳細を太陽に報告。



「ははは、楽しそうだなシュドウと数馬」

「笑えないって。怒りプンプン丸だぜうちの姉さん」



 最近の近況を太陽と話し合う。

 今週の予定。


 太陽は土曜日、ベンチ入りをかけた練習試合。

 日曜日は、俺の漢字技能検定4級の試験。

 

 7月に入れば、スケジュールは俺も太陽もさらにタイトだ。

 まず7月上旬に期末テスト。

 期末テストが終われば、次の週から高校野球地区予選がスタートする。



「シュドウも大変だな」

「太陽の方が大変だよ」

「期末テスト頑張れよ」

「試合頑張れよ」



 互いを励まし合う。

 太陽と俺の戦うフィールドは違うかも知れない。

 太陽は来月7月、期末テストの終了後、一発勝負の高校野球地区予選。

 まずはそこに向けたベンチ入りを目指す戦いが始まる。

 

 俺は来月、夏の期末テストを控える。

 ここで良い点を取れなければ、詩織姉さんから発破をかけられているS1クラスへの道は完全に閉ざされる。

 太陽が甲子園出場メンバーを目指していると話すくらい、S1クラスへの入る条件を満たすのは俺にとっては途方もなくハードルが高い。


 赤点を取らない事だけを考えて、下ばかり向いていた俺。

 最後に奮い立たせてくれたのは、俺の姉さん。



『戦いましょう』



 俺は戦わないといけない。

 詩織姉さんに誓わされた。

 その相手はテストであり、頭の悪い自分自身でもある気がする。

 10科目、1000点満点で800点も取らないとS1クラスには上がれない。

 昇格への最低ライン。


 太陽も俺と同じような約束を、年上の女性から言われていた。

 太陽は太陽で、大事な約束を果たさなければいけない。



『私を甲子園に連れて行きなさい』



「なあ太陽」

「なんだシュドウ?」

「頑張るしかないな俺たち」

「ああ、そうだな」



 お互い、負けられない戦いが待っている。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





「ただいま~って、誰もいないか」



 誰もいない自宅アパートに戻ってくる。

 日々続けている英会話レッスン、現代文と古文の問題集の演習。


 もう7月上旬の期末テストまで時間は残り僅か。

 時間は無い。

 ただ、今の俺に出来るだけの努力を続けるしかない。


 今日の授業終わり。

 結城数馬と新図書館に向かった事を思い出す。


 新図書館に向かったのは、楓先輩から見せてもらったあの本を数馬にも読ませてあげたいと思ったから。



『心は必ず強くなる』



 あの本がどこのコーナーになるのか調べるために、蔵書検索のため座った新図書館の共用パソコン。



『憂鬱』



 以前。

 あのパソコンで、未来の現代文の漢字問題が検索されていた痕跡があったパソコン。



『墾田永年私財法』



 再び同じ現象が起こった。

 今度は藍色の未来ノートに映し出された1ページ目、日本史の未来の小テストの問題。

 その第1問。

 なんでパソコンの最新履歴に、未来ノートに映し出された第1問目の問題が検索されていた?


 カバンから相棒を取り出す。

 急に未来の問題をまた見せてきた俺の相棒。

 藍色の未来ノートの1ページ目を開く。



『聖武天皇は―――さらに743年「墾田永年私財法」の詔を発した』



 相棒の1ページ目。

 ご丁寧に青い色の答えまで浮かび上がったまま。


 相棒はいつも気まぐれ。

 たまに俺に未来の問題を見せてくれる……。


 ……あれ?

 藍色のノートの2ページ目を開く。

 


『COS45°=「   」』

『COS120°=「   」』



 数学の余弦定理!?

 問題量が半端なく多く映し出されてる、何だよこれ、1ページ目の少ししかない日本史の問題量とは圧倒的に量が違う。


 数学は問題だけ、答えなし。

 問題だけギッチリと相棒の2ページ目と3ページ目に映し出されている。

 ボリュームが多い。

 まるで。



『期末テストの問題』



 ウソだろ。

 まさか。

 相棒の4ページ目を開く。



『「菅原道真」は大宰府に左遷され没した。京都の北野天満宮が創建され――』

『「藤原道長」は甥の伊周との争いを勝ち、内覧・摂政・太政大臣を務め――』



 今度は日本史!?

 1ページ目の小テスト程度の分量とはまるで違うボリューム。


 4ページと5ページにまたがって、大量に日本史の問題が浮かび上がる。

 青い答えまで一緒に……数学は問題だけ出て、日本史が答え付きで浮かび上がるのは一体どういうわけだ?


 また未来ノートが壊れた。

 俺の相棒、どんだけ気まぐれなんだよ。

 6ページ目を開く。



『This is my first time visiting a American supermarket―—』

『Question:1.food were sold mostly in stall amounts――』



 鬼門の英語だ。

 なんだよこれ……相棒の6ページ目から14ページまで全部英語!?

 確認しろ、期末テストの時間割。


 初日の期末テスト、1限目は……数学。

 マジかよ。


 2限目は……日本史。

 次は?

 3限目……英語。


 ここまでは、ここまでは全部期末テストの日程と相棒のページの順番は同じ。

 2日目の期末テストの時間割はどうだ?


 2日目の時間割は、1限目が化学。

 どうなんだよ相棒?

 次、15ページ目。



『化学結合に関する記述として誤っているものを次から選べ―――』



 化学だ。

 もう間違いない。


 次も。

 次の次のページも。

 その次のページも全部そうだ。



『未来で俺が受ける期末テストの未来の問題』



 まるまる全部問題が未来ノートに浮かび上がるのは、平安高校の入試の時以来だ。

 答えも出たり出なかったり。

 次のページも、その次も。

 全部だ全部。

 これ、絶対期末テストの問題。


 ……あと。

 あと期末テストの初日まで、あと何日ある?

 

 

『1週間』



 試験は来週の月曜日から。

 短すぎる。

 でも、やるしかない。


 相棒が突然本気出してきた。

 本気で全問、期末テストの問題を俺に見せてきた。

 気まぐれ過ぎる藍色の未来ノート。


 平安高校の入試問題、暗記する時間は1カ月あった。

 今度はたったの1週間。

 しかもこれから分からない問題を調べ始める。


 なんだよこの断崖絶壁の状況。

 太陽と一緒じゃんかよ。

 あいつ、レギュラー約束されてないのに、直前のベンチ入りメンバー決定試合に最後の望みをかけてる。

 

 戦わないと、俺も。

 太陽が戦ってる。

 数馬も未来に向けて歩き出してる。




――――――――――――


4月学力テスト


S2クラス 1位  結城数馬 438点

S2クラス 2位  岬れな  412点

       ・

       ・

       ・

S2クラス 最下位 高木守道 140点 赤点


――――――――――――





 やるしかないのか、この状況で。





――――――――――――


5月中間テスト


S2クラス 1位  結城数馬 814点

S2クラス 2位  岬れな  766点

       ・

       ・

       ・

S2クラス 最下位 高木守道 590点


――――――――――――




 この2カ月の大きなテストの2つだけで、S2トップの結城数馬と、500点以上差がついている。

 


『やるぜシュドウ、俺はやる』

『随分やる気だな太陽』

『楓先輩が見てる。ここでやらないと男が廃る』



 数馬に死球を与えてなお、負傷した数馬から託されて投げようとしてる太陽。


 相棒が俺に未来の問題を見せてくれてる。

 全部じゃない、一番苦手な数学は問題だけ。

 第一問の余弦定理の答えを調べるだけで、俺は何分かかる?


 藍色の未来ノートは、俺にいつもメッセージを投げかける。

 2人の背中を追いかけろと叫んでいるように思えてならない。


 数学の答えは自分で調べろ。

 そう言いたいんだろ相棒?


 期末テスト初日は1週間後。

 数学の第1問、余弦定理から調べ始める。


 クソっ。

 苦手の数学、全然問題が分からない。

 調べるしかない、どうしても時間がかかる。


 気まぐれな相棒が本気を出して未来の問題を見せてくれている。

 次にテストの問題がノートに映し出される保証は一切ない。

 


『やるぜシュドウ、俺はやる』



 太陽が泥水すすってでも上に這い上がろうとしてる。

 数馬は怪我をしてなお輝き続ける。 


 太陽は甲子園を目指す。

 数馬はS2のトップを独走してる。

 俺も追いたい、太陽と数馬の2人の背中を。

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