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124.「date or study?」

(キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン)



 6月、英語の授業。

 S1クラス担任、叶月夜先生。

 白いスーツをいつも着ている英語教師。



「前回の授業で実施した小テストを返却します。氏家さん」

「はい」



 成瀬や神宮寺がいる、隣のS1クラス担任教師。

 今返却しているのは、前回実施された英語の小テストの解答用紙。



「高木さん」

「はい」

「満点ね、素晴らしいわ」

「おお~」



 高木守道が小テストで満点を取ると、S2クラスがどよめく。

 満点を取れたのには理由がある。

 相棒が未来で俺の受けるはずのこの小テストの問題と答えを、事前に教えてくれたおかげ。


 相棒は気まぐれ。

 5月の中間テストの英語では、問題しか映し出す事が無かった藍色の未来ノート。

 6月に入り、突然小テストとはいえ英語の問題も紫色の答え付きで映し出すようになる。


 ある程度の英語力が身に付いてきた俺。

 答えまで分かれば暗記は容易であり、実力7割といった小テストを、未来の問題と答えが分かっている事で満点を得点する事が出来るようになっていた。


 ラジオ英会話を毎日聞いて、テキストの英文を毎日書き写す。

 覚えた英単語は、ローズ・ブラウン先生の英語コミュニケーションⅠの英会話でも役に立つ。


 以前苦手としていた英語関連の2科目は、俺の中で得意科目と言える科目になりつつあった。


 教壇で叶月夜先生から満点を取れた小テストを受け取る。

 嬉しい気持ちと、本来の実力であれば7割程度が限界だと感じる自分の実力の無さに歯がゆさを感じる。


 教室の前、教壇からS2クラス1番後ろの席に戻る途中、同じパン研の眼鏡女子。

 末摘さんと目が合う。



「やったね高木君」

「あ、ああ」






~~~~~末摘花視点~~~~



 高木君、何で満点取れたのにあんまり嬉しそうな顔しないんだろ?



~~~~~~~~~~~~~





「それでは今日の授業を始めます。皆さんには今日、映画を見てもらいます」

「映画だって~」



 叶月夜が持参したDVDをセットする。

 日本語字幕入りの映画が、教室のテレビモニターに映し出される。


 四人の子供が線路の上を歩く外国の映画。

 ネイティブ英語を映画から学ぶ、叶月夜のオリジナル授業。


 S2クラスの生徒たちが、食い入るように映画に夢中となる。

 





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 夜。

 自宅アパート。



(レッツ・スピーク・イングリッシュ~)



 毎日のノルマの英会話レッスンを家に帰ってから行う。

 今は成瀬結衣からもらった紫色のCDプレイヤーで2年前のラジオ英会話を聞く。



『レナお姉さま、水のクリスタルを守って』

『ジャンヌは風のクリスタルを守って』



 2年前の異世界ラジオ英会話。

 転生したら三聖女の一人がうちの嫁さんだった件。

 姉の聖女レナお姉さまが水のクリスタルを守るために水の国ベネチアへ旅立つ。

 それを見送る妹の聖女ジャンヌ。

 どうなるんだこの先?



(ピコン)



 ん?

 ラインだ。

 聖女の続きが気になるが、一度異世界ラジオ英会話をストップする。





――――― 高木守道ライン―――――



既読 結衣:『結城君が高木君と話がしたいって言ってるそうです』



   結衣:『高木君、お勉強中?』



―――――――――――――――――― 




 成瀬だ。

 そういえばいつの間にかライン交換してたんだったな。


 この前は太陽と数馬の事で頭が一杯だった。

 冷静に考えてみればいつの間にか成瀬とラインをやり取りするようになっていた。


 



――――― 高木守道ライン―――――



既読 結衣:『結城君が高木君と話がしたいって言ってるそうです』


既読 結衣:『高木君、お勉強中?』



   守道:『成瀬からもらったテキスト聞いてる』



―――――――――――――――――――





 こんなもんか。

 何だろ成瀬?

 なにか用かな。



(ピコン)




――――― 高木守道ライン―――――



既読 結衣:『高木君、お勉強中?』


既読 守道:『成瀬からもらったテキスト聞いてる』

   

   結衣:『お疲れ様です』


――――――――――――――――――




 どうも。

 


(ピコン)



 ん?




――――― 高木守道ライン―――――



既読 守道:『成瀬からもらったテキスト聞いてる』

   

既読 結衣:『お疲れ様です』


   結衣:『土曜日、映画で良いかな?』



――――――――――――――――――





 何の話だ?





――――― 高木守道ライン―――――


   

既読 結衣:『お疲れ様です』


既読 結衣:『土曜日、映画で良いのかな?』


   守道:『ごめん、何の話?』


―――――――――――――――――――




 映画?

 意味分かんないよ成瀬。



(ピコン)




――――― 高木守道ライン―――――


   

既読 結衣:『土曜日、映画で良いのかな?』


既読 守道:『ごめん、何の話?』


   結衣:『4級のお祝い。高木君が映画行きたいって、葵さんが』


―――――――――――――――――――






『なに話してんだよ光源氏』






――――― 高木守道ライン ――――――



既読 守道:『ごめん、何の話?』


既読 結衣:『4級のお祝い。高木君が映画行きたいって、葵さんが』


   守道:『俺土曜日バイトあるから行けないよ』


   守道:『予習で余裕がまったく無い』


――――――――――――――――――――





 土曜も朝からバイトだって成瀬。

 予習で余裕がまったく無い俺が映画なんて見に行ってる暇は無い。


 そういえば神宮司妹も俺と一緒に英語能力検定4級受験してたな。

 そもそも何だよお祝いって。

 俺のお祝い?光源氏のお祝い?

 成瀬も神宮司も宇宙過ぎて、2人が何考えて話してるのか全然分からない。




(ピコン)




――――― 高木守道ライン ―――――



既読 守道:『俺土曜日バイトあるから行けないよ』


既読 守道:『予習で余裕がまったく無い』


結衣:『葵さんが楽しみにされてたから一緒に行かない?もう断れないよ』


―――――――――――――――――――




 断れないとか……成瀬の事だから、どうせハイハイ返事しちゃったんだろうけど。

 これ、神宮司がただ遊びに行きたいだけじゃん。


 4級のお祝い。

 神宮司も合格してる。

 俺も合格。

 成瀬がお祝い。


 ちょっと待てよ。

 そういえばこの前、旧図書館で。



『結衣ちゃんが何が良いかって聞いてたの』

『成瀬がどうしたって?』

『シュドウ君はどうする?』

『知らないよ、なんの話だよ』

『じゃあ私が決めて良い?』

『好きにしろって』



 あの会話でどうやったらこうなるんだよ。




(ピコン)



――――― 高木守道ライン―――――


既読 守道:『俺土曜日バイトあるから行けないよ』


既読 守道:『予習で余裕がまったく無い』


既読 結衣:『葵さんが楽しみにされてたから一緒に行かない?もう断れないよ』


   結衣:『ラジオ英会話の劇場版。英語の勉強にもなると思うの』


――――――――――――――――――




 マジか。

 転生したら三聖女の一人がうちの嫁さんだった件、映画化されてたなんて知らなかった。


 そういえば叶先生も外国映画は英語の勉強に最適だって言ってたな。

 さしずめS1クラスの英語の授業でも、叶先生が映画流したんじゃないのか?

 神宮寺が映画見たいとか言いそうなタイミング。


 英語の勉強になる、叶先生が授業で言ってたな。

 悪くないか。




――――― 高木守道ライン―――――


 既読 守道:『予習で余裕がまったく無い』


 既読 結衣:『葵さんが楽しみにされてたから一緒に行かない?もう断れないよ』


 既読 結衣:『ラジオ英会話の劇場版。英語の勉強にもなると思うの』


    守道:『聖女なら行く』


    守道:『土曜日はバイト12時で終わる』


―――――――――――――――――――




 あれ?

 ちょっと待てよ。

 なんかラインでポンポン返しちゃったけど、俺。



『女の子と一緒に映画なんか見に行った事無いんだけど』




(ピコン)




――――― 高木守道ライン ―――――        


 既読 守道:『聖女なら行く』

                     

 既読 守道:『土曜日はバイト12時で終わる』


    結衣:『駅前に12時30分。葵さんにも伝えておきます』


  結衣:『お勉強頑張って下さい』


―――――――――――――――――――





 やっちまった。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






 翌日。

 学校が終わり自宅アパートに帰宅する。


 玄関の扉を開けようとすると、鍵が開いていた。

 そのまま家の中に入る。

 誰がいるのか、見当はついている。



「お帰りなさい~」

「紫穂」

「お邪魔してます~」



 俺のアパートの合鍵を唯一持っている、妹の紫穂。

 玄関のドアを開けると、良い匂いが漂ってくる。


 洗濯機が回る音。

 どうやら俺の身の回りの色んな物が洗濯されているようだ。


 紫穂と別居して半年以上が経過した。

 妹の優しさに頼り続ける出来の悪い兄。



「ちゃんと毎日食べてる?」

「バッチリ」

「また廃棄のお弁当でしょ~」

「モチ」

「ダメだよ~」



 食費はお昼以外ほぼかからない生活。

 ダメな兄の生活に妹は怒っている。



「お兄ちゃんも4級合格おめでとう」

「紫穂も合格?」

「当たり前でしょ~」

「だよな」

「お兄ちゃんが合格してる知って、お姉ちゃん凄く喜んでたよ」

「姉ちゃんって、詩織姉さんが?」

「お姉ちゃん以外に誰がいるのよ」

「そ、そうか」



 詩織姉さんが俺の英語能力検定4級の合格を喜んでくれていたらしい。

 紫穂の話に聞く家の中での姉さんの様子と、最近会う事が少なくなっていた家の外での姉さんの様子にかなりのギャップを感じるのは俺だけだろうか?



「わたしも4級合格したし、今度3級頑張ろ~」

「今度英語能力検定いつ?」

「10月だよ」

「マジか」

「成瀬先輩も準2級まで取ったし、わたしもそこまで頑張ろ~」

「成瀬そういえば準2級まで持ってるんだよな」



 中学生の妹の紫穂にとって、平安高校に通う成瀬は中学時代同じ美術部だった憧れの先輩。

 中学2年生になって妹の紫穂は、最近どんどん可愛くなってきた。

 制服姿の紫穂に、中学時代の昔の成瀬結衣が重なる。



「おい紫穂」

「なにお兄ちゃん」

「お前デートした事あるか?」

「なんでそんな事聞くのよ」



 成瀬の事を思い出し、突然の不安にかられる。

 俺は今、もの凄い悩みを抱えていた。

 付き合ってもいない友達の女の子と映画を見に行かないといけなくなった。


 太陽にも数馬にも相談できない悩みが、俺のスマホに重くのしかかる。

 試しに藍色の未来ノートを開いてみたが、1ページ目にも最終ページにも、答えはどこにも載っていなかった大きな。



「なにかお悩み?」

「そんなんじゃないけど、そんな感じ」

「はいはい。で、誰と行くわけ?」

「それは言えない」

「はいはい」



 誰か女の子と、どこかへ行きますと白状しているようなもの。



「妹に相談してみる?」

「うん」



 向かい合って座る。

 俺がお悩み相談。

 コメンテーターは妹の紫穂。



「一緒に行くのは男の子?」

「……女の子」

「どこ行くの?」

「映画……らしい」

「行き先はもう決まってるわけね」

「いつの間にか決まってた」

「何それ?」



 状況が複雑過ぎて、俺にもなんて説明して良いか分からない。

 結論だけ言えば、今度の土曜日に女の子と一緒に映画を見に行く。


 ただの英語の勉強会。

 俺は勝手にそう思ってる。



「お昼は?」

「分かんない」

「何時に集合?」

「バイト終わって12時半」

「じゃあランチからでしょ普通」

「ちょっと待って紫穂」

「なに?」

「メモ取る」

「は?」



 先日神宮司楓先輩の不審な行動を不思議に思っていた俺。

 事ここに至り、メモの重要性を再認識。


 予習は大事、メモはもっと大事。

 経験が無ければなおさら大事。



「いきなりレストランなんか行く必要ないわけ、分かる?」

「そ、そうか」

「お兄ちゃんなんだから、無理せずジャンクフードかフードコートでいいわけ」

「な、なるほど」



 妹からの絶妙なレクチャー。

 さすが女の子の意見は違う。

 聞いといて良かった。



「誰と行くわけ?」

「そんなの恥ずかしくて言えるかよ」

「ふ~ん、詩織お姉ちゃんと行くわけね」

「違うよ」



 詩織姉さんとは最近関係が微妙。

 俺にとっては都合の良い勘違い。

 その後俺は、コメンテーターから充実のレクチャーを受け続ける。


 妹とは素晴らしい存在。

 俺のお悩みの大半が解消した。

 成瀬のラインを断れば良かったと、今更ながら激しく後悔する俺。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 

 土曜日。 

 コンビニのバイトが昼12時に終了する。

 店の裏、従業員用バックヤードで、同じシフトに入っていた岬が俺に近づいてくる。



「あんた」

「ひっ、な、なんだよ岬」

「なんかうちに隠してるっしょ」

「何がだよ」

「どうも朝からソワソワしてんのよね」

「俺を勝手に観察するなよ岬」



 飼育員に勘づかれた?

 この後、絶賛成瀬、神宮司ペアとの待ち合わせ。


 映画見に行くのが同じクラスの岬にバレたら、S2クラスの全員に事の次第をバラされる可能性すらある危険な1日。

 絶対に口は割れない。



「明日の神戸、覚えてるでしょうね?」

「ああ、ちゃんと行くよ行く。数馬が行きたいって言ってんだから、行くしかないだろ」

「当然」



 明日の神戸市立王子動物園、岬から釘を刺される。

 今日は土曜日、明日は日曜日。

 明日はパンダ研究部初の新入部員歓迎会を兼ねたパンダ観察ツアーが予定されていた。


 南夕子部長が常々言っていた企画。

 勉強で余裕が無い俺は「検討します」と口を濁し続けてきたが、断れない事情が発生した。



『守道君、僕もぜひ参加させてもらいたい』

『数馬……』



 負傷兵の数馬。

 野球が出来ない数馬が、刺激を求めてパン研歓迎会の動物園ツアーに参加を申し出てきた。

 太陽の死球の一件に責任を感じていた俺。

 数馬も参加する明日日曜の神戸行きを断る事が出来なかった。



「明日ちゃんと行くから。俺部長にも言ってるけど、行きも帰りも動物園でも俺は勉強するからな」

「たくさん邪魔してあげるし」

「なに嬉しそうに言ってんだよお前は!」

「きしし」



 岬が満面の笑みで俺の邪魔をする計画を企てている。

 行きも帰りもラジオ英会話聞く気満々の俺をダークサイドに引き込もうとする。



「じゃあな岬、俺先帰るわ」

「家まで送ってってよ」

「昼間で明るいだろ!なんで今日に限って送迎頼むんだよ」

「あんたやっぱり様子が変ね」

「そ、そんな事無いよ。良いよ、さっさと帰ろうぜ」

「きしし」 



 駅前方向に向けてどのみちすぐ近くにある岬のマンションも寄る事になる。

 土日、日中のシフトに入る時はさっさと帰ってしまう岬が、今日に限って昼間の送迎を俺に依頼してくる。



「うち寄ってく?」

「んなわけいくかよ」

「何か予定でもあるわけね」

「勉強だよ、勉強の予定」

「ふ~ん」



 隠せば隠すほど腹の内を探って来る。

 終始ニヤニヤしながら俺の顔をのぞいてくる岬れな。

 

 日中の12時過ぎ。

 成瀬たちと待ち合わせの12時半まで時間が迫る。


 バイト先から御所水通りを歩き、あっという間に岬の自宅マンションに到着。

 マンションのエントランスで姫と別れる。



「じゃあな岬、また明日」

「時間、覚えてんの?」

「なに時間って?」

「アホ。京都駅5時」

「5時!?神戸行き始発じゃんかよ!?」

「そういう事。あんた早起き得意でしょ?」

「そりゃ早起きは得意だけど」

「いつもバイト頑張ってんだから、明日も早く起きな」

「痛てぇ!?」



 岬が俺のオデコにデコピンしてくる。

 気づいた時には岬れなは、マンション1階オートロックの扉の奥へと消えて行った。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





 12時30分が迫る。

 駅前に到着。

 ダッシュ高木、全力疾走。



「はぁはぁ」

「高木君」

「よ、よう成瀬」



 時間を守る男、高木守道。

 体力メーターがゼロに等しい。

 勉強会開始前にすでに体力は尽きている。


 成瀬結衣。

 私服、白いワンピに紫色のカーディガン。

 超可愛い。

 


「シュドウ君」

「はぁはぁ、よ、よう光源氏」

「遅刻」

「はぁはぁ。はい?」

「3分遅刻」

「はぁはぁ。ご、誤差だろ?」

「走ってきたの?」

「超走ったよ」

「えへへ」



 時間を守れない男、高木守道。

 女子2人を待たせて3分遅刻。


 神宮司葵。

 私服、青でもない、紫色でもない、藍色のワンピ。

 普段この子の私服を見ない分新鮮。

 さすが神宮司楓先輩の妹、超綺麗。



「お腹空いたね結衣ちゃん」

「悪い2人とも待たせて」

「高木君お昼は?」

「まだ。いつものとこで良いよな成瀬?」

「うん、そうだね」

「いつもの?」



 俺と成瀬のいつものところ。

 太陽と3人で通った、駅前のハンバーガーショップ。

 3人で初めて店内に入る。



「わ~」

「葵さんはここ初めて?」

「うん!」



 神宮司がハンバーガーショップに興奮してる。

 まるで子供みたいにキョロキョロと周りを見ている。

 レジの列に並んでいると、ケースに入れられたオモチャを発見。



「シュドウ君あれ」

「ハッピーセット買ったら貰えるぞ」

「わ~」



 レジの列がどんどん進んで行く。

 成瀬と神宮司、俺の3人の番がくる。

 成瀬結衣が最初に注文。



「チーズバーガーのピクルス抜きで、ドリンクはアイスティーで」

「かしこまりました」



 以前ピクルス入りで失敗した成瀬が、ちゃんとピクルス抜きで注文している。

 俺と太陽にとってはいつもの成瀬の注文風景。



「葵さんはどれにされます?」

「う~ん」



 神宮司妹、長考。

 列の後ろが並んでいるので、先に俺が頼むことに。



「ハッピーセットで」

「サイドは何になさいますか?」

「ポテトで、ドリンクはシェイクのバニラに変更して下さい」

「かしこまりました」



 しまった。

 いつもの調子で頼んでしまった。

 コメンテーター紫穂のレクチャーを今さら思い出す。



『お兄ちゃん、ハッピーセット禁止』

『ええ!?なんで!?』

『ちゃんとメモしといて』

『分かったよ』



 メモしたメモを忘れる。

 スマイル0円、店員の綺麗なお姉さんが続けて俺に優しく話しかけてくれる。



「オモチャはどちらにされますか?」

「えっと」

「ただいまAが『髭兄弟(リーマンブラザーズ)』、Bが『わくわく動物ランド』です」

「じゃあAで」

「申し訳ございません、あいにくAは在庫が無くなっておりまして」

「え~」

「ちょっと高木君」

「じゃあBで」



 ビニールの袋に入っている『わくわく動物ランド』。

 何が入っているかは後のお楽しみ。



「私もシュドウ君と一緒にする」

「葵さん」

「神宮司、悪い事は言わないからこれにしとけって」

「うん!」

「ちょっと高木君」

「自分で好きなの選べば良いだろ?」

「それはそうだけど」

「シェイクはストロベリーもあるぞ」

「ストロベリーにする」



 チーズバーガーセット1つ、ハッピーセット2つ。



「お会計は?」

「別々でお願いします」



 俺と成瀬が現金で払い終わる。

 次の同級生の会計に、俺と成瀬は衝撃を受ける。



「これでお願いします」

「カードはこちらにタッチして下さい」

「は~い」



(チャリ~ン)



「おい神宮寺、なにそのカード?」

「お父様がお買い物する時はこれ使いなさいって」

「今のは聞かなかった事にする」

「え?」



 2階のいつも座っている席に3人で向かう。

 いつものお店のいつもの注文。

 高校生になったからと言って、今さらいつもの注文を変える必要性を感じない。



「高木君、またハッピーセット?」

「これがコスパが一番良いんだって」


 

 2階の窓側の席。

 ここからは駅前に並ぶ祇園書店、店長の弟が経営するコンビニの駅前店が見える。


 俺の向かいに成瀬結衣と神宮司の2人が座る。

 窓側、いつも太陽が座っていた位置に成瀬。

 俺の向かいには神宮司が座る。

 話題は明日の日曜日、パンダ研究部の話に。



「明日楽しみ~」

「良かったですね葵さん。高木君」

「えっ?なに成瀬?」

「葵さんちゃんとお願いしますね」

「なんの話?」



 神宮司はハッピーセットについてきた『わくわく動物ランド』のオモチャが気になってしょうがない様子。

 そういえば明日、楓先輩もいなければ、美術部の成瀬がパン研のパンダツアーに来るわけもなく。



(ビビッ)



「シュドウ君やった!パンダきた!」

「まあ」

「やったな神宮司。それシークレットじゃん、当たりだよ当たり」

「シュドウ君は?」

「俺か、ちょっと待ってろ」



(ビビッ)



「あっ」

「ハリネズミ!」

「ふふっ。その子凄いとげとげしてるね」

「なんか縁起が悪いな」

「どうして?」






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





 映画館に到着。

 地元で唯一の映画館。

 俺は地元の民だが、ここに入るのは初めて。



「高木君こっち」

「成瀬は来た事あるのここ?」

「うん。あっ、葵さんそっちじゃありませんよ」

「え?」



 さっそく迷子発生。

 しまいには成瀬が神宮司と手を繋ぎ始める。

 大丈夫か明日の日曜日のパン研?


 映画館の販売所に3人で並ぶ。

 販売窓口は1番窓口から3番窓口の3つ。

 同じ2番窓口に3人で並ぶ。

 俺たちの番が来た。



「『転生したら三聖女の一人がうちの嫁さんだった件 伝説の農民編』で宜しいでしょうか?」

「お願いします」

「字幕と吹き替えどちらにされますか?」 

「成瀬、やっぱり字幕?」

「吹き替えだとお勉強にならないよ?」

「だよな~」

「いかがされますか?」

「字幕でお願いします」



 会計は個別。

 先に神宮司がパパのカードで素早く会計を終わらせる。



「これでお願いします」

「カードはこちらにタッチして下さい」

「は~い」



(チャリ~ン)



 成瀬は現金で払い終わり。

 最後に俺の会計で事件発生。



「わたしが払います」

「嘘だろ成瀬、俺が出すって」

「合格のお祝いだしわたしが払います」

「女の子に出させるわけにいかないだろ」

「わたしのカード使う?」

「その危険なカード早く財布に戻せって。これでお願いします」



 後ろの邪魔になるのでさっさと現金でお支払い。

 代わりにお菓子を買うと成瀬が言い始めたので甘える事にする。 

 中に入る前に姫たちが甘いポップコーンをお買い上げ。


 神宮司が満面の笑み。

 その様子を見ている成瀬も笑顔が止まらない。

 これから始まる映画に、俺も心が躍る。


 これはただの英語の勉強会。

 俺は勝手にそう思っている。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





~~~~高木紫穂 映画館内 ななめ上の席から兄守道を発見~~~~




 嘘でしょ!?

 詩織お姉ちゃん、家から出ないと思ってたらお兄ちゃん成瀬先輩とデートだったの!?

 

 ちょっと待って、隣にいるの成瀬先輩のクラスメイトの人!?

 2人挟んでお兄ちゃん真ん中とか信じらんない!?


 ケダモノ。

 嘘。

 本当信じらんない。




~~~~~~~~~~~~~~~~





(ブーーー)




 館内が暗くなる。

 映画の上映前。

 パトライトの頭の男が、警察官役に追い掛け回されている。

 映画の盗撮は犯罪らしい。


 映画が始まる。

 英語でしゃべってるが、スーパー字幕が出るから確かに勉強にはなる。

 やっぱり本場のアメリカ人が喋る英語って発音とかイントネーション全然違う気がする。


 ポップコーンを取る手が重なる。

 俺の右隣に座る神宮司葵。


 この子、左利きだったのか?

 慌てて右手を戻す。


 薄暗い中、神宮司の笑顔が薄っすらと見えてくる。

 視線を前に戻し、ふいに左隣にいる成瀬を見る。


 映画の上映中。

 なにも喋れない。

 成瀬が、俺の方を見て、笑顔を浮かべていた。


 なんで俺、この子たちに挟まれてんだよ。

 俺の脳みそがクラッシュする。


 頭の中に。

 映画の俳優たちが喋る英語の中身が、まったくと言っていいほど頭に入ってこなくなる。

 全然、勉強になんないよ。

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