121.第13章サイドストーリー「朝日太陽は謝りたい」
「すまん数馬!!」
「もう頭を上げてよ朝日君」
「悪かった、俺が悪かった、全部俺のせいだ!」
「僕が内角をサバき損ねた、ただそれだけの話さ」
野球部の部室。
死球による負傷。
結城数馬の右腕はギプスで固定され、包帯が巻かれる。
会うなり土下座をして謝り始める朝日太陽。
「投げたのは俺なんだぞ!」
「打ったのは僕だ。僕がヘマをした」
「そんなわけねえだろ数馬!」
いつしか、お互い自分の方こそ悪いと口論に発展。
野球部の部室内で言い争いをする2人の1年生。
それぞれの1年生の後ろに立つ、3年生のマネージャー。
朝日太陽の背中に立つ、神宮司楓。
「朝日君、落ち着きなさい」
「う、うっす」
消沈。
神宮司楓の一言で黙り込む朝日太陽。
「続けて」
「はい……数馬。怪我をさせたのは俺のせいだ。それはハッキリと言わせてもらう、俺が悪かった」
冷静になった朝日太陽が詫びを入れる。
朝日太陽の背中に立ち、その姿を見た神宮司楓。
視線の先、結城数馬の背中に立つ成瀬真弓とうなずき合う。
「結城君」
「はい」
成瀬真弓。
結城数馬の背中から一言。
はいと返事をする結城数馬。
数馬の口が開く。
「朝日君、1つ君に頼みがある」
「なんだよ、俺に出来る事なら何でも言ってくれ」
口論していた1年生2人が、落ち着いて話を始める。
「続けて欲しい、野球」
「数馬……」
「今年の夏はもう無理だけど、僕は来年必ず戻ってくるよ」
結城数馬の右腕のギプス。
夏の地方大会には、間に合わない。
「甲子園、まだ諦めないで」
「数馬」
「チャンスはあるよ、君なら絶対」
1年生の出場機会そのものが厳しいハードル。
それを分かった上で託す、友への願い。
「僕の分も頼んだよ」
「か、か、かずまーーっ!!」
「ちょっと朝日君!?折れてるから抱きつかないの!」
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「行きましょう朝日君」
「楓先輩……うっす」
話が終わり、先に部室を後にする3年生の神宮司楓、1年生の朝日太陽。
部室の中に残る、3年生の成瀬真弓、1年生で怪我をした結城数馬。
「ちょっと結城。あんたちょっと甘すぎるんじゃないの?」
「ははっ、これは手厳しい」
「もっと言ってやんなさいよ。やられ損でしょ?」
「いえ、そうでもありません」
神宮司楓と朝日太陽に遅れて、成瀬真弓と結城数馬が部室の外へ出る。
「あんたは病院」
「はい」
「お母さんたちに怒られたでしょ?」
「はい」
「わたしの言う事、ちゃんと聞く」
「はい」
(ガチャ)
部室を出る2人。
常勝園グラウンドで練習をする球児たちの声。
(「イチ!ニ!サン!シ!」)
(「ゴー!ロク!シチ!ハチ!」)
(「ニー!ニー!サン!シ!」)
(「ゴー!ロク!シチ!ハチ!」)
同じ部の球児たちが練習する光景を眺める、結城数馬。
「結城、腕治るまで我慢だよ」
「分かってます」
「悔しい?」
「かなり」
「つらい?」
「平気です。あなたが一緒なら」
練習を続ける球児たちを背に、グラウンドを後にする2人。
地方大会がある7月まで残り2カ月を切る。
ベンチ入りを目指す、球児たちの熾烈な競争が続く。




