112.第12章サイドストーリー「氏家翔馬はあきらめない」
俺の名前は氏家翔馬。
平安高校1年生、特別進学部S2クラスの生徒や。
平安高校の学生寮で暮らしとる。
学生寮の朝は早い。
学生寮にはいくつかルールがある。
集合時間ゆうて、早よう起きて寮の外で毎朝ラジオ体操や。
この時間なると、男子学生寮に住む全員が寮の1階に降りるんや。
俺も部屋で着替えて学生寮の1階に降りてくる。
「おはようございます」
「おはようございます!!」
この人は男子学生寮の寮長さん。
俺たちを実の息子のように思ってくれとる優しい人や。
寮の食堂にいる俺たちの母さんと一緒、寮長さんも県外から集まる俺たちみんなから慕われとる。
「おはよう翔馬君」
「おはよう数馬」
最近、あるクラスメイトと仲良ようなった。
結城数馬。
俺のダチや。
平安高校に入学してからずっと1人でおったが、最近こいつと出会ってからは寮の中でようさん話するようになった。
「眠いね~翔馬君」
「そやな」
話し相手が出来て嬉しい。
守道と数馬は、俺にとって大事な友人や。
朝のラジオ体操が終了。
すぐに全員で学生寮の掃除に取り掛かる。
今日は数馬と一緒に男子学生寮1階を清掃する。
掃除が終わると、1階の廊下にある清掃点検表にチェックや。
この前チェックするの忘れて、寮長さんに叱られてしもうた。
ちゃんと掃除をしても、点検表へのチェックを忘れたらやっていないのと同じこと。
この男子学生寮に住む限り、ルールは守らなあかん。
朝の掃除が終わって、数馬と2人で食堂に向かう。
1階の奥にある大きな食堂、俺たち寮生の母さんがいる厨房が見えてくる。
「おはようございます」
「おはよう翔馬ちゃん。はいどうぞ」
「おおきにお母さん」
「は~い数馬ちゃん」
「ありがとうございますお母さん」
県外から集まる生徒が集うこの男子学生寮。
この食堂では牛乳が飲み放題になっとる。
ここに来てから、俺は毎日牛乳をたくさん飲んどる。
「翔馬君、牛乳好きだよね」
「お前も飲めや数馬」
「はは、じゃあいただこう」
俺は背が低い。
サッカー部に所属しとるが、控えに甘んじとるんわ背が低いからや。
まずは食生活から改善する。
少しでも良いと言われている事は、どんな事でも試してみるつもりや。
「このグラタン美味しいね」
「そやな」
数馬と仲良ようなってからは、朝学生寮で2人で毎日食べるようになった。
数馬も俺も、県外からここに来とる。
「なあ数馬。お前なんで神奈川からわざわざここに来たんや?」
「もちろん野球をするためだよ」
「野球するだけなら地元で十分やろ?」
「ははっ。気になる人を追いかけてきたら、いつの間にかここにいてね」
こいつの気になる人って誰の事だ?
女か?
「わざわざ一般入試受けてまでする事かそれ?」
「受けたらたまたま合格出来ただけの話さ。野球は好きだから続けてる」
「俺も一緒や」
「へぇ~奇遇だね~」
「そやな」
俺たちはスポーツ推薦で入学したわけじゃおまへん。
特別進学部の授業はハードや、勉強時間は部活が終わってから夜やるしかない。
「翔馬君、サッカーは好きかい?」
「めっちゃ好きやねん。数馬は野球好きか?」
「もちろんさ」
俺はサッカー部。
数馬は野球部。
「数馬の野球部、レギュラーいつ決まんねん?」
「もうすぐ甲子園に向けて紅白戦が予定されてる」
「決まんのかその結果で?」
「まあね」
野球部の紅白戦の話をする数馬。
「翔馬君は、その」
「俺はまだ諦めとらんで、いつまでも補欠はいやや」
「なれたら良いね、レギュラー」
「お前もな数馬」
これからそれぞれの部活で朝練が始まる。
食事を終えて立ち上がる2人。
それぞれの戦いの舞台へ向かう。
「ほな」
「行きますか」
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夜。
野球部とサッカー部の練習がそれぞれ終了する。
学生寮の1階で出会う氏家翔馬、結城数馬。
「数馬、お疲れさん」
「そっちもお疲れ翔馬君」
「お前はいつも爽やかなやっちゃな」
「はは、守道君にも良く言われてる」
「ははは、あいつの言いそうな事や」
1階奥の食堂で食事を終わらせる。
続いてお互いの部屋に戻り、再び1階へ。
洗濯機がたくさん置かれた部屋で再び出会う2人。
「洗濯面倒くさいな~。家じゃ全部おかんにやってもろうとったしな~」
「まったくだね。あと部屋干し禁止は僕にはちょっと辛いかな」
「数馬、青いパンツばっかやな」
「おっと、これは秘密に」
男子学生寮のルール。
部屋干し禁止。
学生寮の一角に洗濯物を干すスペースがある。
そこで洗濯物を干す。
「翔馬君、ちゃんとパンパンしないとシワになるよ」
「面倒くさいからええて」
「そういうところ、意外に女子は見てるよ」
「ほんまかそれ!?じゃあパンパンするわ」
「ははっ」
シワ防止にパンパンを始める高校生2人。
(パン!パン!)
「翔馬君、この後勉強一緒にどうだい?」
「ええな。なに勉強する?数学?」
「日本史はどうだい?」
「明日日本史の授業ないやろ」
「ははっ。準備はいつだって念入りにね」
「一体いつの準備や数馬?」
深夜の男子学生寮。
県外出身者が集う学生たち。
結城数馬の部屋に招かれる、氏家翔馬。
「お前の部屋、日本史の問題集ばっかしやな」
「さあ、始めようか翔馬君」
「何を始めるんや?」
「もちろん日本史の勉強さ」
「だから明日、日本史の授業無いって言うてんねん」
氏家翔馬。
結城数馬。
平日の真夜中。
2人の高校生の日本史の勉強がスタートする。




