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11.「突然モテ始めた俺だけど」

 どういう事だ?

 どうして未来ノートに問題が出なくなってる?


 確かに俺は学力テストがあるなんて知らなかった。

 平安高校の入試が終わってから未来ノートを開いたのは今日が初めてだ。


 なんで明日の学力テストの問題が未来ノートの1ページ目に映し出されていないんだ?

 理由が分からない。

 平安高校の特別進学部への入学を果たして、未来ノートに見放されてしまったのか?


 明日の学力テスト。

 実力だけじゃ、明日の学力テストで良い点数なんて絶対取れやしない。

 俺に得意科目なんてものは存在しない。

 

 おまけに明日さっそく行われる『国語総合』の科目。

 初めて聞く科目。

 『古文』?

 なんだよそれ?


 まだ習ってもないのにできっこない。

 問題なんて解けるはずがないじゃないか。

 

 明日の5科目。

 『国語総合』『数学』『英語』『理科』『現代社会』の各100点。

 合計500点満点。


 それに加えて習ってもいない『古文』だって?

 頼むから教えてくれ。

 助けてくれ。

 俺の未来ノート……。


 えっ?

 ちょっと。

 どういう事だ?


 やみくもに開いた未来ノートの1ページ目。

 なんか見た事のないような、日本語のような文書が突然現れた。


 ちょっと待て。

 なんだよこれ。

 なんだよこの問題。

 未来ノートが突然復活した?


 2ページ目・3ページ目をめくる。

 なにも書かれていない。

 真っ白。

 

 1ページ目だけ変な日本語の文書。

 しかも何かの問題っぽい。


 理由が分からない。

 ノートはなんで学力テストの問題すべてを表示してくれない?


 習ってもいない古文だってこのままじゃあ……。

 そうか、きっとこれだ。


 この未来ノートの1ページ目の変な日本語の問題。

 今まで一度も見た事ない。

 古文の問題なんだよきっと、明日の学力テストに出る。



「ようシュドウ」

「た、太陽!?何でお前がS2に来てるんだよ!」

「俺これから野球部の入部テストだからさ。ラッキーボーイのお前の幸運を頂きに来た次第さ」



 いきなり俺の目の前に現れた朝日太陽。

 勉強ばかりしてきたであろう、ガリ勉女子たちからカン高い歓声が上がっている。


 それもそのはず。


 引き締まった筋肉を併せ持つ超良い男でしかない。

 しかもルックスも最高。

 それでいて学業も優秀な文武両道と分かっているSAクラス選抜の筆頭が、冴えない俺の隣にいきなり現れた。


 クラス中の眼鏡女子たちは悲鳴を上げる。

 もう良いから、さっさと俺の前から消えてくれ太陽。



「早く行けって太陽。俺のクラスの女子たちが興奮してるだろ」

「何だよそれ?」



 俺の祈りが通じたのか、早めに野球部のテストに向かうと言い始めた太陽が、クラスをかき乱すだけかき乱してS2クラスから去って行った。


 俺にはまったく余裕が無い。

 明日の実力テストまであと何時間猶予がある?


 今さら実力で勝負したところでなにがどうなる?

 さっき未来ノートで出たあの変な問題。


 このままじゃあ。

 どう背伸びしたところで赤点必死。



「高木君」

「げっ!?成瀬」

「げ、とか酷いよ高木君」

「お前こそなんでS2に来てるんだよ。ここはS2だぞ成瀬、早く元のクラスに帰れって」

「どうしてそういう事言うの?」

「お前がここにいたら、俺のクラスの男子たちが興奮するだろ?」

「なにそれ?」



 勉強ばかりしてきたであろう、ガリ勉男子たちから歓声が上がっている。


 それもそのはず。


 成瀬はS1クラス、俺たちS2の一般入試組が辿り着く事は無かった違う世界の秀才女子。

 しかもルックスも最高、超可愛い。

 成績もトップクラス、S1クラス筆頭の美少女が冴えない俺の隣にいきなり現れた。


 クラス中の男子たちがすでにこちらを見ながらヒソヒソ話を始めている。

 もう良いから、さっさと俺の前から消えてくれ成瀬。



「S2も明日学力テストあるんだね」

「S1もあるのか成瀬?」

「そうだよ」



 この平安高校の特別進学部。

 登校初日からテストの嵐が吹き荒れている。



「朝日君行っちゃったね」

「えっ?あ、ああ。今日野球部の入部テストのためにあれだけ練習頑張ってたもんな」

「そうだね……ねえ高木君。明日学力テストもあるし、朝日君の入部テストの時間まで一緒に図書館で勉強しない?」



『一緒に図書館で勉強しない?』

『一緒に図書館で勉強しない?』

『一緒に図書館で勉強しない?』



 嘘だ。

 信じられない。

 平安高校のS1クラスの成瀬が、さも自然に俺を誘う。


 ちょっと落ち着け俺。

 俺と成瀬はもう出会って7年目。

 昨日今日の仲じゃない。


 成瀬の自然な発言に、知らないクラスメイトたちのヒソヒソ話す姿が俺の視界に見えている。

 マズい。


 確かに成瀬と一緒勉強したいのは山々なんだけど。

 最近また一層可愛くなったよな成瀬。

 制服も可愛いし、笑顔も可愛いし、って違う!


 それが問題なんだよ。

 成瀬がいると勉強に集中できない上、何より明日の学力テストの予習が出来ない。



「ねえ高木君?」



 成瀬が耳にかかる髪を右手で拭い耳を出す。

 可愛らしい仕草。

 やる事成す事、何から何まで可愛い。


 って違う。

 今は成瀬を観察してる場合じゃない。


 このままだと俺は()む。

 明日詰む。

 きっと詰む。



「悪い成瀬、ちょっと外で話そう」

「う、うん」



 S1クラスからさも自然に俺のいるS2クラスに入ってきた成瀬結衣。

 秀才美少女は噂の的。

 成瀬はその点鈍感だから、俺と成瀬がどんな関係なのか知らないクラスメイトの格好の餌になってるのに気づいていない。


 今日の授業はもうおしまい。

 これから2人で廊下で特別授業。


 荷物を持って成瀬と一緒に教室の外に出る。

 未来ノートに印字された問題。


 後でちゃんと調べるけど。

 あれはきっと俺がこれまで習ったことが無い『古文』の古典問題に違いない。

 『国語総合』に含まれる問題の一部。


 一部とはいえ。

 まったく勉強しないで臨むよりはずっとマシ。


 さっきの先生の話。

 さすがに俺も超焦ってる。


 1分1秒でも早く正答を導き出す必要がある。

 おそらくの『古文』の問題。


 それを必死に調べている俺の姿。 

 成瀬にその姿を見せるわけにはいかない。

 ノートに書かれた問題の答えを必死に調べようとしている姿を成瀬に見られてみろ。

 

 この人一体何してんの?って思われる。

 間違いない。

 絶対だ。



「どうして?何で一緒に勉強してくれないの?」



 とりあえず廊下に連れ出した成瀬からストレートな質問が飛んでくる。

 俺の目の前に超美少女に成長してしまった可愛い幼馴染。


 もう小学生じゃないんだよ俺たち。

 高校で男女2人仲良くおしゃべりとか、さすがにちょっとは自重してくれ。



「一緒にしよ?」

「うっ」



 それでも誘う事をやめない可愛い成瀬。

 俺を図書館へ誘ってくる。

 中学生の頃はこんなに積極的に誘ってくる子じゃなかったはずなのに。


 口下手な俺が上手く成瀬を説得できるはずも無く。

 ただ一緒に勉強したくないとだけしか思われていないようだ。

 

 元々優しかった成瀬が、あのボタンの掛け違いの一件以来、より優しく接してくれるようになっていった。

 平安高校合格したあの時も、クッキー作って家に持ってきてくれるっていきなり言われて。


 約束の時間になっても家に来ないから心配してたら、1時間遅れで家にやってきた成瀬。

 玄関開けたら慌てた様子の彼女がいた。



『どうした成瀬!?』

『高木君ごめんなさい』

『なにがあった?』

『お砂糖切らしちゃってて』

『マジか』



 手作りクッキーが用意できなかったうえ、約束の時間に遅刻して、連絡できなくて。

 とりあえず家まで来てクッキーが用意できない事情を俺に報告。


 わざわざ家まで失敗の報告に来た成瀬。

 俺と成瀬の仲なんだから。

 明日ごめんねって言えば済む話なのに。

 本当に律儀な女の子。

 


「高木君?」



 そんな事思い出してる場合じゃない。

 俺が女の子から誘われるとか、平安高校に入学して突然モテ始めたとすら勘違いしてしまう。


 余裕がまったくない俺が一緒に行かないと断ると、成瀬はひどく落ち込んだ様子。

 わざわざ教室の外に出たのが逆効果。


 廊下のギャラリーが徐々に増えていく。

 見世物じゃないんだよマジで。


 これじゃまるで。

 他のクラスの生徒からも、俺が成瀬をいじめているようにしか見えないじゃないか。



「どうして?」

「……」



(ざわざわ)



 マズい。

 非常にまずい。

 S2のクラスメイトはおろか、他のS1やSAクラスのギャラリーまでますます増えている。



「成瀬、ちょっとこっち」

「う、うん……」



 成瀬を連れ校舎の中を適当に突き進む。

 その後ろを黙ってついてくる、幼馴染の成瀬。

 階段の踊り場に到達、周りから見えない死角。


 こんな人目のつかないところに女の子を連れてきてしまったが、学力テストが明日に迫る俺にはそんな事を考えている心の余裕がまったく無い。


 先に話してきたのは成瀬の方だった。



「やっぱり高木君……私の事、嫌いだから?」

「そうじゃない」



 違う。

 どちらかと言えば成瀬の事は超好きだ。


 成瀬のやつ。

 相変わらず告白失敗した日に、俺に頼んだの根に持ってるな。

 あの事はもういいって何度も言ってるのに。

 

 相変わらず可愛い。

 違う、そうじゃない。

 今伝える事はそんな事じゃなくて、とにかく成瀬とは別々に1人で自習がしたいんだよ俺は。


 問題もう分かってるけど、答えがまったく分かっていない。

 このままだと宝の持ち腐れ。

 明日古文のテスト受けたら、未来ノートと同じ色に、真っ白の解答用紙に染まってしまう。

 今から全力で予習して、解答調べないといけないんだよ俺は。



「成瀬。俺、今までお前に黙ってた事がある」

「うん」



 1秒でも早く予習を始めないと俺が詰む。

 早く成瀬と別れたい。



 心の余裕が無くなった俺はこの登校初日に――。


 成瀬にとんでもない事を言ってしまった――。




「成瀬、俺たち太陽と3人でよく遊んだだろ?」

「うん」

「お前は楽しかったか?」

「楽しかったよ」

「俺も超楽しかった。でも俺と成瀬の楽しいは大分違ってた」

「どういう事?」

「俺は3人で話してるのも楽しかったけど。可愛くなったお前のその顔、ずっと眺めてるのが楽しくて楽しくてしょうがなかったんだよ」



 時間が無い俺が真面目に話をしているのに、成瀬は突然顔を真っ赤にして両手で顔を塞ぐ。

 

 早く全力で予習に取り掛かりたい俺には時間という余裕がまったくない。

 素で解答に辿り着ける秀才の成瀬と違って、俺にはまったくもって一片の余裕も無い。



「だからだな、その、成瀬」

「なに、なに?」

「お前が俺の席の前にいると、俺はお前が気になってしょうがないから勉強に手がつかなくなるんだよ」

「なによそれ」

「真面目に聞けって成瀬」

「分かんないよそれ高木君」

「だから俺が言いたいのは、お前がいると勉強出来なくなるって言ってるんだよ。悪いけど俺そういう事だから1人で勉強したいんだよ。じゃあな成瀬」

「ちょっと待って高木君」



 言いたい事を言い終え、成瀬を置いて図書館へ1人で向かう。

 平安高校という身の丈をはるかに超える進学校。

 もう来るところまできてしまった。


 成瀬になんと言われようと、もう彼女にかまっている時間は俺には1秒も無い。

 俺に明日、習ってもいない古文の問題を素で解かせるつもりか成瀬は?


 学力テストは古文だけじゃない。

 全然分かってない英語だって数学だって理科も社会も全部だよ。

 早く早く勉強しない。

 せめて赤点だけでも回避しないと終わってしまう。


 成瀬結衣。

 小学生の時からずっとずっと思ってたけど。

 なんでこの子、こんなに可愛くなった?


 彼女の可愛い顔は3時間眺めていても飽きる事が無い悪魔の可愛さだ。

 小・中学校6年間、ついに今年7年目に突入し、どんどん可愛く成長していく成瀬結衣という女の子。

 眺め続けてきた俺には分かる。


 今この子を図書館で、俺の目の前の席に座らせてみろ。

 目が合うと成瀬は間違いなくニコリと笑い、俺の精神を崩壊させる。


 そうなったら俺は終わりだ。

 日付を跨いでもなお、成瀬の可愛い顔がループする。


 俺は明日古文の問題に屈し、学力テストの古文のテスト中、間違い無くモンモンとした時間を過ごす事になる。


 一歩間違えば赤点2連発、すぐに総合普通科まで転落必至。


 さようなら成瀬結衣。

 俺は今、図書館へ1人で向かうという、正しい選択をしたに違いない。




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