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123.「梅雨空の下」

(ピコピコ~)



「アホヅラ」

「誰がイビョンホンだって?」

「死ねし」



 早朝、バイト先のコンビニにクラスメイトの岬れなが出勤。

 クルーの制服に袖を通し、俺のいるレジの隣に立つ。


 スポーツ大会があった先月5月。

 ショートヘアだった岬の髪が若干伸びつつある事にさすがの俺も気づいていたが、余計な一言を言うと怒られるので黙っておく事にする。


 余計な一言は悲劇を生む。

 失敗から学ぶ男、高木守道。



「雨ね」

「今日は傘が売れそうだな」



 6月に入り、梅雨入り。

 外はポツポツと雨が降っている。


 一時は野球を辞めるとすら言っていた朝日太陽。

 神宮寺楓先輩に尻を叩かれ、今日は朝から野球部の朝練に向かっているはず。

 楓先輩を甲子園に連れていくには地方大会でのベンチ入りが最低条件。

 太陽の挑戦は始まったばかりだ。


 平安高校の設備は充実しているらしい。

 雨の日は室内練習場でトレーニング。

 俺は雨でも雪でもバイトの毎日。



「おはよう高木ちゃん~」

「おはよう婆ちゃん。6月の新作これだけど買ってく?」

「頼むよ~」



 常連の産業スパイの婆ちゃんに6月の新作をおススメ。

 レジ横の和菓子を婆ちゃんに差し出す。

 6月は水無月という和菓子が新作。



「高木ちゃん、うちの文音ちゃんと心音ちゃん、同級生なんだってね~」

「ああ、あの双子の女の子でしょ?婆ちゃんとこの和菓子屋でバイトしてるんじゃないの?」

「私の孫なんだよ~」

「へ~ええ!?ウソでしょ婆ちゃん!?」



 この前屋上で襲われたS1クラスにいる双子の空蝉姉妹。

 まさか常連の婆ちゃんの孫だとは思わなかった。

 新作の和菓子を今日も買い、傘をさして帰って行く。


 仕事をしているとすぐに時間が経つ。

 岬は隣であくびをしている。

 あっという間に登校時間を迎える。



(ピコピコ~)



「お、おはようございます」

「末摘さんおはよう。岬?」

「う、うん」



 平安高校の制服を着た眼鏡女子。

 同じ部活の末摘花さんがバイト先に顔を出してくれる。



「岬、末摘さん来たよ」

「おはよ花」

「お、おはよう岬さん」



 部活もクラスも同じ2人。

 岬は茶髪でツンツンしてる分、いつもおどおどしてる末摘さんとのコンビは不思議な組み合わせに感じる。

 だが俺は知ってる。

 岬れな、意外に面倒見が良い。



「外で待ってな。今行くっしょ」

「う、うん」



 同じクラスメイトの2人はとても仲が良い。

 6月に入り、末摘さんが岬れなを朝迎えに来るようになっていた。


 同じS2のクラスメイトである俺。

 2人は俺より頭が良い。

 言い逃れようのない現実。

 テストの点数は、俺がS2クラスで一番低い。



「高木君、もうあがっていいよ」

「はい店長」



(ピコピコ~)



「いらっしゃ……」



 バイト先に現れたのは、もう出会う事が無いとすら思っていた人。



「守道さん」

「姉さん」



 ペコリと俺に一礼する。

 サラサラとした髪が流れるように肩から落ちる。

 蓮見詩織姉さん。

 なんで急に俺のところに。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





 朝、8時。

 ポツポツと雨が降る御所水通りを、2つの傘が並び進む。

 女子が持つ1つの傘は、紫色の傘。


 無言で歩く平安高校の制服姿の男女。

 その後ろをついて歩く2つの傘。

 


「ねえ岬さん」

「なに花?」

「高木君を迎えに来た人」

「ああ、あれ。あいつの姉さん」

「ええ!?高木君のお姉さん!?」

「動揺すんなし」

「全然似てないよ」

「あんた、結構正直ね」

「ち、違うの~」



 平安高校の正門前まで到着。

 前を歩く2人が歩みを止める。 



「守道さん、今日はここで」

「はい」

「試験」

「えっ?」

「合格おめでとうございます」



 合格?

 なんの事だ?



「これ」

「これって、合格証書?」



 英語能力検定4級。

 合格。

 小学生も受ける試験。


 大した喜びは感じない。

 中学生の妹の紫穂が受けるレベルの試験。

 合格して、当たり前の試験。

 

 半年前の中学生だった俺には超難関の試験。

 それほど半年前の俺は勉強をしてこなかった。


 大した喜びを感じない合格証書。

 合格して当たり前の試験。

 そう感じさせてくれるのは、この人のおかげ。



「蓮見先輩、おはようございます」

「ごめんなさい、もう行くわね守道さん」

「は、はい」



 詩織姉さんが先輩と呼んでいる人たちの輪へ入っていく。

 

 門の前には、生徒会の腕章を付けた人がたくさんいる。

 後ろを歩いていた岬と末摘さんが追いついてくる。



「高木君?」

「あ、ああ。末摘さん、岬もいたのか」

「なにボっーと見惚れてるし」

「うるさいな」



 これまでずっと姿を現さなかった姉さんが、突然どうして俺にこんな事をしてくる?

 理由が分からない。

 詩織姉さんは、いつも何を考えているのかまったく分からない。


 朝、平安高校正門の前には、生徒会の腕章を付けた生徒がたくさん集まっている。


 岬れな、末摘花さんと3人で正門をくぐる。

 その中に、腕章を付けた2人の女子生徒の姿。

 1人の女子が、俺の隣にいた岬れなに気づき声をかける。



「岬さん」

「面倒なのいたし」

「茶髪は校則違反です」

「うるさいし」

「言われてるぞ岬、俺もそう思う」

「あんたは黙ってな」



 まっとうな生徒会の意見に同調。

 茶髪は校則違反。

 そもそも校則を守る生徒が学内にいるのかは不明。

 破ったところで罰則がない。

 正直どちらでも良い。



「スカートも短か過ぎます」

「ウザ過ぎ」

「俺もそう思うぞ岬」

「あんたシメられたいわけ!」

「ひっ」



 まっとうな意見に同調した俺が余計な一言。

 岬れなの怒りが頂点に達する。

 怒った岬が先に校舎へ向かって歩き出した。



「待って岬さん」



 末摘さんが岬の後をついていく。

 岬は茶髪を校則違反だと注意された事がカンに触った様子。



「おはよう高木君」

「右京」



 S1の右京郁人。

 この正門前で最初に声をかけられて以来、スポーツ大会でも何かと目に付く隣のクラスの男子。



「郁人、この人」

「一ノ瀬、隣のS2にいる高木守道君だよ」

「あ~この間副会長に土下座してた浮気男じゃん」

「明石さん、口がお下品です」

「え~やだ~」



 右京郁人がS1クラスの生徒だって事はスポーツ大会で知っている。

 誰だよこの隣にいる2人の女子。

 右京と同じで、生徒会の腕章つけてるから、生徒会のメンバーには間違いなさそうだけど。


 浮気だの土下座だの、何を話しているのかまったく分からない。

 右京が呼んでるこっちの美人の女の子が一ノ瀬。

 こっちの口が軽そうな可愛い女の子が明石って子か。



「右京、なにやってるんだよお前ら?」

「朝の声かけ運動」

「ちゃんと挨拶しましょうみたいなやつか?」

「そういう事」

「良いなそれ」

「あはは、聞いた美雪?結構真面目でウケるんですけど」

「明石さんお口」

「え~」



 面倒そうな3人組。

 早めにドロンする事にする。



「じゅあな、遅刻する前に教室入れよ」

「あはは、美雪今の聞いた?」

「明石さん、あなたって人は」

「また話そう高木君」

「俺は話す事は何も無いからな」



 面倒そうな生徒会の3人組に目を付けられた。

 足早に校舎を目指す。


 右京郁人。

 こいつ、雰囲気が結城数馬に似ている。

 だけど数馬と違ってあの笑顔、なにか偽善者ぶってる気がしてならない。


 藤原先生の時もそうだ。

 こいつの話す事に俺は振り回されてる気がする。

 あまり相手にしたくないタイプの男子。


 校舎に到着する。

 雨が降っていたので傘をたたみ、傘入れに入れる。

 生徒の数だけ、色々な色の傘がある。


 目に付く紫色の傘。

 紫、未来ノートの1ページ目。


 この前おもむろに開いた相棒の1ページ目には英語の小テストの問題が映し出されていた。

 俺が驚いたのは紫色の答えまで浮かび上がっていた事。

 先月5月の中間テストでは、英語の問題は出ていたものの、紫色の答えまでは出ていなかった。


 4月には紫色の答えが出る事があった白い未来ノート。

 5月には問題だけ浮かび上がり、答えは出ないまま。

 そして突然、また紫色の答えが最近浮かび上がるようになっていた。


 藍色に変わった未来ノート。

 相棒は気まぐれ。

 問題が出ようが、答えが出ようが、ノートに意志があるかのごとく、出たり出なかったり。


 ラジオ英会話のレッスンは毎日続けている。

 俺の毎日のルーチンに組み込まれた英語のレッスンは欠かせない。


 山のように自宅にある現代文の問題集。

 神宮司妹の古文の問題集と合わせて、英語が終われば自宅で俺は勉強漬けの毎日。


 相棒は気まぐれ。

 未来ノートが白かろうが、藍色だろうが、気まぐれには変わりがない。


 ノートだけに頼れない。

 未来の問題が分からなくなった瞬間、俺はダメになる。

 自分の勉強を続けるしか手はない。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





(キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン)



 午前の授業が終了。

 昼休憩の時間を迎える。

 氏家翔馬と結城数馬がS2クラスの一番後ろにいる俺の席に来る。 



「守道、今日は雨やな」

「だな、屋上は今日はダメだな」



 外はシトシトと雨が降り続く。

 屋上は濡れていて座れない。



「ようシュドウ、おはようさん」

「もう昼だって太陽」



 隣のSAクラスから朝日太陽が勝手に俺のいるS2クラスに入ってくる。



「今日も行くか太陽?」

「そうだな」


 

 今日も行くのは第二校舎の購買部。

 総菜パンと菓子パンの争奪戦。

 戦いはすでに始まっている。



「シュドウ、今日は俺と翔馬で行ってくる。数馬とここで待ってろよ」

「だったら雨降ってるし、みんなでパン研来いよ。うちの部室、無駄に広いから」

「1階の旧図書館だな、分かった後で行く。行こうぜ翔馬」

「分かったで」



 翔馬は戦えない数馬の惣菜パン確保に協力してくれる。

 今日のS2クラスは雨で人が多く残っていた。

 雨で学生食堂も人が多いはず。


 無駄に広いパン研でお昼を過ごす提案。

 野球部の太陽と、サッカー部の翔馬のコンビに今日の争奪戦を任せる事にする。



「行こうか守道君」

「おう数馬」



 今日は数馬と一緒に屋上ではなく、雨をしのげるパン研に向かう事にする。



「数馬、腕はどう?」

「大分良いよ、もう練習始めても平気かも」

「無理すんなって!骨つくまで牛乳毎日飲めよ」

「ははっ、翔馬君に言われてすでに飲んでる」

「マジか」



 数馬のカルシウム補給は万全らしい。

 数馬と一緒に3階から階段を下へと降りる。

 話題は正門で今朝見た生徒会の話。



「僕も今朝、寮を出たら生徒会の人から挨拶されたよ」

「真面目だなうちの生徒会。校則ちゃんと守れって、朝から頑張ってたぜ」



 岬が茶髪を注意された事を数馬に報告する。



「はは、それは大変だ」

「だろ?もう岬カンカンに怒ってよ」

「なるほど、それで今日は機嫌が悪かったと」

「勘弁して欲しいよ。ただでさえ毎日機嫌悪いんだから」

「ははっ。岬さん、守道君には厳しいからね」

「毎日トゲが刺さりまくって大変なんだからな俺」



 校内はまるで動物園。

 牛どころか、ハリネズミもいればパンダもいる。

 1階奥の旧図書館に到着。


 図書館の奥にあるパン研が間借りしている一室に到着。

 数馬と一緒に部室に入る。


 目の前に南部長のデスク。

 今日も南部長のご機嫌うるわしゅう。

 我が子を見る目でパソコンに釘付け。



「部長、おっす」

「失礼します」

「あ~適当にしてって」



 部長が適当なので俺も適当に挨拶。



「うっーす」

「あっ、高木君と結城君」

「いたんだ2人とも」

「お邪魔します」



 岬と末摘さんが先にパンダ研究部に来ていた。

 岬はパンをほおばり、末摘さんは持参したであろう小さなお弁当を食べていた。



「末摘さん、それだけで足りるの?」

「う、うん。いつもこんな感じ」



 女子は小食。

 男子の俺たちには、あんな小さな弁当箱は信じられないボリュームの少なさ。

 絶対的に不足するカロリー。



「ちょっと後輩君!」

「うわっ!?なんです部長いきなり」

「入部希望者?」

「数馬は違いますよ」

「後輩君こっち」



 部長に呼ばれる。

 南部長が数馬の顔を見て怪しい笑みを浮かべる。



「今度生徒会の選挙あるでしょ?」

「そうなんですか?知りませんけど」

「生徒会長が決まって新体制になったら、部員名簿また出さないといけないの」

「だったら何です?」

「部費よ部費、部費が増えるの」

「部費?」



 パンダの部長が今度はブヒブヒ言い始めた。

 この前廃部の危機を脱したところで、今度は部費増額に向けた野心を口にする。

 

 自分の欲望に忠実なうちの部長。

 数馬の顔を見ながらよだれを垂らす。

 突然数馬に近づき、数馬の左手を両手で握りしめる。



「うち、入らない?」

「えっ?」

「ちょっと部長、数馬は野球部なんですって」

「マネージャーしてる楓ちゃんも真弓ちゃんも掛け持ちしてるよ」

「真弓先輩もですか?」



 数馬が南部長の勧誘に興味を示す。



「掛け持ち自由、月一の部会参加だけ」

「へ~そんな部活あるんですね」



 あるよここに。



「さあ、こちらにサインを」 

「ちょっと待て数馬、その契約書ヤバいからやめとけって」

「少し興味がある」

「クーリングオフ効かないぞそれ」

「守道君はここの部員だよね?」

「ダマされたんだって俺は」



 デート商法に引っかかった。

 さすがにそんな事は数馬には言えない。



「守道君、僕は常に新しい刺激を求めている」

「求める先が間違ってるって数馬」

「僕はこの腕だから、しばらく運動はできない」

「数馬……」



 結局怪我をして練習が出来ない結城数馬が、俺の入ったパンダ研究部に入部届を出してしまう。

 その様子を見ていた末摘さん。



「やったね岬さん、結城君もうちの部に入ってくれるよ」

「怪我してヒマなんでしょこいつ?」

「岬さん~」

「ははっ、岬さんは手厳しい。ここ座って良いかな?」

「結城君こっち座って」

「ありがとう末摘さん」



 同じクラスメイトの末摘さんの隣に座る結城数馬。

 岬は来るもの拒まずの様子。

 これでS2クラスから4人目のパン研部員が誕生してしまった。



「嬉しいわ~これで部費が増えるわ~」

「ちょっと部長、落ち着いて下さい」



 歓喜に沸きその場でクルクル回り始めた南部長。

 部長席の引き出しから、さっそく数馬にお菓子の支給を開始する。



「ポッキーとプリッツ、どっちにする?」

「じゃあポッキーで」

「はいどうぞ~」

「部長、数馬が太るからやめて下さいって」



(かつ かつ かつ)



 あれ?

 図書館に誰か入って来る音。

 太陽と翔馬、購買部の争奪戦終わったのかな?


 

「失礼します」

「ます」

「あら楓ちゃんに葵ちゃん、いらっしゃ~い」



 げっ!?

 神宮司姉妹じゃん。

 


「あっ、シュドウ君いた!」



 神宮司妹が俺の顔を見るなり駆け寄ってくる。



「シュドウ君、どうだった?」

「なんの話だよ」

「4級」

「ああ、あれな。ちゃんと合格してたよ」

「凄い!」

「楽勝だろあんなの」



 英語能力検定4級、神宮司葵も受験していた。

 この子の結果は聞くまでもない。



「結衣ちゃんが何が良いかって聞いてたの」

「成瀬がどうしたって?」

「シュドウ君はどうする?」

「知らないよ、なんの話だよ」

「じゃあ私が決めて良い?」

「好きにしろって」



 神宮司妹の言う事は、いつもまるで意味が分からない。

 俺と神宮司妹が話をしている隣で、姉の神宮司楓先輩が何やらうちの部長に届け物をしている。



「はい夕子」

「楓ちゃんありがと~」

「今度葵ちゃんお願いね」

「任されよ~」



 うちの南夕子部長と楓先輩は友人。

 2人がどう出会ったのか、俺は知る由もない。


 いつもなら第二校舎の中庭で優雅に歌会をしている楓先輩たち。

 梅雨に入り雨の時は、どこでどう過ごしているのだろうか?



「夕子、ちょっと葵ちゃんお願いできる?」

「任されよ~はい葵ちゃん~ポッキー」

「わ~」



 神宮司妹が南部長のエサに吸い込まれていく。

 楓先輩が俺に近づいてくる。



「守道君、少しお話宜しいかしら?」

「ええ、構いませんけど」

「ここでは、ちょっと……」

「図書館で話します?」



 パン研の部室は図書館の奥にある一室。

 数馬や岬がいる前では話しづらそうな楓先輩と一緒に、部室の外の図書館の机に2人で座る。



「ごめんなさいね」

「いえ、何です楓先輩?」

「その……朝日君と守道君はお友達なのよね?」

「ええ、そうですけど」

「朝日君、好きな食べ物とかあるのかしら?」

「はい?」



 太陽の事を突然聞かれる。

 話って、太陽の話らしい。



「基本何でも食べますよあいつ」

「そう」

「どっちかと言うと、甘いものより辛いものが好きですね」

「ちょ、ちょっと待ってて」

「はい?」



 楓先輩が席を立ち上がり、さっきまでいた旧図書館奥にあるパン研の部室に向かう。

 戻ってきた。

 なんか紙とペン持ってる。



「辛いもので良かったかしら?」

「え、ええ」




『メモを取り始めたこの人』




「お肉とか、お魚とか」

「あいつは肉ですよ肉」

「そ、そう」




『超メモってる』




「あ、あの楓先輩」

「ええ、なにかしら?」

「いえ、やっぱりなんでもないです」

「ごめんなさい、男の子とお付き合いした事なくて。何も分からなくて」



 なんだこれ。

 俺、今どうなってる?



「お姉ちゃん~」

「葵ちゃん」

「結衣ちゃんたち待ってるよ」

「葵ちゃん、そうね戻らないと。守道君、またお話お願いできるかしら?」

「え、ええ、俺なんかで良ければ」

「バイバイ、シュドウ君~」



 6月。

 梅雨入りし、雨がシトシトと降り続く。

 平安高校のお昼休憩は、まだ始まったばかり。

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