133.第14章サイドストーリー「叶美香は壊したい」
高木守道、朝日太陽たちが平安高校に入学する2年前。
(キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン)
1年生の入る第一校舎、3階。
特別進学部S1クラス、古文の授業。
教壇に立つ、枕草子先生。
「それでは授業を始めます。まずは先日のテストの返却から。神宮司楓さん」
「はい」
「素晴らしい、よく頑張りました」
次々と小テストの解答用紙が返却されていく。
特別進学部S1クラス、ある1人の女子生徒が続けて呼ばれる。
「叶美香さん」
「はい先生」
「難しいテストでした。満点を取れたのはあなたと神宮司さんだけでしたよ」
(おお~)
古文の小テスト。
生徒たちをふるいにかけるべく、枕草子先生が作った難問の小テスト。
満点を取れた生徒が特別進学部S1クラスに2名あらわれる。
神宮司楓、そして叶美香。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン)
特別進学部S1クラス1年生、神宮寺楓の席に近づく1人の女子生徒。
「神宮寺さん、少し宜しくて?」
「何かしら?」
叶美香が神宮寺楓に声をかける。
S1クラスでひときわ輝く2人の女子生徒の会話に、周囲の生徒から羨望の眼差しが向けられる。
「単刀直入に言うわ。私と一緒に、生徒会に入って頂戴」
先に生徒会に名を連ねた叶美香。
求めていたのは、神宮司楓。
「私は野球部に入ります」
「それで結構」
「あなたの力にはなれないわ、どうか別の方に」
「あなたじゃないとダメなの」
「どうして?」
粘り強く生徒会へ勧誘する叶美香。
神宮寺楓に声をかけたのには理由があった。
「あなたのお父様、私が誰だか知らないと思って?」
神宮寺楓の家元をあえて口にする叶美香。
口をつぐむ神宮寺に、叶美香は話を続ける。
「あなたの力を貸して欲しいの」
「私に力なんてありません。あるのはお父様の名前だけ」
神宮寺道長。
平安高校理事長のネームバリュー。
偉大な父の名前に束縛される神宮司楓。
その力を借りたい叶美香。
「神宮寺さん。今の生徒会は腐敗してるわ」
「腐敗?」
「生徒会長も3役はみんなダメな男たちばかり。わたしはただの会計担当、女性の3役が一人もいないのあなたはご存知?」
「それは……知りませんでした」
叶美香が生徒会に入った際、平安高校の生徒会は完全な男社会。
名門校の生徒会。
世間体、校内での名声、大学への推薦入学に有利になる。
その平安高校生徒会というブランドに、男たちがしがみつく。
生徒会長以下、生徒副会長、書記長ら3役はすべて、長年男子生徒が役職を歴任していた。
女子生徒は書記、会計担当、それが長年の慣行であり、悪しき文化。
「昨日の夕方。正門前で不審者情報があったの、あなたご存知?」
「えっ?」
「生徒会室で声かけ運動をしましょうって提案したの。生徒会長、私になんて言ったと思う?」
「叶さん……」
熱い気持ち。
強い口調で語る叶美香。
「変えたいの。変わらないなら、このわたしが叩き壊してやるわ」
「叶さん」
「お願い楓。このわたしに力を貸して頂戴」
神宮司楓が生徒会に名を連ねたのは、それから間もなくの事であった。




